「N-3B」は極地防寒用フライトジャケットとして名高い存在。
ミリタリージャケットの持ち味はなんといっても機能性に特化したデザインだということ。極寒地用フライトジャケットの銘品であるN‒3Bもまた然り。
米空軍がフライトジャケットを開発する際に設定した5つの気温域の中でも、ヘビーゾーン(マイナス10℃~マイナス30℃)という寒冷地での着用を目的として作られているため、とにかく暖かいのが一番の特徴である。そのため、体温を保護するのための工夫が随所に散りばめられているのだ。
吹雪の中でも視界を遮らないよう工夫されたフードや、遮風と防寒性に優れた表地、保温性の高いウールパイルの中綿など、素材にも多大な工夫が見られる。また冷気を防ぐためジッパーとボタンを使用し二重にしつらえられた前合せや、腰回りまで保温するレングス、そして手袋をしたままでも使える大型のハンドウォーマーポケットなどが特徴的である。
そもそもN‒3Bの意匠だが、米陸軍航空隊が採用したN‒3の登場に端を発する。N‒3以前までは革やコットン、ダウン、アルパカといった天然素材を使用していた。しかしコストダウンと堅牢性を高めるために新たな極寒地用フライトジャケットの調達が急務であった。そこで米空軍の装備品を開発するエアロメディカルラボラトリー(航空医学研究所)が、当時の新素材であったナイロンを使いN‒3を開発した。
余談だが、エアロメディカルラボラトリーはオハイオ州にあるライトパターソン基地にある空軍クロージングデビジョンの施設で研究・開発がされている。あらゆる可能性を考慮し、より効果的と見ればわずかな箇所でも積極的に改良するため、モデルチェンジが頻繁に行われたというわけ。
閑話休題、N‒3のナイロンカラーはオリーブドラブで、リブ袖やウエストのフィット感を高めるドローコードは剥き出し、さらに旧いディテールである革製のオキシジェンタブが付く。
とはいえN‒3Bと比べてもその違いは微差の範囲。それだけ機能性に優れた意匠であったことがわかる。そして後継モデルの米空軍シンボルカラーであるAFブルーを纏ったN‒3Aを経て、50年代半ばにN‒3Bが登場。ここである意味、極寒地用フライトジャケットのフォルムが完成したのだ。
[N-3B 歴史年表]
1941年 アラスカなど極寒冷地での使用を目的にB‒7を採用
1943年 贅沢な羊毛革の使用廃止を受けて、ダウン素材を使用したB‒9を採用
1943年 高価なダウン素材のコスト高を受けて、アルパカ素材を使用したB‒11を採用
1945年 航空機搭乗員用の防寒アウターとしてN‒3 (Spec.3110)を採用
1951年 エアフォース・ブルーを纏ったN‒3A(MIL-J-6279)が登場
1953年(推定)~ N‒3Aの改良型としてN‒3B(MIL-J-6279A)が登場。以降、MIL-J-6279Hまで続く
1972年 N-3Bはデザインや素材の変遷を重ね続け、改良モデルとしてN-3B MODIFIDE (MIL-J-6279H (1))が登場する
【銘品】Type N-3B MIL-J-6279A
1953年に支給されたと言われるN-3B。1945年に登場したN-3からのデザインを継承しつつ、細部を強化。ナイロンカラーにセージグリーンを採用し、ライニング側に移動したウエストのドローコードや、袖先のインナーリブが主な変更点だ。
【N-3Bコラム】革からダウン、アルパカと、防寒素材の系譜を辿る。
第二次世界大戦中の極寒地用フライトジャケットを観察すると、革やダウン、アルパカなど素材の違いはあれど、ムートンフードやウォームポケット、冷気の侵入を防ぐ工夫がなされた前合わせのデザインなど、防寒性能に必要なディテールはすでに完成していたことがわかる。
Type B-7
Type B-9
Type B-11
(出典/「Lightning 2025年1月号 Vol.369」)
Text/A.Shirasawa 白澤亜動
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