シニール(ワッペン) に込められた戦歴と自己主張を紐解くのが面白い。
元々はアメリカを代表するスポーツ、ベースボールのユニフォームのひとつで、ベンチでのインターバルやオフシーズンの練習用の防寒着に使われていたもの。ウール製のこのジャケットは、後に多くの野球チームで使用されるようになる。また、バーシティジャケットという別称もあることから、大学のスポーツチームでの採用が増え、これがきっかけで一気にメジャーなアウターへと昇華していく。
特徴は身頃がウールで袖部分はカウハイドなどのレザー製が一般的。当初はチーム名のみの刺繍やワッペンだったが、アワードジャケットという言葉からも分かる通り、記念の試合や過去の戦績をシニールと呼ばれるワッペンで各所に装飾するのが主流になる。大学のスポーツチームが記念品として、チームや個人に贈呈するジャケットとして親しまれたことも、世の中に多く流通した要因といえる。
こうしたデコレーションがスタジャンの印象をさらに独特のものにし、日本では’70〜’80年代にかけてファッションシーンを席巻する。昨今は’80sブームのリバイバルとも言われ、MA-1、スカジャンと再燃中の余波が、スタジャンへ及んでもおかしくないのだ。
スタジャンに腕を通す前に、このキーワードだけは押さえたい。
アメリカンカルチャーを代表するようなファッションである「スタジャン」。せっかくならそのディテールをしっかり知っておきたいもの。古着などを探すときも、このキーワードをもとに選んでみると面白いはずだ。
シニール
文字通り、スタジャンを飾るワッペンのこと。シニールとは飾りに使われる糸の織り方の名称なので、正式にはシニールワッペンと呼ぶのが正しい。その種類は無限大に存在する。
ブロック体
大学名のイニシャルなどを大型のブロック体で表現するのがスタジャンの最もポピュラーな装飾ひとつ。このブロック体の中にさらにスポーツ競技のモチーフを刺繍することも多い。
サガラ刺繍
シニールに配された刺繍の種類のことで、パイル上に埋められたボリュームのある刺繍が特徴。一本の糸をかぎ状の針で救い上げながら仕上げることで編み物のようになる。
ボディ素材
ボディに使われているのはウールを高密度に打ち込んだメルトンウールが主。肉厚で重量感のある生地感で、中綿はなくライニングはキルティングのナイロンであることが多い。
レター
左胸がイニシャルワッペンの場合、右胸には「レター」と呼ばれ、戦績やスローガンなどが文字で刺繍されているケースが多い。この場所でアイデンティティを表現するのだ。
リブ
リブは襟、袖、裾に設けられ、概ね1本、または2本のラインが入っている。1940年代以前のヴィンテージに見られる折り返し(ターンバックスタイル)を再現することが多い。
チェーンステッチ
モチーフのキャラクターやバック(背面)にデコレーションされた文字は、チェーンステッチで表現されることが多い。凹凸がありながら光沢糸を使った刺繍は華やかに見える。
袖素材
袖の部分にはカウハイドなどレザーが使われることが多い。元々は袖もウールだったが、スポーツでの激しい動きで裂けたりしたために、1940年代以降レザー製が増える。
スナップボタン
身頃の開閉は、その昔はボタンホール付きのボタン、一時はジッパーに、そしてスナップボタンへと進化していった。
▼ワッペンの基本の配置知ってる?
次は、有名アメカジブランドが手掛けたスタジャンアーカイブから選りすぐりのアイテムを紹介しよう。
本格派スタジャンが気になる!
アメカジブランド以外からもスタジャンがリリースされることがあるが、せっかくなら本格的な逸品が欲しいところ。人気のアメカジブランドが過去にリリースしたスタジャンをチェックしていこう!
WAREHOUSE(ウエアハウス)
素材はウエアハウス、組み立ては米国エベッツフィールドフランネルズが担当したボタンスタジャン。1930~’40年代頃まで採用されていた穴かがりのボタン式を取り入れたクラシカルなデザインかつ、高めのネックリブで風防はもちろん折り返して着用もできる。
胸の刺繍は、ウエアハウスがスタジャンで使用する密なサガラ刺繍を駆使して、当時のタイガーフェイスの風合いに近づけている。
日本に現存するウール用の力織機を使って弾力のあるウール生地を使用。当時のスタジャンの雰囲気を醸し出した仕上がりになっている。
FULLNELSON × SKOOKUM(フルネルソン×スクーカム)
袖幅や身幅をタイトに仕上げたフルネルソン別注のスクーカムのスタジャン。着込んでいくと独特な織りが見えてくるウールの風合いを楽しめ、流行に流されないシンプルなデザインでコーディネイトもしやすく長く愛用できる一着に仕上がっている。
ファラオタイプのダブルジッパーになっているので、座ったとき下だけ少し開けるとキツくなく座りやすいのがいい。
柔らかく肌触りよく織り上げたネックリブ。少し長めなので折って着用するのがよいだろう。また袖のリブも長めなので、こちらも折って着用すべし。
VANSON(バンソン)
ナイロン製の袖の星マークが印象的なメルトンスタジャン。右胸と背中にはチェーン刺繍、両胸にはサガラ刺繍のワッペンと様々な技術を融合させた仕上がりだ。バリエーションとして袖がカモフラ柄にブラックの星を施したモデルもある。
アイボリーとブラックの糸で右胸のチェーン刺繍。立体的かつ緻密でとても風合いのある仕上がりが魅力だ。
星形のワッペンは中綿ナイロンツイルで作られている。かすかにふんわりと盛り上がり、存在感のあるあしらい。
STUDIO D’ARTISAN(ステュディオ・ダ・ルチザン)
世界最高峰の縫製技術で知られる群馬県桐生で製作されたスタジャン。ボディには高密度に編み込まれたメルトンウール、袖にはホースハイドを使用した贅沢なマテリアル。立体感のあるサガラ刺繍は職人の手によりひとつひとつ丁寧に仕上げられいる。
リブはスタンダードなものよりも少し厚めで、4本のラインが入る豪華な仕様。頑丈な輪編みで着込むごとに体に馴染んでいく。
背中にはダルチザンのキャラクターとしてお馴染みのブタさんも、チェーンステッチによって描かれている。立体感のある刺繍の凹凸は熟練職人の手仕事がなせるわざだ。
RUSSELL ATHLETIC(ラッセル・アスレティック)
こちらもラッセル・アスレティックのオーソドックスのスポーツスタジャン。胸元と背中にあしらったワッペンが特徴的で、よく見ると昔ながらの縫い付け技法が使われている。それがまた味があって、クラシカルな印象だ。
ワッペンは昔ながらの縫い付け技法を採用。長年、アメリカの大学やプロのスポーツウエアを提供してきたラッセル・アスレティックらしいこだわりが窺える。
WHITESVILLE(ホワイツビル)
ブラックのメルトンウールにクリーム色のカウハイドの袖、旧きよきスタジャンの魅力を存分に味わえるコンビネーションに、盛りだくさんのシニールで味付けした絢爛豪華な1 着。背面にはボリューム感満点のサガラ刺繍によるデコレーションが入る。
チームのキャラクターが背面にデコレーションされるのはスタジャンの定石。サガラ刺繍による贅沢なボリューム感を味わってほしい。
左腕に入ったフットボールのワッペン。チャンピオンリーグを制覇した際の記念モチーフが豪華に2つも入っている。
▼最新のスタジャンはこちらの記事でチェック!
※サイズ表記は、各ブランドの表記に準じています。
※情報は取材時のものです。
(出典/「Lightning Vol.270」「Lightning Vol.271」)
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