中国に引き離され、クルマ離れが進む世の中で
僕らが、クルマに乗りはじめた頃、日本車は世界を席巻していた。
自動車生産は日本の屋台骨ともいえる産業だが、1990年の約1,350万台をピークに、今や784万台(2022年自工会調べ)まで落ち込んでいる。一方、中国の生産台数は2523万台(2022年JETRO調べ)。日本は遠く水をあけられてしまっている。ちなみに2位はアメリカ。日本は3位である。
EV化が進むと、エンジンカーよりコンポーネント化が進み、自動車メーカー以外からの参入も容易になる。テスラや、BYDが好例だ。今後も増えていくだろうし、特に中国製の車というのが多くなっていくことが予想される。
また、若年層の自動車離れ、地球温暖化の問題、自動運転の進化……など、考えねばならないことが山ほどある。そんな中、ホンダとソニーが打った手のひとつが、SHMでありAFEELAというブランドだ。
ホンダにとっては、自動車産業だけではできないことへのチャレンジであり、ソニーにとっては(アップルが車を作っているという噂が絶えないのと同じく)車という移動空間への積極的な進出だ。
新築高層ビルのテッペンで会った、『ホンダ×ソニー』のクルマ
AFEELAの体験に指定された場所は、新築されたばかりの虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 46階。東京を見下ろす高層階に、AFEELA Prototypeがたたずんでいた。
まず、ザックリと車としてのAFEELA Prototypeを説明すると、Eセグメントぐらいの車格のセダン。EVを前提としているらしい。
そこに計45個のカメラとセンサー、Qualcomm Snapdragon Digital Chassisのチップセットなど高い処理能力を持つシステムを備え、高速道路など特定条件下での自動運転レベル3(特定の走行条件下で自動運航装置が運転操作の全部を代替する状態)、市街地での自動運転レベル2+(AI技術を使って進化したレベル2)の自動運転が可能となるという。
ドアは自動もしくはスマホからのコントロールで開閉可能。バックミラーは空気抵抗の少ないカメラを使ったタイプのもの。
しかし、そこはベースの部分。
そこにAFEELAならではのコンセプトが乗っかってくる。
ディスプレイがたくさんあったら未来なの?
AFEELAではユーザーに届けたい価値として、Autonomy(進化する自立性)、Augmentation(身体、時空間の拡張)、Affinity(人との協調、社会との共生)をコンセプトとしている。その頭文字を取り『3A』と定義し、Aで『FEEL』を囲むことで『AFEELA』というブランドネームにしたとのこと。
これだけでは何のことだか分からないが、これはさて置いて先に進もう。
具体的に車体を見ていくと、フロントグリルとリヤガーニッシュの部分にディスプレイが装備されていて、さまざまなグラフィックが表示できるようになっている。
デモでは、お気に入りのキャラクターのグラフィックを表示したり、中で聴いている音楽のアルバムが表示されたりしていた。
内部のディスプレイも贅沢で、メーターはもちろん、ディスプレイ。そしてセンターから助手席側に長い横長ディスプレイ、そして左右のミラーも専用ディスプレイに表示される……と、ディスプレイだらけ。
ホンダeに近い構成だが、センターと助手席側が1枚の繋がった長いディスプレイになっているのが特徴的だし、そもそも全体にディスプレイが大きい。リヤシート用にも大きなディスプレイが用意されている。
しかし、それが革新的なのだろうか? フロントグリルにキャラクターやお気に入りのアルバムを表示しても、そんなもの走行中に誰も見られやしないし、メーターパネルのディスプレイだって、そういう車が多くなっている。わざわざ合弁会社を作ってまで見える『未来』だとは思わない。
AFEELAが見せる未来とは何なのだろうか?
あなたの考える『モビリティの未来』とは?
その前に、『モビリティの未来』とは何かを考えてみよう。
地球温暖化が進む中、個人が勝手気ままに動く自由はだんだんと制限されていくかもしれない。高齢化社会では、地方集落などでの高齢者の移動も問題になるし、一方若年層は車の所有から離れていっている。
自動運転も進めば進むほど、車本来の楽しみから離れていくような気がする。AFEELA Prototypeも自動運転の技術が進む中、車の中での時間の過ごし方について、いろいろな提案が盛り込まれているようには思う。素晴らしい音響で映画を見られるらしいし、なんとプレステのゲームも出来るらしい(さすがソニー)。しかし、筆者は、「それって家でやれば良くない?」と思ってしまうのだ。「それぞれのモニターで個別のコンテンツを楽しめます」とのことだが、一緒にクルマで移動している時にまで、個別のコンテンツを楽しまなければならないのだろうか?
筆者はオールドタイプかもしれない。クルマの運転が好きだ。だから、実はあまり自動運転にも興味がない。何百kmだってクルマの運転がしたい。家族と一緒に出掛けたら、家族で一緒に外の風景を楽しんで、いろいろ普段できないような話をしたり、時には歌を歌ったりしたい。それがクルマの楽しみというものではないだろうか?
本当に『知性を持ったモビリティ』になるためのオープン化
と、ひとしきり考えたところで、前の『3A』に戻ろう。
今回、3AのAffinityとして、多様な知との共創と、それを可能にする場作りということでモビリティ開発環境のオープン化が行われるのだそうだ。具体的には以下(予定)。
・メディアバー(コンテンツ)
・パノラミックスクリーン(テーマ)
・eモーターサウンド
・マップ上の付加情報
・任意のアプリケーション
において、アフターマーケットのデベロッパーに開発できる環境が用意されるのだそうだ。
だとすれば運転好きな、我々のようなオールドタイプにだって、追加機能を提供してくれるデベロッパーが現れるかもしれない。
想像の翼を広げれば、外部カメラの映像をパノラミックスクリーンや、後席の大型モニターに表示したら、とても気持ちがいいのではないだろうか? 飛行機の着陸時に客席のディスプレイに前脚や、尾翼上に装備されたカメラの映像を映せる機能のように、フロントグリルや、ボディサイド低めにあるようなカメラの映像が表示されたら、F1映像の車載カメラのような映像が楽しめるかもしれない。
それら車載カメラで撮った家族の旅の映像を、自宅のデバイスや、VRゴーグルで見られたら、旅の想い出として最高ではないだろうか?
後席にもカメラがあるなら、前後の席の人の顔を互いのモニターに表示したら、車内のコミュニケーションはもっと広がるのではないだろうか?
運転好きとしては、モーターや、各サスペンションの情報などを細かく表示可能だったり、調整可能だったりしても面白いだろう。
外部のメディアバーは、もっとコミュニケーションに使えるのではないだろうか?
筆者は時折、白黒のクルマのメディアバーらしきデバイスに『左に寄って止まりなさい』なんて表示を見せつけられたりするが、それよりもっと愛のある『お先にどうぞ!』とか『この先に美味しい釜飯屋あり』とか表示できるといいかもしれない。赤はホットに走ってるとか、グリーンはゆったりと走りたい気分とか、青は自動運転とか、そういうコミュニケーションの一般論が出来ても面白いかも。相互通信できるのであれば、AFEELAユーザー同士がすれ違うと特定の光り方をしたり、旅先の情報をやり取りできるアプリケーションなんてのがあってもいいかもしれない。
どこまで実現可能なのかは分からないけれども、サードーパーティデベロッパーの創意工夫と、ユーザーの取捨選択で、予想外の進歩を遂げていったスマホのように、そういうアフターマーケットのパワーを取り入れようというのが、AFEELAが『知性を持ったモビリティとして育つ』ということなのではないだろうか?
そう考えるとAFEELAの未来がとても楽しみになる。
『HONDA』『SONY』に憧れたアメリカを皮切りに
AFEELAは2025年に先行受注を開始し、同年中に発売、2026年春には北米を皮切りにデリバリーを開始するという。実は、もう2年半後にはAFEELAは販売開始されているということだ。「ほんまかいな?」という気もするが、そのスピード感もスマホっぽい進化を意図してのことかもしれない。
筆者は、日本はもちろん、欧州、米国、豪州などで、クルマやバイクを運転した経験がある。それぞれ、道の流れの流儀はだいぶ違う。欧州は、ドライバーが積極的に関わって運転する度合いが濃いが、米国は道も広いし直線が多いし、多少のブレやはみ出しは気にしないので、自動運転が好まれるのもよく分かる。日本はタイトに運転しなければならないが、流れの速度が遅いし渋滞も多いので、ドライバーは退屈している。
自動運転を搭載し、車内コンテンツを充実させようというAFEELAが米国で最初にリリースして、次に日本という計画を持ってるのも、なんとなく正解なのではないかと思う。
’80年代のアメリカで、『HONDA』『SONY』と言えば憧れのブランドだった。今、熟年に達してる人も、「最初に買った憧れのクルマはアコードやシビックだった」という人は非常に多い。また、スティーブ・ジョブズが『SONYに憧れた』という逸話を持ち出すまでもなく、ウォークマンは若者のアイコンだった。
その『HONDA』『SONY』がタッグを組んで、アメリカに乗り出すのだ。
おとなしいAFEELAのデザインを見ていると、ちょっと不安にもなるが、コンセプトが上手く行くと、案外と大化けするクルマなのかもしれないと思えてくる。二社連合で動くのはいろいろと忖度もあって大変かもしれないが、『新しい時代のモビリティ』を生み出すべく、ガチでなぐり合って、革新的な製品を産み出していただきたい。’70年代、 ’80年代の諸先輩方が作った革新的プロダクトがそうであったように。
(村上タクタ)
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