ここでは速いヤツが偉い! 砂漠のサーキット「エルミラージュ」。

フランス語で「蜃気楼」を意味するエルミラージュ。ロサンジェルスからクルマで2時間ほどの広大でフラットな大地は、かつて湖だった場所が砂漠化して生まれた自然の驚異。人が生活することはできないし、街灯もない。でもそんな大地に目をつけて、かつての遊びの達人は、自慢のクルマを全開で走らせ、スピードの限界に挑んだ。いつしかそこはユタ州のボ ンネビル塩湖と並んで、スピードトライアルの聖地になった。

カリフォルニアのドライレイク(乾燥湖)、エルミラージュへ。

砂漠の中を走っていると突如現れるエルミラージュの看板。ここがドライレイクへの入り口。街灯すらないので夜は見つけることが難しいかもしれない。

エルミラージュ・スピードトライアルを主催するのは S.C.T.A.(サザンカリフォルニア・タイミング・アソ シエーション)。入り口にある看板にも年季が入ている。

光のごとく一直線。砂煙を上げて遠くを通過するマ シン。会場には観客席などは用意されていないので、思い思いの場所で観戦することができる。

ここでは速いヤツが偉い。

出走前。レースのようなピリピリとした雰囲気ではないのは1台ずつ走るから。あくまで自分との戦い。本格的なマシンはメカニックを引き連れてやってくる。

タイム計測地点はずいぶんとコースの先なので、ス タートはサポートカーがリアから押すというスタイル。これもスピードトライアル独特の光景だ。

ルールは、一定の計測区間をどれだけのスピードで通過できるか、ただまっすぐ走るだけ。それにアメ リカのスピード狂たちは一喜一憂する。クラスは様々。戦前のマシンから流線型を描くストリームライナー、それにモーターサイクル まで。ここでは速いヤツが偉いのだ。

スピードトライアル専用マシンは余計な保安部品は装着していないどころか、ルーフもフロントガラスさえない。速く走るために、とことん軽量化される。

チャボエンジニアリングの木村さんはナックルヘッドで挑戦。フロントフォーク を寝かせて低く身構えたフォルムが戦闘的だ。どんなクルマでもバイクでも挑戦できるのが、実にアメリカ的だ。

ほぼ一人乗りという小型のホットロッドを発見。クラスは4気筒のヴインテージフラットヘッド。ボディは小さいけれど排気音は暴力的だ。

C4コルベットがベースだけど、もはや公道走行はあきらめたモディファイ。盛り上がったエンジンフ ードは視界不良で直線走行にしか対応できない代物。

ホンダの水冷縦置きVツインもエルミラージュに来ればスチームパンクみたいな造形に変身する。マフラーなんて後ろまで伸ばさないヨコ出し。ライダーは熱そうだ。

フェンダーもエンジンフードもないホットロッド。速く走るために生まれたカスタムだから、必要最低限のパーツしか使わない。この日も数多く出現していた。

持ち込むときはピックアップ。

ロサンジェルスをホームとするキヨズガレージのキヨさんはエルミラージュ用にホンダのCB160を持ち込む。エルカミーノの荷台にすっぽりと収まる。

並んだホットロッドやオールドシェビーのピックアップは参加車両ではなく、サポートで駆けつけたスタッフたちのクルマ。わざわざ自慢の愛車でやってくる。

本気のマシンはご覧のようなストリームライナーで参戦。もはやその走りっぷりはミサイルである。火が出るほど 速いことは一目瞭然。もはやお金持ちの遊びの域。こちらもピックアップで持ち込んでいた。

‘56年式シボレー・ベルエアもスピードトライアル仕様になると屋根がなくなる。なぜこれをベースにしたのかはわからないけど、後部にパラシュートを搭載した本気仕様で参戦。

本業はアートキュレーターであるステイシーはハーレーダビッドソンのスプリントで出走。愛車がフォードのピックアップなのもうなづける。

レース用のクルマじゃないが、エアストリームをフォードのピックアップでけん引する、アメリカのスタンダードな光景。ピックアップの車高が低いってのがレース好きならではのスタイルだ。

まだまだいたぞ、エルミラージュのイカしたヤツら。

会場を歩けば、クルマ好き、バイク好きなら飽きることなく、何時間でも過ごせてしまう。このハンブルビーと名付けられたオールドトライアンフはスピードトライアル専用車。フューエルタンクはアルミの筒状というスパルタンな外観が男らしい。

フレズノからやってきたマシンはベースが1932年式フ ォードだろうが、もはや中身は別物のモディファイド ロードスター。スーパーチャージャーも搭載している。

仲良しホットロッドチームだろうか。どれもナイスな愛車である。中央のフォード1951年式フォードF1は 出場者を後ろから押すためのバンパー付き。

アメリカ車ばかりだと思ったらご覧のようなMGをベースにしたレー サーも。しかも右ハンドルのままカスタムされ、ほぼ原型がない。

第二世代後期のシボレー・カマロ。どのレーサーも足元にムーンディスクを装着し ているのが特徴的。空力的にも実証されているオールドスクールなパーツだ。

奇妙なカタチのマシンは、当時の戦闘機の燃料タンクをボディにするベリータンク ・レイクスターという由緒正しきスタイル。大柄の人には向かない仕様である。

泊りがけで楽しむのもアメリカ流。

イベントは定期的に開催され、 自走で来る人もいれば、キャンプがてらにやってくる人までと思い思いで実に自由。クラシックカーやホットロッドを持ち込む人も珍しくない。写真のキャンパーは、連れてきた愛車は旧いが対照的に巨大な現代車両で準備万端だ。

スピードトライアルは2日間に渡るので、近くの街まで戻るのが面倒な人は現地にテント泊というのも珍しくない。アメリカらしい光景が広がる。

何もない場所だからピットスペースも好きなだけ確保できる。

スピードトライアルごっこ中。いつかは本物のマシンで出場するのであろうか。とにかくさえぎるモノが何もないので、来場者もやりたい放題(笑)。

とてつもなく広い会場。会場内をクルマで移動している人たちもいるけど、上級者になるとミニバイクを持参。公道ではないのでヘルメットも不要。

もはや大人のための遊園地ごときエルミラージュ。けたたましいエンジン音とともに、クルマ好きたちの笑い声が同居する広大な大地。遠くに見える矢のような速さで走るクルマは蜃気楼ではない。エルミラージュ、ここはクルマ遊びの最終到達地点なのかもしれない。

※掲載情報は取材当時のものです。

(出典/「Lightning 2019年5月号」)

この記事を書いた人
ラーメン小池
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ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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