【世界が認める日本の先駆者たち①】「EVISU」山根英彦|日本で生まれたカモメマークは どこよりも早く世界へと羽ばたいた。

もしこのヒトがいなかったら……。身近にあるカルチャーやプロダクツが、たった一人の日本人が先駆けとなったことで、世界に大きな影響を与え、文化を築き上げていた。そんなレジェンドと呼ぶに相応しい賢人たち7名の今と昔を取り上げていく特集第一弾は、いまや世界的に高い評価を得ているMADE IN JAPANのデニムのクオリティの高さを世に知らしめ、ブームの火付け役となったペンキで描かれたカモメマークでお馴染みの「EVISU」山根英彦さんに迫る。

1991年、MADE IN JAPANを掲げ「エヴィス」誕生。

定番ジーンズとして創業当時 から作り続けている5ポケットジーンズ。ストレート、テーパードなどシルエットの違いも楽しめる。バックポケットには、 エヴィスジーンズの象徴であるカモメマーク

頑丈なワークパンツとしてアメリカで生まれ、1950年代以降、若者たちを筆頭にファッションアイテムとして愛されるようになっていったジーンズ。ここ日本で初めて紹介されたときには、すでにワークウエアとしてのジーンズではなく、ファッショナブルなパンツだった。

当然、日本の若者たちの間でもジーンズは広く浸透することとなる。同時に日本製のデニム作りが盛んになっていったのは言うまでもない。もちろんアメリカ製デニムというオリジンがあったからこそ、実現した日本製デニム。いかにしてアメリカ製デニムのクオリティに近づくことができるか、忠実に再現できるかを、どのメーカーも考えたに違いない。

1980年代、日本で起きたいわゆるヴィンテージブームによって、デニムを筆頭としたアメリカンヴィンテージが、より深く掘り下げられ、それまで不明瞭であった各年代のディテールが徐々に明るみになっていった。ジャパンデニムとして本気のデニム作りが始まるきっかけとなったのである。

創業から四半世紀が過ぎ、これまで作り上げてきたジーンズは数えきれない。しかし、いまでもブランド設立当初に手掛けたジーンズをプロダクトサンプルとしてしっかりと保存してあるのはブランドの強みだろう
レザーパッチにバッファローがプリントされている初期タグは希少な逸品だ

ジーンズメーカー、エヴィスが生まれたのは、その数年後の1991年のこと。クオリティの高い日本のもの作りにいち早く目をつけた山根英彦氏によって創業された。

創業当時に手掛けたという広告ポスター

いまでこそ、日本のデニムメーカーは数多く存在するが、当時は数えるほど。独自でジーンズのパターンを研究し、作り上げたオリジナルのジーンズ、そして大々的にMADE IN JAPANと謳ったのは、エヴィスが初めてだったのかもしれない。

ブランド設立後の1993年、初めて作ったというエヴィス ジーンズのイメージカタログ。自社ジーンズを手描きのイラストで詳しく解説されているページや代表である山根氏からのメッセージも掲載されている
エヴィスファンのために発売されてきたエヴィス本の数々。 ジーンズはもちろん山根氏の人物像も見え隠れする

なによりもジーンズのバックポケットにペンキで描いた手描きのカモメマークがキャッチーだった。その噂は瞬く間に広がり、日本のみならず海外へと渡り、多くの著名人、セレブリティたちまでもがエヴィスジーンズに夢中となった。いわば社会現象にまで発展したのだ。ジャパンデニム時代の到来である。

ヴィンテージデニムさながらのエイジングを見せるデニムジャケット。デニムの醍醐味である色落ちの良さもエヴィスの大きな魅力だ

日本のもの作りの良さを世界へと知らしめるきっかけを作り、さらにのちに世界からジーンズ大国と言わしめるほどに成長し、日本の産業へと大きく貢献することとなったエヴィス。日本で生まれたカモメマークは、文字通り海を渡り、遠い異国の地でジャパンデニムのパイオニアとして世界へと羽ばたいた。創業者の山根氏は、まさに日本が世界に誇るデニム界のレジェンドと呼ぶにふさわしい人物なのだ。

手描きのカモメマークがEVISUの証。

東京・代官山のショップに飾られる旧型力織機。セルビッジデニムで生み出されるエヴィスのプロダクツには欠かすことのできない重要な機械。 これまで作り上げてきたプロダクトサンプルも貴重な資料のひとつだ

創業者であり、代表である山根氏が1991年に考案したペンキによるカモメマーク。シンプルなデザインのジーンズにひと華添えるエヴィスジーンズを象徴する唯一無二のディテールだ。この発想が無ければ、エヴィスだけでなく、ジャパンデニムがこれほどまでに世界的に名を馳せることも無かったのかもしれない。

エヴィスジーンズを象徴するバックポケットのカモメマークは、 1本ずつ手描きで描かれる。 変わりようのないシンプルな5ポケットジーンズにオリジナリティを吹き込んだその発想がエヴィスジーンズを成功へと導いた

もちろん、いまでもその伝統は継承されていて、カモメマークも健在だ。そして、創業当時同様、山根氏自ら筆をとることだってある。週末ともなれば彼自身に描いて欲しいと願う熱烈なファンも訪れるという。それは、創業から26年を経たいまでも山根氏、ひいてはエヴィスにとって変わらないもの作りであることの証明で、プロダクツの骨子は変わらない。しかし、ファッションアイテムである以上、進化し続けていくことにエヴィスは柔軟だ。

ジーンズの定番を作り上げてきたエヴィス。これまで培ってきたデニム作りのノウハウは、ファッションとして新たなもの作りで活かされている。それはインディゴテイラードやジャカードデニムといったカタチになって表れている。

ジャカード織りで表現したカモフラージュパターンのインディゴテイラードジャケット。美 しいカッティングだけでなくデニム特有の経年変化も楽しむことが可能だ
一見、ノーフォークジャケットのように見えるが、実は襟なしのジャケットに、襟付きのベストを重ねて着る、通称トリックジャケットと呼ばれる逸品。山根氏の遊び心が凝縮されている

テイラードジャケット自体はブランド設立初期から手掛けていたが、すべてをデニムで作ることは容易でなかったのだという。Gジャンのように気兼ねなく洗えて型くずれに強いデニムの良さを最大限に引き出したテーラードジャケット。これが山根氏の描いた新たな定番。長年、積み上げてきたデニム作りのノウハウでようやく実現したジャケットの仕上がりは、着心地はもちろんのこと、デニム特有のエイジングも楽しめる。他社では到底真似することのできないクオリティの高いアイテムへと仕上がっている。カジュアルな素材でドレッシーなアイテムを作り上げる。ペンキで描いたカモメマーク同様、遊び心に溢れた逸品だ。

カモメマークがジャカード織りによってモノグラム 調に表現された生地を使用したデニムジャケット。 パーツによってカモフラージュ柄を配したオリジナリティ溢れる1着。参考商品

そして、近年、定番化しつつあるジャカードデニム。これまで、アイキャッチとなっていたペンキによるカモメマークが織りによって表現され、カモフラージュ柄のデニムなど、新たなアイテムで多くのファンを魅了し続けている。それも、長年にわたり、ジーンズを作り続けてきたノウハウがあるから具現化できることなのだ。

「EVISU」山根英彦さんのヒストリー

1991年 大阪で創業
1992年 大阪に直営第一号店オープン
1994年 岡山県倉敷市に自社工場を構えるヨーロッパで展開開始
2000年 ロンドン・コレクションに出展
2002年 イタリア・フィレンツェのファッションショーに出展。ミラノ・コレクションに出展
2016年 創業25 周年を迎える

▼まだまだいます、世界に誇る日本の先駆者たち。

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(出典/「Lightning 2018年1月号 Vol.285」)

この記事を書いた人
ラーメン小池
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ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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