仕事終わりにフラリと寄れば馴染みの店主たちが心地よく飲ませてくれる。
横丁文化の多くは戦後の闇市の名残りである。のちに作られた横丁も存在することは確かだが吉祥寺のハーモニカ横丁(ハモニカ横丁)のルーツは、焼け野原となり、荒れ野と化した吉祥寺駅前の闇市が始まり。で間違いないと歴史や地理に詳しい先生たちは口を揃えて語る。
入り組んだ細い路地にこじんまりとした個人商店がおよそ100軒並ぶ吉祥寺の北口エリア。このご時世では珍しく、昭和の面影を色濃く残す都内有数のしかも比較的密集率の高い横丁だろう。ハーモニカ横丁、通称ハモニカ横丁とは、間口の小さな店が軒を連ねるサマをハーモニカの吹き口に例えて呼んだことが由来とされている。
ここ数年、東京で住みたい街ランキングの上位に毎年名乗りを挙げるほど人気の街として知られているこの街。都会へのアクセスもしやすく、徒歩圏内に、ほどよく自然が残された井の頭公園。またファッションや飲食店に困らない住み良く便利な街であることが大きな要因として挙げられる。
そんな人気のエリアである吉祥寺でヴィンテージショップ「kokoro」を営む伊勢さん。都内の大学を卒業後、古着業界へと飛び込み早24年弱。いまでも現役のバイヤーとしてアメリカへと渡る。
「もともと卸をメインで買い付けに行っていて、自分のショップを持つ決心をしたのが12年前。吉祥寺にもちょこちょこと古着店はありましたが、高円寺や原宿ほど古着の強いイメージがなく。自分が買い付けてくるヴィンテージウエアのイメージがちょうど合っていたのが吉祥寺だったんです。自宅からも比較的アクセスしやすい場所だったということも大いに関係していますけどね。
ハモニカ横丁に通うようになったのは、吉祥寺の老舗漬物店として有名な清水屋の当代がボクの店に来てくれるようになり、そこから話が弾んでBAR 4328に行くようになったんです。ハモニカ横丁は明朗会計なスタイルが気に入っています」
伊勢さんへの取材をお願いしたのはアメリカへのバイイングから帰国した翌日。夜通しクルマを運転し、多い時で1万kmを超える距離を走り、ウエア類を買い付けるという過酷な仕事。疲れ切った身体を癒してくれるのは、大好物のビール。
「でもね、ここ最近、自宅でビールを飲むのを辞めたんですよ。なんとなく。気休め程度のノンアルコールビールは飲んでますけど。メリハリ? 健康的に?(笑)。その分、外で飲むときは、わりととことん飲んじゃってますね。買い付けの時もだいたい2週間ほどアメリカを走り回っているんですけど、その間、夕飯を食べずに代わりにビールのみ。家でもビールを飲んでいたら本当に毎日飲み続けていることになってしまう。だったら日本にいる時だけでも辞めてみようかなと。でも取材ならいつでも飲みますよ(笑)」
伊勢さんのショップから横丁まで徒歩5分ほど。老舗漬物店の清水屋の繋がりから、ちょくちょくハーモニカ横丁で飲むようになった伊勢さん。人との繋がりを大切にする彼の粋な性格は、飲みっぷりの良さを見ているとこっちまで心地よくなってしまう。
イヤらしさもなくナチュラルに行動できる彼のスタイルと笑顔に人としての魅力を感じ、引き寄せられる人が多いのも頷ける。現にハーモニカ横丁で初見の人が気軽に話しかけてこられるのは人の良さの表れ。彼の生まれ持つ才能だろう。もちろん買い付けのために幾度となく通っている海外生活における豊富な経験も大きく左右しているのかもしれない。
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