ちょい不良だけがイタリア文化にあらず!
『世界トラッド漫遊記』の最終回は、なんとイタリアからお届けします! 赤峰さんにとっては、とても縁深い国なんですよね。
赤峰 そうです。1980年代から仕事で足繁く通い、90年代後半にはミラノにアパートを借りて、ほぼ住んでいましたから。
イタリアというとピッティを闊歩するちょい不良オヤジのイメージが強いですが、赤峰さんも昔はちょい不良だったとか?
赤峰 そういうのは、私が一番嫌いなイタリアですから!
失礼しました!
赤峰 私は少年の頃から、ロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』や、ルキノ・ヴィスコンティの『揺れる大地』といったネオレアリスモの映画を見て育ちました。敗戦後の貧しいイタリアを舞台に、現実を直視した社会的な映画作品のムーブメントです。自分の社会に対する視点はこれらの映画を通して培われましたし、イタリアの映画監督の、見せかけではない格好よさにもずいぶん影響を受けました。ズボンの裾幅がどうだとか、表面的な装いだけをもてはやす傾向には、全く感心しませんね。
す、すみません。その文化の真髄とは一体なんでしょうか?
赤峰 塩野七生さんとか須賀敦子さんのエッセイくらいは読んでおいてほしいけど、端的に言えば、ひと口に“イタリア文化”と呼べないところなんですよ。
“イタリア料理”なんて存在しない。
それはどういう意味ですか?
赤峰 イタリアが国家としてまとまったのは、1861年のこと。それまではフィレンツェ共和国やミラノ公国といった具合に、多くの都市国家に分かれ、独自の文化を培ってきました。単純にイタリアと一括りにはできないんですよ。ですから、本来〝イタリア料理〟なんてものは存在しません。あるのはその土地ごとの、郷土料理なんです。だから私は、イタリア国旗を掲げているようなレストランには絶対に行きません。
観光地でよく見ますね(笑)。
赤峰 そうした風潮に異を唱えるべく、80年代に私が監修したのが、恵比寿のトスカーナ料理店「イル・ボッカローネ」。郷土料理というコンセプトを掲げたイタリアンは、日本で初めてでしたよ。
赤峰さんは日本にイタリア郷土料理を広めた先駆者なんですね! ちなみに、イタリアでよく行くお店はどちらなんですか?
赤峰 ミラノの「ラ・ラッテリア」には、もう何十年も通ってます。予約不可、クレジットカード不可という不便なお店ですが、オーナーのマリアさんが本物の郷土料理、家庭料理を食べさせてくれる食堂です。私はガイドブックなんて見ずに街を歩き回って、おじいさん、おばあさんがやっているようなお店を探す。そうすることで、その街の食文化を象徴するお店を見つけることができるんです。
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- 2025.01.17
映画に登場するコーディネイトを真似たい、 そこから古着の道へ。