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これからスポーツエンタメ分野で起こるテクノロジー革命【SCRUM CONNECT 2024×SPORTS INNOVATION STUDIO デモデイ】

西海岸のスタートアップマインドと、日本を繋ぐベンチャーキャピタル『Scrum Ventures』のイベントが、2024年2月29日に東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで開催された。今回のテーマはスポーツとエンターテイメント。イベントは2部構成となっており、前半は『SCRUM CONNECT 2024』として、西海岸、そして世界のスポーツ&エンターテイメントの世界に起こってる革新を。後半はスポーツ庁とScrum Studio共同で行ってる『SPORTS INNOVATION STUDIO』のデモンストレーションや表彰式が行われた。

ファウンダー宮田拓弥が語る、世界の新たな潮流

従来、日本でスポーツといえば『根性論』や『アマチュアイズム』の影響がまだまだ残っているが、世界では、テクノロジーの力を活かして、エンターテイメントとして、ビジネスとして大きなムーブメントが起こり始めている。

前半の『SCRUM CONNECT 2024』については、冒頭のScrum Ventures代表・GMの宮田拓弥さんのプレゼンテーションに沿ってご紹介しよう。世界で起きている大きな変革の重要なポイントは、『データドリブン』『視聴体験の革新』『ソーシャルメディアドリブン』『新たなマネタイズ』『グローバル』の5つ。

データドリブン

まず、『データドリブン』。チケッティングやコンテンツ提供において、現在のチケッティングでは、本当にチケットを欲しいと思っている人が手に入らなかったり、逆にもっと作り込んだコンテンツを作ることで、もっと大きなフィーを払ってでも観戦・視聴したいという人がいるのに、システム的にそれが上手くいっていない側面がある。

たとえば、イベントディスカバリープラットフォームの『Fever(フィーバー)』は、データ駆動型で『体験』を制作・キュレーション。まるでネットフリックスが映像コンテンツについて行ったように、現実世界のイベントの価値を高めてチケット(=参加する権利)を提供するシステム。

Feverはチケットのマーケットプレイスだが、ネットフリックスがそうであるように魅力的なオリジナルコンテンツを持っている。森の中にハリー・ポッターの世界観を再現した体験型コンテンツや、何千ものキャンドルライトを設置したコンサート『Candlelight』など、大きなIPとも協業し、新たな体験を生み出している。

視聴体験の革新

VRやAIによって、視聴体験は大きく変わる。それが『視聴体験の革新』だ。たとえば、世界水泳などで競技の映像に世界記録のラインが表示され、『三苫の1mm』のように、ジャッジにおいてもテクノロジーが役立ち、あらたな感動を生む原動力となっている。

撮影された映像をAI補完し360度映像として提供したり、VRデバイスを使って、競技を目の前で見られる……というような状況が、もう現実化されつつある。

ソーシャルメディアドリブン

『ソーシャルメディアドリブン』では、タイガー・ウッズが立ち上げた新たなゴルフリーグ『TGL』や、ランニングブランド『Bandit』の例が挙げられた。TGLは、シミュレーターによるロングショットや、ショートパッドを多数のアクチュエーターで起伏を再現するスタジアムにおいて観客の眼前で行う方式。

ルイス・ハミルトン、ジャスティン・ティンバーレイク、大谷翔平、セリーナ・ウィリアムズなど、多くのSNSフォロワーを抱える有名人がTGLに出資しており、彼らがその莫大な影響力を持ってSNSに投稿することが、TGLの成功を約束している。

『Bandit』はニューヨークのランニングコミュニティから、感染症流行まっただ中の2020年に生まれたブランド。ユーザーからのリクエストを積極的に反映することが特徴で、ユーザーに強く支えられている。

新たなマネタイズ

スポーツ・エンターテイメントには価値があるのに、これまでそれがプレーヤーやスポーツを支えている人たちに分配されていないという側面があった。『新たなマネタイズ』は、テクノロジーを使って新たな価値を創造するという変革だ。

サッカープレーヤーのメッシとApple TVの契約では、Apple TVの会員が増えるとメッシに利益が分配されるという契約だ。その結果『MLSシーズンパス』の契約者は100万人を突破し、契約者数は倍増したという。

日本ではまだ受け入れられそうもないが、大学アスリートを利用したビジネスプラットフォームも注目されている分野だし、スポーツベッテング(賭け)も、大きなお金を産んでいる。2024年のスーパーボール1試合でなんと2.3Bドル(3500億円)が投じられたというから、その影響力の大きさには驚かされる。

グローバル化

そして、『グローバル化』だ。テクノロジーはますます世界を小さくする。ひとつの国での流行にとどまらず、世界市場を捉えることが重要だ。

K-POPは、韓国、日本で人気なのは言うまでもないが、この2カ国は世界全体のK-POPマーケットの1/4にも満たない。残りの75%以上は、世界の他の国から収益を上げているのだ。アメリカで設立された『TITAN CONTENT』というKポップエージェンシーは当初からグローバルを想定し、2028年までに6グループをデビューさせるという。

『SCRUM CONNECT 2024』では、ここに紹介した企業の創業者や、CEOが登壇し、トークセッションに参加した。

FリーグとJAFの課題を解決

後半はScrum Studioがスポーツ庁と行っている『SPORTS INNOVATION STUDIO』の成果発表を中心に行われた。

開会のメッセージを伝えて、Scrum Ventures代表・GMの宮田拓弥さんと対談したのはスポーツ庁長官である室伏広治さん。先に紹介したFeverの例や、MLBドジャースがElysian Park Venturesというベンチャーキャピタルを運営していること、NFLのパッカーズがTitletown Techというコミュニティタウンを立ち上げていることなどを挙げて、今後、スポーツとテクノロジーの融合が非常に大切であることが語られた。

SPORTS INNOVATION STUDIO オープンイノベーションピッチ は、スポーツ庁との協業事業で、特定分野のスポーツに関して可能性を広げるスタートアップを募り、グロースを支援するという取り組み。現在は、プロフットサルリーグである Fリーグと、 JAF(日本自動車連盟)との取り組みが行われており、その成果発表会が行われた。

プレゼンテーションを行ったのは、AI生成ベースのFリーグ公式チャットボットを制作した『BORDERLESS』、Fリーグのドキュメンタリーコンテンツを制作した『Ascenders』、ウェアラブルセンサーの『Knows』、自動運転レースの選手権を開催する『Virtual Motorsport Lab』など8社。それぞれに、この1年間での成果が語られた。

『スポーツイノベーション大賞』に『HATTRICK Auction』

続いては、スポーツの活用を通じて生れたイノベーティブな取り組みについて表彰する『スポーツイノベーション大賞』の表彰が行われた。

『ビジネス・グロース賞』『スポーツイノベーション大賞』に選ばれたのは、『「HATTRICK Auction」~チームにとっては不要でも、ファンにとっては宝物に~』として、競技チームで不要になったアイテムのオークションを行うバリュエンスジャパンだった。従来廃棄されてきた、チームのウェアや、バナーなどをアップサイクルしてオークションを行い、チームの運営基盤に寄与するという取り組みだ。

『ソーシャル・インパクト賞』に輝いたのは松本山雅FC所属の現役である浅川隼人選手が創業したresolist。取り組みは『奈良県全域を走る移動式こども食堂』だ。現在日本の子どもの貧困は7人にひとり。ひとり親家庭においては約半数が貧困層だという。奈良県は6人にひとりとさらに状況は悪い。経済的に困った経験のある人がなんと約70%……という状況で、ひとり親家庭はこの20年で約2倍になっているという。その状況を何とかしようという浅川選手の取り組みが多くの共感を呼んだ。

そして、『パイオニア賞』は、渋谷未来デザインの『AIR RACE X』。エアロバティクスやエアレースで多くの人に勇気を与えてきた室屋義秀選手の取り組みで、XRを使って渋谷の街中で時速400km/hでのエアレースを実現するもの。多くの人に空を見上げてもらう新しい取り組みへのチャレンジが評価された。

つい熱中してしまったZENKAI RACINGのシミュレーター

会場にはプレゼンテーションした企業を中心としたブースも出展された。

筆者が惹かれたのは、ZENKAI RACINGのレーシングシミュレーター。電動アクチュエーターを利用したモーションダンパーを使った独自の4.1軸機構のシミュレーターで500万円ほどするそうだが、体験してみると実際に(傾きによって表現される)Gも感じるし、ステアリングやブレーキペダルにキックバックも感じる。それらの感覚が相まって、コーナーでタイヤがスライドしているのも感じられるほどリアルなシミュレーターだ。実際に、レーシングドライバーも練習に使ったりするのだという。

500万円というと高く感じるかもしれないが、フォーミュラカーや、GTカーを1台製作してクラッシュさせると数千万円から、数十億円かかることを思うと、あるていどのことをシミュレーションできる本機は安価だといえる。

実際に鈴鹿のコースを何周か走らせてもらった。筆者はバイクの草レースで鈴鹿を走ったことがあるが、ダンロップコーナーの上り坂によって先が見通せない感じや、スプーンで徐々にGが高まっていって曲がりきれなくなる感じ、バックストレートの下って、上がっていく感じなどはとてもリアル。

しかし、シミュレーションに対する慣れというのもあるだろうが、ヘアピンやシケインに入って行く減速時の速度感が掴みづらく、例えば、80km/hまで減速したいのに、150km/hでコースアウトしたり、40km/hで遅すぎたりと、上手く走れなかった(たいていコースアウトしてしまっていた)。逆にいうと、そこにこだわってブレーキをつめたくなるぐらいリアルなシミュレーターだった。

乗せてもらったのはGTカーだったのだが、コースアウトを連発しながら出したタイムが奇しくも私が400ccのバイクで出したタイムと同じだったので(つまり、300km/h出るGTカーにしてはとても遅いのだが)、私が近い速度感で走ってる……という意味では、それだけリアルにシミュレーションされているのかもしれない。

クルマ好きなので、ついこの展示に熱中してしまったが、他にも東大発のベンチャーが開発した藻類から作ったサプリだったり、登壇者のプロダクツが展示されていたりと、こちらも盛り沢山だった。

テクノロジーでスポーツ振興を!

その後のネットワーキングの時間を合わせると、7時間半にも及ぶ長いイベントだったが、さまざまなスタートアップを見ることができ、スポーツとテクノロジーが融合した際の可能性を大きく感じるイベントだった。

もちろん、日本では『スポーツで利益を上げる』ということに対して忌避感がある部分もあるが、収益が上がらないと我々の大好きなスポーツも続かないし、マイナースポーツやマイナーチームでもちゃんと運営していける利益を挙げられる体制を作れた方がいいことは言うまでもない。収益が上がることで、スポーツ産業自体が振興していくことは素晴らしいことだ。

アメリカや世界の事例を見ていると、日本もスポーツで利益を上げることに対する忌避感を乗り越えて、よりスポーツビジネスを振興させていく必要があるのではないだろうか?

(村上タクタ)

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村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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