【世界が認める日本の先駆者たち③】「ムーンアイズ」ワイルドマン石井|ピンストライピングを広めた第一人者。

もしこのヒトがいなかったら……。身近にあるカルチャーやプロダクツが、たった一人の日本人が先駆けとなったことで、世界に大きな影響を与え、文化を築き上げていた。そんなレジェンドと呼ぶに相応しい賢人たち7名の今と昔を取り上げていく連載第3弾は、独学でキャリアをスタートし、ピンストライプを日本に伝えたワイルドマン石井さん。アメリカンカーカスタムに魅了された看板職人の若者が、筆一本で日本のカスタムカルチャーを変えたその軌跡を追う。

日本のモーターカルチャーにピンストライピングを広めた第一人者。

アメリカのクルマやバイクのカスタムシーンでピンストライプが確立されたのは、戦後好景気に伴いあらゆるモノに豪華絢爛なデザインが取り入れられた’50年代。華やかな装飾性が好まれる時代のクルマや家具などを彩るテクニックとして誕生した。

一方、日本で一般にピンストライプが浸透したのは’90年代後半頃。これだけアメリカ製のモノが溢れる日本でもピンストライプの技術が海を渡るのには約40年以上の時間がかかったのだ。

そして、そのピンストライプを日本に輸入した張本人となったのが、ムーンアイズに所属するピンストライパー、ワイルドマン石井さんである。石井さんは日本で初めてのピンストライパーとして、その道を切り開き、今でもカスタムシーンの第一線で活躍している日本を代表するアーティストだ。

石井さんの事務所の壁には過去に描いた原画が所狭しと並んでいる。ピンストライプからグラフィック、レタリングなども得意とするため、クルマやバイクのペイント以外に、海外のショーなどのフライヤーを手がけることも多いと言う

石井さんがピンストライプを始めるきっかけになったのは、クルマのボディに描くピンストライプやレタリングペイントを確立させ、ロウブロウアーティストの重鎮として知られるエド・ロスの存在だった。

1989年にムーンアイズが主催するストリートカーナショナルズのゲストとしてエド・ロスが来日し、観衆の前でライブペイントを披露した。石井さんは当時、一般客としてショーを見にイベントに参加したところ、そこで初めてフリーハンドでクルマに描くピンストライプを目の当たりして感銘を受けたと言う。

当時の石井さんは街の看板屋に勤め、偶然にも筆とクルマを使って商用バンやトラックなどに店名などを描いていた。当時からアメリカンカーカルチャーにのめり込んでいた石井さんはそのライブペインティングに衝撃を受けた数カ月後には、独学でピンストライプをスタート。また、ほぼ同時期にムーンアイズの代表である菅沼社長から言われた「筆一本で億万長者になれるぞ」という誘い文句を信じて、ムーンアイズにピンストライパーとしての就職を決意した。

「当時は今のように情報をネットで簡単に得ることもできないし、日本では教本なんてなかったので、クルマ雑誌などの見よう見まねでひたすら練習しましたね」

その翌年にはアメリカのユタ州までエド・ロスに会いに行き、約一週間生活を共にする中でエド・ロスが持つ世界観を学び、日本に持ち帰ってきた。石井さんの“ワイルドマン”というニックネームもこの時エド・ロスに命名されたものだと言う。

ちょうどこの少し後には’92年から始まったホットロッドカスタムショーの影響もあって、日本のカスタムシーンは技術・人気ともに急速な成長を遂げている。それと同時にピンストライプが浸透し、石井さんの他にもピンストライプを描くアーティストが増えてきたのだと言う。

エド・ロスから学んだ「ピンストライプはあくまでもクルマをカッコ良く見せるための引き立て役」という言葉を胸に、石井さんは今でも世界各国を飛び回り、クルマやバイクにピンストライプを描き続けている。いまや世界の中でもカスタムシーンの先進国となった日本。石井さんが看板屋からピンストライパーへ転身して、筆一本で日本のカスタムカルチャーに与えた影響は計り知れないものなのだ。

本国ムーンアイズがデュース・クーペをベースに製作したランドスピードレーサー。レタリングやピンストライプは石井さんが担当

SO-CALカルチャーをベースとした多彩なペイントワークを拝見!

バグスタイルのビートルにはドアノブやボンネット、ヘッドライト周りなど、全身にボディのフォルムを生かした丸みを帯びたピンストライプが描かれる。車名のレタリングはシルバーリーフを使用。

ムーンアイズが製作したドラッグレーサー。ゴールドリーフのレタリングの周りにはボディのアウトラインをなぞるようにピンストライプが走る。さりげないが、車体の雰囲気を引き締める効果は抜群だ。

石井さんのフィールドはクルマやバイクのみならず、スニーカーやスマホケース、雑貨、看板など塗料がのるものならなんでもあり。

ムーンアイズがプロデュースするトライアンフ”KaliforniaLime” とハーレーの”Orange Krate”をデザインしたジップアップフーディ。

ムーンディスクを装着したホイールなど、ムーンアイズ製のパーツとピンストライプを組み合わせた独特なグラフィックが映える。

「ムーンアイズ」ワイルドマン石井さんのヒストリー

1984年 横浜市の看板屋に就職。商用トラックなどに店名を描く仕事が多かった。
1986年 ムーンアイズジャパン創業。この頃石井さんは一般のお客さんだった。
1989年 春の第三回ストリートカーナショナルズにエド・ロスが来日し、初めて生でピンストライプを目の当たりにする。
1989年 夏、ムーンアイズに入社と同時に独学でピンストライプをスタート。オリジナルアイテムやポスター、カスタムカーなどのピンストライプやレタリングを担当している。
1990年 エド・ロスに会いにユタ州に行き、約一週間生活を共にする。そこで“ワイルドマン” という名前を命名された。
1992年 ホットロッドカスタムショー初開催。これ以降、アメリカンなカスタムスタイルが流行し、同時にピンストライプが一般に浸透していく。
1990年代中期以降 ピンストライプの仕事がクルマやバイクだけでなく、ウエアや雑貨のデザインにも拡大。
2000年代以降 海外でのデモ活動を開始。近年は横浜DeNA Baystars など他ジャンルの業界とコラボレーションしたデザインも積極的に生み出している。

▼まだまだいます、世界に誇る日本の先駆者たち。

【世界が認める日本の先駆者たち①】「EVISU」山根英彦|日本で生まれたカモメマークは どこよりも早く世界へと羽ばたいた。

【世界が認める日本の先駆者たち①】「EVISU」山根英彦|日本で生まれたカモメマークは どこよりも早く世界へと羽ばたいた。

2021年10月24日

世界が認める日本の先駆者たち②「CHABOTT ENGINEERING」木村信也|モーターサイクルをアートにした先駆者。

世界が認める日本の先駆者たち②「CHABOTT ENGINEERING」木村信也|モーターサイクルをアートにした先駆者。

2021年10月24日

【世界が認める日本の先駆者たち④】「ロッドモータース 」葛木誠&良|アメリカ車文化を牽引する親子。

【世界が認める日本の先駆者たち④】「ロッドモータース 」葛木誠&良|アメリカ車文化を牽引する親子。

2023年02月21日

【世界が認める日本の先駆者たち⑤】レッドブル・エアレース・パイロット・室屋義秀|日本人初のワールドタイトルを獲得したパイロット。

【世界が認める日本の先駆者たち⑤】レッドブル・エアレース・パイロット・室屋義秀|日本人初のワールドタイトルを獲得したパイロット。

2023年02月21日

【世界が認める日本の先駆者たち⑥】「新喜皮革」|世界屈指のコードバンタンナー。

【世界が認める日本の先駆者たち⑥】「新喜皮革」|世界屈指のコードバンタンナー。

2021年10月24日

【世界が認める日本の先駆者たち⑦】陶芸家・額賀章夫|笠間の伝統工芸を世界に。

【世界が認める日本の先駆者たち⑦】陶芸家・額賀章夫|笠間の伝統工芸を世界に。

2021年10月24日

(出典/「Lightning 2018年1月号 Vol.285」)

この記事を書いた人
サカサモト
この記事を書いた人

サカサモト

アメカジ系動画ディレクター

Lightning、2nd、CLUTCH Magazineの公式YouTubeチャンネル「CLUTCHMAN TV」のディレクター。元Lightning副編集長ということもあり、クルマ、バイク、ミリタリーなど幅広い分野に精通。現在はもっぱら動画作成機材に夢中。ニックネームは、スキンヘッドにヒゲ面をいう「逆さ絵」のような顔に由来する。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

円盤投げのアイコンが目印! アメリカ生まれの定番スウェット「DISCUS」ってどんなブランド?

  • 2026.03.19

1973年に誕生して以来、キャンパスや街の日常とともに歩んできた「ディスカス」。派手さはないが、気づけばいつも身近にあり続ける。そんな等身大のスウェットブランドの魅力を、ブランドの背景とアイテムから紐解いていく。 米国のリアルが育んだちょうどいいスウェット 1973年、アメリカ・ヴァージニア州で誕生...

中目黒の名店「PLEST」が仕掛ける、究極のデニムセットアップ受注会が開催中! シルバー925ボタンの圧倒的存在感を見逃すな

  • 2026.03.16

中目黒に拠点を構え、ヴィンテージへの深い造詣と現代的なエッジを融合させるブランド「PLEST(プルスト)」。彼らが放つ新作デニムセットアップの受注会が、3月15日(日)よりスタートしている。 デニムセットアップにシルバー925ボタンという選択肢を。 今回の目玉は、なんと贅を尽くした「シルバー925」...

別荘暮らしには憧れが詰まっている。1500万円以下から手に入るログハウスという選択肢

  • 2026.03.31

いくつになっても秘密基地のような存在にはワクワクさせられる。だからこそ“別荘”という響きに今なお心ときめくのかもしれない。趣味に没頭するのも何かに挑戦するのもいい。家族とまったり過ごすのも悪くない。BESSの家は、いい大人が目論むあれこれを叶える理想の空間だ。 編集部パピー高野が別荘暮らしを体験! ...

革に銀!? カービングに鉱石を使って色彩を与える独自の技「ジ・オーア」の革ジャンとレザーアイテム

  • 2026.03.30

伝統的なレザー装飾技法であるカービングに鉱石を使って色彩を与える、アツレザーワークス独自の技、“The Ore(ジ・オーア)”。技術を磨き上げた匠が生み出す唯一無二のオリジナリティを紐解く。 伝統技法が交差する唯一無二の手仕事。 代官山にあるアトリエを拠点に、クラフトマンの繊細な手仕事が光るレザープ...

Pick Up おすすめ記事

【連載】ビートルズのことを考えない日は一日もなかった

  • 2024.02.05

80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。

今季のテーマは“Preppy in the Sun”! 春の到来にピッタリな「ゴールデンベア」のラインナップを紹介

  • 2026.03.18

デイリーなアメリカンカジュアルウエアを得意とする「ゴールデンベア」。“Preppy in the Sun”をテーマに掲げる今季のコレクションでは爽やかな風吹く春の到来を告げる、涼しげなラインナップを展開する。 フレンチリネンの着心地とオレンジが活きる春 主役は淡いオレンジのシャツ。フレンチリネンを1...

こだわりの最上級へ。リングを複数繋いで作られるブレスレットは、究極の贅沢品

  • 2026.03.17

創業から29年にして新たな局面を迎え、“地金から新たな素材を作り出す”という手法に行き着いた「市松」。『自在地金屋 無双』をその名に掲げて作られたブレスレットは、一点一点手作りでサイズのブレが生じるためリミテッドモデルとして製作。放たれるただならぬオーラは、職人の工夫と根気によるものだ。 誠実に地金...

革に銀!? カービングに鉱石を使って色彩を与える独自の技「ジ・オーア」の革ジャンとレザーアイテム

  • 2026.03.30

伝統的なレザー装飾技法であるカービングに鉱石を使って色彩を与える、アツレザーワークス独自の技、“The Ore(ジ・オーア)”。技術を磨き上げた匠が生み出す唯一無二のオリジナリティを紐解く。 伝統技法が交差する唯一無二の手仕事。 代官山にあるアトリエを拠点に、クラフトマンの繊細な手仕事が光るレザープ...

待望のカスタムオーダーが再始動!シルバージュエリーはメイドインジャパンにこだわりたい

  • 2026.04.01

ネイティブスピリットを宿したシルバージュエリーで多くのファンを魅了してきたARIZONA FREEDOM。2026年春夏シーズンより、待望のカスタムオーダーがついに再始動。既存のデザインをベースに組み合わせ次第でこれまでにない自分だけのオリジナルのシルバーを形にできるのが最大の魅力だ。熟練した職人に...