社会情勢から余儀なくされた仕様変更が、今や人気の大戦モデルに。
19世紀半ば以降、アメリカでワークウエアに最適な素材としてフランスから輸入したデニムを使ったことで、アメリカでのデニムウエアの歴史は始まった。以来、アメリカ産のデニムを使ったワークウエアは、ワークウエアやランチウエアだけでなく、アメリカ軍が制式採用するウエアにも使われている。これは第一次大戦から存在し、1930年代にはバリエーションが増えたことで、第二次世界大戦時には非常に多くのデニムウエアが採用されていた。
第二次世界大戦が勃発した1939年、アメリカには数多くのワークブランドが存在。彼らは皆デニムウエアを一般販売していた。しかしアメリカにとって戦況が著しく悪化した1941年後半から、軍需を優先するために一般販売されていた商品にも仕様の規制がかけられた。これは使用する生地や部材を削減することが目的だ。
それによって、多くのデニムウエア(他の生地も同様)が、この時期だけの特別な仕様にすることを余儀なくされたのだ。例えばカバーオールの場合、通常4つポケットだったものを2つにし、ブランド刻印入りのボタンは軍でも使う月桂樹ドーナツボタンに変更。しかもフロントは4つボタン、カフスは1つボタンが義務付けされた。ポケットの補強布も排除され、ポケットのステッチもなくなった。これが今人気の「大戦モデル」だ。まさに戦争関連のデニムの象徴だ。
戦争によって生まれたユニフォームとしてデザインされたもの、戦争によってデザインを簡素化せざるをえなかったことで生まれた戦時下だけの一般市民向けのワークウエアのデザインなど、二度の世界大戦はデニムウエアのデザインに大きく関わっていたほど、市民生活に欠かせない存在だったことがおもしろい。
また戦争の次期だけに作られたデニムウエアが今では「大戦モデル」として特別な価値が生まれているということも見逃せない。
(出典/「Lightning 2024年6月号 Vol.362」)
Text/T.Miura 三浦正行
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