製品を作った企業が負う責任
大人気コミックス『課長 島耕作』の前日譚である『ヤング 島耕作』をご覧になったことがあるだろうか?
その中のエピソードとして、新人研修で向かわされた電器店の番頭に、回収した古い家電の不法投棄を手伝わされそうになるのを毅然と拒否したところを、たまたま通りがかった彼が所属する初芝電産の創始者である吉原初太郎に肯定されるエピソードがある。
そこで島は吉原に「モノを作った企業は、モノを捨てる責任を負わなければならない時代が必ず来る」と持論を語って評価される。もちろん、このマンガは2001年に描かれており、後に島が出世してから廃棄される商品の回収を提案する伏線となっているのだが、実際のところ、我々もその重要性を分かっているわけではない。
iPhoneを23種類の素材に分解する『Daisy』
現実の世界には初芝もなければ、島耕作もいないのだが、リサイクルの理想を追い求める企業としてアップルがある。
単に廃品を回収して分別するより、製造したメーカーが製造した工程と同じように分解していけば、より高度なリサイクルが可能だ。その理想を実現するために作られたロボットが冒頭の写真で紹介した『Daisy(デイジー)』だ。Daisyは1年に約120万個のiPhoneを分解し、23種類の異なる素材にiPhoneを分けて、希土類などを回収している。
DaisyはiPhoneのそれぞれの機種を組み立てた時の逆の工程をたどって、分解する。スクラップの中から金属をより分けるより、分解してから金属をより分けた方が、容易に純度の高い素材を得られることは言うまでもない。
アップルが目指すのは、鉱山から何かを掘り出して消費するのではなく、ユーザーが使い終わったデバイスから素材を回収して使う循環型のサプライチェーンモデルだ。それは容易なことではないが、アップルはその可能性を追求している。
それは、単に使い終わったデバイスを回収すれば良いということではなく、デザインの段階からリサイクル性を考えて設計し、製品を効率的に作り、製造中の削りカスなどスクラップを回収し、そして製品を長持ちするように設計し、最終的に使えなくなった製品を回収してリサイクルし、次の製品に利用する。このサイクルを構築しようというのだ。
45種類を検討、まず14種類を回収して再生
アップルは最初に、製品に使用されてる45種類の要素や原料について分析した。その素材がどのぐらい使われていて、リサイクルの可能性はどのぐらい高いのか? そして、リサイクルすることで、どのぐらい環境へのインパクトを回避できるのか?
まず同社の製品の90%を占める14種類の素材について、リサイクルの方法を検討したという。
2021年、アップルが出荷した製品に含まれる全アルミニウムのうち、59%が再生素材由来で、多くの製品が筐体に100%再生アルミニウムを使用している。また、2025年までにパッケージからプラスチックをなくすという目標に向けて大きく前進し、2021年はパッケージでのプラスチックの使用はわずか4%になっている。最近、アップル製品のパッケージを開くと、発泡スチロールやフィルムを使った梱包が減ってることにお気付の方も多いと思う。
タングステンも回収して再使用
さらに2021年にアップルは、認定取得済の再生希土類を45%取得し、30%の再生スズ、13%の再生コバルトを使用している。また、iPhone 13シリーズのメインロジックボードのメッキ、カメラの接続のワイヤーに再生ゴールドを使用している。
iPhone独特の『コツコツ』という感じの振動を作り出しているTapticエンジンに使われてるタングステン(重いので、小さくても強い振動を作り出せる)も回収され、再生されている。
1トンの回収されたデバイスからリサイクルされる金と銅の量は、鉱山から採掘される2000トンの鉱石から得られる量に等しいという。
我々が地球を穴だらけにしなくても生きていける世の中をアップルは模索してるのだ。アップルの会社で使われる電力もすでに再生可能エネルギー100%になっている。Apple Siliconによって、製品そのものが消費する電力も減っている。
理想は高い。しかし、実現不可能なものではないのだ。
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