『2nd(セカンド)』2月号「第一特集 飾らない機能美こそ、究極のデザイン。服=道具」
冒頭でも述べた通り、服は本来道具として生み出されたものがほとんど。デニムは鉱山労働者たちのための労働着、ダウンジャケットは寒さから身を守るための防寒着、といったように道具としての必要性に迫られたからこそ、服は発展を遂げてきた。また、それらの服は、シンプルゆえ現代のファッションにも取り入れやすく、流行に左右されることのない一生モノとして多くの人々に愛されている。本特集では総勢50人ものファッション巧者たちが登場、それぞれが“道具”であると考える服をたくさんご紹介いただいた。
僕にとっての“道具服”とは
ひと口に“道具”と言っても、その捉え方は人によって様々だ。道具のなかにファッション性を見出して楽しむ人、そもそもファッションとして生み出されたものをまるで道具のようにガシガシ使う人など。今回あえてその定義は厳密に定めていないからこそ、それぞれのアイテムに愛用者ならではの個性的なストーリーが光る。冬のアウトドアフィールドで死にかけた体験を元に、史上初のダウンジャケットを開発したブランド「Eddie Bauer(エディバウアー)」の代表作「カラコラムダウンジャケット」はまさに道具。「メイデンズショップ」のディレクター兼バイヤーである牧野真也(まきの・しんや)さんが愛用するこちらは、5年前に古着店で出会ったという「カラコラム」。おそらく最初のオーナーによって、50年代に踏破した山脈がワッペンで刻まれていたり、胸と袖に自らポケットを追加していたりと、道具として愛用されていたことがひと目で分かるそのルックスには、なんとも形容しがたいオーラがある。
小林学とオーバーオール。
“道具服”と常日頃から向き合い続けている35SUMMERS(35サマーズ)の寺本欣児(てらもと・きんじ)さん、POST O’ALLS(ポストオーバーオールズ)の大淵毅(おおふち・たけし)さん、AUBERGE(オーベルジュ)の小林学(こばやし・まなぶ)さんら、3名のビッグネームも登場。彼らに関しては1点のみならず、それぞれにウエスタン、シャンブレーシャツ、オーバーオールなど定番の“道具服”、1カテゴリに絞って、約16~18点にも及ぶアイテムを大量に見せていただいた。小林学さんは60年代以前のオーバーオールのみを16点披露。「30歳になるまで、下着とシューズ以外は60年代以前のものだけを着る!」という若かりし頃の厳しいルールに従って集めたヴィンテージの数々は、これまでに見たことのない“本物”ばかりだ。
テリー・エリスと北村恵子の道具服。
こちらは2022年10月に高円寺にオープンした「MOGI Folk Art(モギ フォークアート)」というショップの一角。見てもらえれば分かるとおり、ウエアから器などの民藝品まで、今回の特集テーマである“服=道具”を体現しているお店と言っても過言ではない。なにを隠そう、この店を営んでいるのはテリー・エリスさんと北村恵子(きたむら・けいこ)さんご夫妻。80年代中期にはビームスロンドンオフィスを立ち上げ、90年代中期以降はビームスモダンリビングやフェニカといったレーベルを発案したふたり。日本や北欧を中心とした世界中の手仕事と伝統文化の魅力を広めた第一人者である。そんな彼らがオープンした「モギ フォークアート」では、日本の伝統的雨具としてお馴染みの蓑(みの)の柄を落とし込んだセーターなど、まさに“服=道具”であるということを実感することができるものがチラホラ。おふたりの思う“道具服”はもちろん、同店で取り扱いのある商品もたっぷりとご紹介する。
「ボクたちの平成ドラマ」
令和の現在、世はひっそりと空前の「平成レトロブーム」を迎えている。CDやレコード、シティポップといった音楽シーンやファッションなど、どこもかしこも平成だらけ。その中でも注目を浴びているのが、平成に放送された地上波のドラマだ。作品を懐古する人や「新しい!」と楽しむ若者たちによって、サブスクの平成ドラマの検索率も急上昇しているそう。そこで2ndはこのたび、脚光を浴びている「平成ドラマ」を大特集。なんと週に34本の連続ドラマを見ているという大のドラマ好き、芸人の塙宣之(はなわ・のぶゆき、ナイツ)さんへのインタビューから始まり、ドラマ好きのファッション業界人が選ぶ名作ドラマでは、『白い巨塔』や『私立探偵 濱マイク』など懐かしの作品たちがスポットを浴びる。その他、平成31年間に放送したドラマと事件を網羅した年表など、「平成ドラマ」というテーマを軸に多角的に深掘りした、ボリューム満点の16Pにわたる特集。世代の方もそうでない方もぜひご一読いただきたい!
「名門のビスポークで歴史の一部になる」
自らの体型に、好みに、目的に100%合致する、言わば至高の嗜好品を探し求めるとき、ビスポーク以上の買い物術は存在しない。今回はそうした“完全自分仕様のアイテムを創り上げる”という、この究極の買い物術に“歴史の一部になる”という付加価値までプラスしてくれる、リーバイスなどの名門が実施しているビスポークサービスにフォーカス。奇しくもジーンズが生まれた起源を辿ると、仕立て屋であったヤコブ・デイビスが、ある顧客から「耐久性に富むズボンを」というオーダーを受け、リベットで補強するアイデアをひらめいた瞬間こそがその起源である。つまりテーラーと密に語らい、ともに自分だけのジーンズを仕立てるこのサービスは、ある意味その起源に立ち返る、愛好家にとって極めて有意義なサービスと言えるだろう。リーバイスのほか、サヴィルロウのメガネ、モンブランの万年筆、フォックス・アンブレラの傘、大和屋シャツ店のシャツなど、意外と知られていない名門ブランドのビスポーク。各分野の“上がり”を求める人は、本特集を通してぜひその真価に触れてほしい。
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「服=道具」特集に「名門ビスポーク」特集、どちらも“一生モノ”について考えなおすことのできる特集、という点で共通している。服や情報が大量に消費されてしまうこんなご時世だからこそ、これら“一生モノ”に対する向き合い方を見直すべきではないだろうか。そんな考えに少しでも共感してくれる方は、きっとこの2月号が満足できる内容であることを保証する。番外編のような立ち位置でありながら、驚くべきボリューム感の「平成ドラマ」特集も侮れない。一日だけでは読み切れない、バラエティに富んだ2月号をぜひチェックしていただきたい。
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