Apple Watchのない生活は、計器盤のない車のよう
こういったライフタイムで関係してくる機能は、長い間、企業が同じスタンスで取り組んでくれるかどうか? ということが重要になる。
筆者が、2015年にApple Watchで計測し始めたヘルスケアデータは9年を経て、今も同じアカウントに蓄積されている。
最初はそれほどたくさんのデータではなかったが、その後、歩行、心拍、血中酸素濃度、睡眠……など、膨大なデータを1日24時間取得し続けてくれている(ちなみに、起きてる時はUltra 2、寝るときは旧型を使ってる)。今では、歩行の左右バランスがくずれていたら通知してくれるし(脳梗塞の前兆)、心拍の不調も知らせてくれる。筆者は毎日、睡眠の質の良さなども観察している。上記のデータで急に変化があったら通知が来る。またアクティビティも計測しているので、1kmを何分で走れるかも分かってるし、歩いたら何分かかるかも知っている。
ちなみに、私は普段は1kmを6〜7分で走る。3km走っての最速は4分/kmぐらい(ランニングを頻繁にしてた一昨年の数字なので、今は無理)。10kmだと5/km分弱。早足で歩くと12分/km。ゆったり歩くと17分/km。こういうことを把握していると、自分の身体の調子がわかる。
もはや、Apple Watchなしで生活するなんて、メーターや警告灯のない車を運転してるようなものだと思える。
余談だが、Apple Watchに備えられたモーションセンサーで、ユーザーがどういう動作をしているのかはかなりの精度で把握できるらしい。たとえば、歩いているのか、走っているのか、踊っているのか、料理をしているのか、本を読んでいるのか……みたいなことも把握できるようだ。さらにモーションセンサーの付いた新しい世代のAirPodsと組み合わせると、より動作把握の精度が高まるらしい。
そんなApple Watchがさらに進化した。また、AirPods Pro 2にもヘルスケアの機能追加があった。
Apple Watchで睡眠時無呼吸の計測が可能に
Apple Watchに追加された機能は睡眠時無呼吸の通知だ。
睡眠時無呼吸は睡眠中に一時的に呼吸が止まり、身体が十分な酸素を取り入れられなくなる症状。この症状は世界中で10億を超える人々が関係していると言われ、そのままにしていると、高血圧、2型糖尿病、心疾患のリスクが高まるのだそうだ。
『呼吸の乱れ』は先に述べたように睡眠中に加速度センサーを使って、睡眠中の正常な呼吸パターンの中断に関連する手首のわずかな動きを検出するという。これは短期間で計測されるわけではなく、30日ごとにデータを分析し、中程度から重度の睡眠時無呼吸の兆候が見られる場合には通知されるのだという。
手首の動きで呼吸の乱れが検知できるなんて驚きだが、よく考えたら、レム睡眠とかコア睡眠とかが検出されるぐらいなのだから、よっぽど微細な動きや特定の動きを検出できるようになっているのだろう。
睡眠時無呼吸の通知のアルゴリズムは、大量の臨床レベルの睡眠時無呼吸検査の大規模なデータセットを機械学習させて導き出されたのだそう。臨床研究では、検出された参加者全員が軽度以上の睡眠時無呼吸だったから驚きだ。
実は、筆者の妻がたまに睡眠時に呼吸が止まっているような気がしている。しかし、なにぶん睡眠時のことだから、本人は自覚がないし、病院に行ってもどうやって説明したらいいのか分からないし、そのままになっている。『呼吸の乱れ』機能がローンチされたら、妻に試してみてもらおうと思っている。Apple Watchで検出されたら、病院に行っても説明しやすいと思うのだ。
ちなみに、この機能は近日中に認証を受けて、利用可能になるのだそうだ。利用には、Apple Watch Series 9、10、Apple Watch Ultra 2が必要とのこと。
誰にでも同じように聞こえてるわけでも、聞こえ続けるわけでもない
ViXionのViXion 01という視覚をサポートするデバイスがある。これを試した時に、「タクタさん、普通に見えるのが当たり前と思い過ぎ」と言われた。たしかに、筆者は若い頃は視力が2.0だったし、今なお老眼が入ってきたとはいえ0.7以上の視力を維持してる。夜も比較的見える方だ。しかし、取材して周りの人に聞くと、さまざまなカタチでの視力の低下と折り合いをつけながら生活している人が多いと知った。
同様に、耳についても両耳で完調に聞えている人ばかりではない。意外と「実は片耳があまり聞こえてない」という人は多いし、なんらかの聞こえづらさを抱えている人は少なくない。もちろん、『難聴』と診断されるようなレベルだと医療の問題だし、補聴器を使うことも考えなければならないだろう。
しかし、そこまででなくても「ちょっと聞こえづらい」を抱えている人は少なくないようだ。また、祖父母や親族を見ていても、高齢になると耳が遠くなるのは、ある意味当たり前だろう。
AirPods Proがノイズキャンセリングに逆位相の音を出したり、外部音をキャンセルしたり、人の声だけを残したりしているのを見ると、「これって、聴力の補完に使えないのだろうか?」と思っていたのだが、まさにその機能が追加される。
AirPods Pro 2で計測して、AirPods Pro 2でサポート
まずは予防機能。AirPods Pro 2は、毎秒4万8000回の早さで周囲の音を捉えてそれが大き過ぎる音であれば逆位相の音を出して打ち消すことができる。『大きな音の低減』機能はデフォルトでオンになっている。
次に認知。AirPods Pro 2は、iPhone、iPadと連動して、臨床レベルの聴力検査を行うことができる。検査にかかる時間は約5分。結果は、プライバシーを保護した状態でヘルスケアアプリに保存され、必要に応じて医療機関と共有して相談することができる。
さらに補助。AirPods Pro 2は、軽度から中程度の難聴が認められる人に向けて、処方箋不要でヒアリング補助機能が追加できる。つまり、ノイズキャンセリングと逆の動作をして、入ってきた音を補強できるということなのだろう。
テストに基づいたプロファイルが適用されると、外部音にも、音楽、映画、ゲーム、通話にも自動的に適用され、すべての音が聞き取りやすくなるとのことだ。
また、難聴の度合いが小さい人や難聴のない人でも、通話中の会話やサウンドトラックの楽器の特定の部分のみの音量を大きくしたりすることができるとのこと。なんだかここまでいくと、デバイスで『聞く』という能力が拡大されるように思える。
先に書いたViXionもそうだし、AirPods Pro 2のヒアリング補助機能も、我々の能力の衰えや、もとからある差違を、デバイスが補完してくれる世の中がやってきたことを感じる。Vision Proを使っている時にも、視力の合焦範囲がサポートされているように感じることもあるのだが、将来的にVision Proに望遠レンズや、マクロレンズが搭載されたら、我々は『超視力』を手に入れたように感じるのかもしれない。
誰にとっても、関係のあるお話
アップルは、地道にアクセシビリティ機能を充実させていることも知っておきたい。一度、設定アプリのアクセシビリティを開いてみていただきたい。たとえば、弱視だったり色弱だったり、手が不自由だったり……などの何らかの障害があってもiPhoneを使えるようにするための機能がたくさん備えられて、今も改善されている。
iOS 18では、インカメラを使った視線トラッキング機能が追加される。パブリックベータで試してみたが、それなりに便利に使える。もちろん、(完全に目が覆われた状態で)条件のよいVision Proの視線入力ほど正確に動くわけではないが、それでもこの機能があるおかげでiPhoneを使えるようになって自由に、さまざまなことができるようになる人がいるのかもしれないと思うと、なんだか胸が熱くなる気がする。
いつかは我々だって歳を取るし、病気やアクシデントでスマホを思い通りに扱えなくなることがあるかもしれない。いや、そういう日はおそらくきっと来る。そんな時でも、うろたえずにデバイスの助けを借りられる未来が来るのではないかと期待している。
(村上タクタ)
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