英国眼鏡史に名を刻むアートピース。
数奇な歴史を持つロンドンの伝説的眼鏡工房“アルガ ワークス”は、国民的メーカーとして成長後、衰退し、米国AO(アメリカン・オプチカル)社に買収され、「サヴィル ロウ」が創設された。
ところが同工房は古式ゆかしい製法を貫くがゆえに、利潤を生みにくく、AO社はすぐさま手放すことになったのだが、“赤字でも守るべき”と、英国の世界的企業インスペックスによって、再び本国に買い戻されることとなった。

しかし今度はコロナ禍と区画整理の波が押し寄せ、2020年に工房はイタリアに移設されることになったのだが、特筆すべきは莫大なコストをかけて、使われていた古めかしい機械も、90年間継承してきた伝統技法も丸々継承している点だろう。

英国眼鏡業界をして残すべき文化遺産的対象とみなす、サヴィル ロウの眼鏡。大量生産できず、現状受注生産しか請け負わない、否、請け負えない工芸品は、メガネ好きなら一度は触れる価値があるはずだ。
ベースモデルは現状4型。
最初はベース選び。NHSのサプライヤー時代から展開される代名詞の“パント”や、丸味を帯びたスクエア型の“クアドラ”、ラウンドの“ワーウィック”、ボストン形状の“ビューフォート”等、クラシカルな型が揃う。現状は4型のみの展開だが今後は拡充予定。




細かなパーツまで自分たちで作り出す英国の国民的眼鏡。
写真はロンドン・イーストエンド時代の工房の風景だが、主たる機械や製作技法はイタリアに移設以降もほぼ同じ。大小様々な機械を駆使して、細かなパーツもすべて自分たちの手で製作するフルハンドメイドだけに、一本のフレームを作るために必要な工程は、なんと140以上にのぼる。
同ブランドの眼鏡が、どこか素朴で柔和な佇まいに仕立てられる理由は、まさにこの合理的生産体制と対を成す、あまりにクラシックな生産工程によるものだろう。
かのジョン・レノンは、1967年に映画「ジョン・レノンの僕の戦争」に出演した際、小道具としてアルガ ワークス製のメガネを着用し、この普遍的な姿に心酔。それが契機となってメガネ愛好家になったという逸話も残る。
下の写真は代表作パントをベースにした完成見本。フレームカラーやセル巻き(フレームにアセテートを巻き付ける仕上げ)の有無、テンプルの種類(通常タイプと写真の縄手タイプ等複数あり)など、細部の意匠も細かくオーダー可能だ。
別途料金が発生するが、各部位のサイズをミリ単位で調整してもらうことも可能。納期は約2カ月(23年1月から受注開始予定)。8万8000円~
【DATA】
ブリンク 外苑前
東京都港区南青山2-27-20 植村ビル1F
TEL03-5775-7525
営業/12:00~20:00
休み/月曜
(出典/「2nd 2023年2月号 Vol.191」)
Photo/Koki Marueki(BOIL) Text/Masato Kurosawa
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