メンズ誌編集者の散財ダイアリー「たまには浮気してもいいよね」編

ファッションは新品でも古着でも、さらにはアンティークや、その他ちょっと変わった(本人はいたって普通だと思っている)物欲で、おっさんになっても散財が絶えない編集者であるラーメン小池が送る散財日記。ぶらぶらとネタを求めて街をパトロールしながら、行く先々で出会って手に入れたプロダクツを不定期で紹介していく企画がこれ。今回は古着。それもカナダモノに手を出してしまったぞという話。

アメリカ好きのくせにカナダ軍に浮気してしまう。たまには変化球も悪くない。

オールドアメリカンカルチャー評論家を名乗っているだけあって、着るモノも持つモノもアメリカモノばかりという筆者。とくに旧いアメリカモノは縦横無尽に触手を伸ばしてきた。

でも、ここ最近、多くのアメリカモノを飽きもせずに見てきて手にしてきたせいか、ヨーロッパや和骨董などという「アメリカ以外」への浮気心もちらほらと湧いてきた。

そんななか、フラっと入った古着店で出会ったのがこのミリタリージャケット(コート)。いわゆる兵士のユニフォームとして生産された軍モノである。

もちろん、軍モノもジャケットを始め、アメリカモノばかり手を出してきたけどこれはカナダモノ。カナダ陸軍の冬季用ジャケットである。

というのも惹かれたのはアメリカでもなく、イギリスでもない独特なデザイン。さらには試着したらサイズが見事にシンデレラサイズだったからというのが浮気の理由。

で、このジャケットを説明すると、Canadian Army(カナディアンアーミー)に支給されていたウインターコートなるもので、アウターシェルはけっこうゴツめなナイロン製。米軍のN-3Bなどのナイロン製フライトジャケットよりもゴワゴワとした生地感。

そしてレイヤードシステムを採用していて、アウターシェル、ボアライナー、フードが着脱可能になっていて、こいつはフルセットでそろっている。

見た目は米軍のM-65フィールドジャケットにも似ていたデザインだけれど、M-65フィッシュテールパーカの要素も。でもそれらははコットン製で、これはフライトジャケットのごとくナイロン製というところからすると、米軍のN-3Bにも近く、アメリカンミリタリーに似ているようで似ていないってのがポイント。

さらに言えば同じ軍モノでもアメリカモノほどゴリゴリではなく、ヨーロッパモノほど洗練されていない。そんな絶妙なヌケ感をカナダ軍に感じてしまった。

ナイロンボディなのにフードはアクリルではなくリアルファーで、裏地もウールというのもおもしろい。時代の過渡期なのか天然繊維と化学繊維の両方が使われている。

そこで詳しく調べようと思ったけれど、アウターシェルの織りネームは欠損、さらにライナーの織りネームはダメージで年式は読み取れない。

それでも調べてみると、おそらく1960~1970年ごろのアイテムではないかと推測されるみたい。後年のこのジャケットはナイロンとコットンの混紡生地になるらしい。おもしろいことにナイロン100%の方が旧いというわけだ。

普段、化学繊維のウエアをほとんどたしなまないオールドスクールな筆者だけど、そんな素材のアンバランス感と、人は違うミリタリースタイルがおもしろくて手に入れたってわけ。

フルセットなので、いろいろなパターンで着ることができるってのもキモ。レイヤリングシステムってなんだか合体ロボみたいで楽しいのである。

もう冬も終わろうとしているのに何やってるのという買い物。でも今後もそんな浮気心はいろんなきっかけで発動しそうなのであった。

カナダ陸軍に支給されていた冬季用フィールドジャケット。

というわけで出会い頭に手に入れてしまったジャケットを解説。普段、個人的にも見慣れているアメリカ軍のジャケットとはまた違うディテールがおもしろい。といっても、生死を分ける環境を想定して作られていたジャケットだけに、手の込んだ作りはさすが。米軍ほど知名度も人気もないとは思うけど、これはこれでなかなか魅力的なのであった。

フロントはフラップ付きのポケットが4つ付き、ジッパーとボタンで留めることができる仕様。肩のエポレットは無いのですっきりとしたイメージだ
フロントジッパーはアルミ製のライトニング。ライトニングジッパーはヴィンテージのカウチンやスカジャンなどでも見ることができる英国発のメーカー
各ボタンは樹脂製で、いわゆるパラシュートボタンと呼ばれるテープで縫い付けられているタイプをメインで使っている。これは英国のミリタリージャケットにも見られる
アーム部分は生地を二重にして補強されているしっかりとした作り。袖口にあるメタル製のスナップボタンはライナーの袖を留めるためのもの
背中の腰部分にはD.O.T.のステンシルが入る。Department of Transportation(輸送部隊)の略かな? こういうリアルなカスタムに気分が上がる
フードとライナーを外してジャケットのみになると米軍のM-65フィールドジャケットのような出で立ちに。春先のジャケットとしても重宝しそう
スナップボタンでアウターシェルと結合できるライナーはアクリルボアを使っている。首や袖はウールリブで保温性を高めたデザイン。正直言って重い(笑)
ライナーのスナップボタンはリバーシブル仕様のパーツになっていて、これ単体でも着ることができるってのもうれしい。ただしライナーにポケットなどは無い
ライナーの内側にあるネームタグは破れて印字されている文字も判断不可能のため、正確な年式がわからない。1960~’70年代ではないかと思われる
フードはボディと同様の肉厚なナイロンでライニングはウール、トリムにはコヨーテファーが使われている。ジャケットにはジッパーとスナップボタンで装着できる仕組み。フロントのスナップボタンでフードを留めて着ると首回りがウールで、耳回りにファーが当たるのでかなり温かい
この記事を書いた人
ラーメン小池
この記事を書いた人

ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

【UNIVERSAL OVERALL × 2nd別注】ワークとトラッドが融合した唯一無二のカバーオール登場

  • 2025.11.25

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【UNIVERSAL OVERALL × 2nd】パッチワークマドラスカバーオール アメリカ・シカゴ発のリアルワーク...

「アイヴァン」からニューヨークに実在する通りの名前を冠した新作アイウエアコレクション登場

  • 2025.11.21

ニューヨークに実在する通りの名前を冠した「アイヴァン」の新作コレクション。クラシックな要素をサンプリングしながらも現代の空気感を絶妙に捉え服と同等か、それ以上にスタイルを左右する究極のファッショナブルアイウエア。 Allen 2023年、NYに誕生した「ビースティ・ボーイズ・スクエア」。その付近で出...

この冬買うべきは、主役になるピーコートとアウターの影の立役者インナースウェット、この2つ。

  • 2025.11.15

冬の主役と言えばヘビーアウター。クラシックなピーコートがあればそれだけで様になる。そしてどんなアウターをも引き立ててくれるインナースウェット、これは必需品。この2つさえあれば今年の冬は着回しがずっと楽しく、幅広くなるはずだ。この冬をともに過ごす相棒選びの参考になれば、これ幸い。 「Golden Be...

着用者にさりげなく“スタイル”をもたらす、“機能美”が凝縮された「アイヴァン 7285」のメガネ

  • 2025.11.21

技巧的かつ理にかなった意匠には、自然とデザインとしての美しさが宿る。「アイヴァン 7285」のアイウエアは、そんな“機能美”が小さな1本に凝縮されており着用者にさりげなくも揺るぎのないスタイルをもたらす。 “着るメガネ”の真骨頂はアイヴァン 7285の機能に宿る シンプリシティのなかに宿るディテール...

Pick Up おすすめ記事

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

雑誌2ndがプロデュース! エディー・バウアー日本旗艦店1周年を祝うアニバーサリーイベント開催決定!

  • 2025.11.21

エディー・バウアー日本旗艦店の1周年を祝うアニバーサリーイベントを本誌がプロデュース。新作「ラブラドールコレクション」や本誌とのコラボなど、ブランドの情熱が詰まった特別な9日間を見逃すな! 来場者には限定のブランドブックを配布! 今回のイベントに合わせ、「エディー・バウアー」をもっと知ってもらうため...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

着用者にさりげなく“スタイル”をもたらす、“機能美”が凝縮された「アイヴァン 7285」のメガネ

  • 2025.11.21

技巧的かつ理にかなった意匠には、自然とデザインとしての美しさが宿る。「アイヴァン 7285」のアイウエアは、そんな“機能美”が小さな1本に凝縮されており着用者にさりげなくも揺るぎのないスタイルをもたらす。 “着るメガネ”の真骨頂はアイヴァン 7285の機能に宿る シンプリシティのなかに宿るディテール...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...