歴代フォード・マスタングの軌跡。全七世代を深掘りしてみる。

フォードを代表するエポックメイキングなモデルといえば数多いけど、その筆頭ともいえるのがフォード・マスタングの存在だろう。1964年にデビューし、現在もモデルチェンジしながら生き続ける名車のひとつ。当時、巨大化したボディとエンジンが全盛期というアメリカで、コンパクトでスポーティなルックスで登場したマスタングは、多くの装備や仕様をチョイスできる販売方法で驚異の販売台数を記録。それ以来、フォードを代表するモデルとしていまもなお君臨している。その軌跡をここでおさらいしてみる。

様々な仕様が選べるスペシャリティカーとして生まれた。

1964年に発表されたマスタング。当時としては画期的な発想によって生まれた。Photo by Ford Motor Company

いわゆる箱形のセダンやクーペでもなく、スパルタンなスポーツカーでもない。マスタングは当時、アメリカのクルマのカテゴリーに存在しなかったスペシャリティカーという位置付けで生まれた。コンパクトなボディは若者や女性にも扱いやすく、それでいてスポーティなルックス。さらにエンジンの排気量から内装、快適装備に至るまで、乗り手の好みでチョイスができたことから、同じモデルでもリーズナブルに乗ることもできれば、フルオプションの高価格モデルまでオーダーできたことがその勝因。いわゆる老若男女、すべての人の好みに対応した販売戦略が当時としては新しかった。

マスタングに代表される車種はポニーカー(ポニーとは小型の馬)と呼ばれ、フォードのアッパーブランドだったマーキュリーからはクーガー、ライバルだったGMはシボレーからカマロ、ポンティアックからファイアバードを発売、クライスラーはダッジからチャレンジャー、プリムスからクーダを発売するなど、ライバルも追随することで、新たなアメリカ車のカテゴリーを作り出したモデルになった。マスタングはアメリカ車の歴史に欠かせないモデルなだけに、進化の歴史を振り返ってみる価値はあるぞ。

第一世代 1965(1964 1/2)-1973年

 

1965年式のファストバック。ファストバックはセカンドシートが折りたたみできる2+2仕様だった。Photo by Ford Motor Company
ホットバージョンだったシェルビーGT350は、コブラを産んだキャロル・シェルビーとフォードのコラボレーションで生まれたハイパフォーマンス仕様。走りの部分が強化され、エンジンは300馬力を超えていた。Photo by Ford Motor Company

コンパクトカーとして販売していたフォード・ファルコンをベースに、1964年の4月に発売されたことから、1965年式、もしくは1964 1/2(’64ハーフ)と言われる初代。ボディはクーペとコンバーチブル、それに2+2も座席を持ったファストバックがラインナップされた。

エンジンは約2800ccの直6と約4200ccのV8がチョイス可能だったでけでなく、ブレーキやデフ、内装のトリムやメーターパネルの種類まで多彩なチョイスが可能だったことから、すべての世代に順応したパッケージが可能だったこともあり、爆発的な人気車種に。

ACCAトランザムレースのホモロゲーションモデルとして生まれたBOSS302。当時からマスタングはサーキットでも躍動した。Photo by Ford Motor Company

当時はマッスルカーブーム全盛期だったこともあり、1969年式にはマッハ1やBOSS302、BOSS429といったハイパフォーマンスモデルも登場する。

1971年式にビッグマイナーチェンジして、ボディサイズが大きくなり、ロンズノーズ&ショートデッキが強調されるデザインになったが、オイルショックの影響で第一世代の後半は販売が低迷した。

1973年式マスタング・マッハ1。アメリカでは”マック1″と発音されるホットモデル。初代の後期モデルはボディも大きくなり、ロングノーズになった。フォード・ファルコンの共通のプラットフォームで製造されていたのはこのモデルまで。Photo by Ford Motor Company

第二世代 1974-1978年

1978年式マスタングIIのホットバージョンだったキングコブラ。エンジンフードに大きなデカールが装備され、いかにも1970年代のアメリカ車らしいスタイリング。Photo by Ford Motor Company

オイルショックによって経済的でコンパクトなクルマへの需要が高まったことで、巨大化していたマスタングもフルモデルチェンジによって小型化される。

フォードが当時販売していたコンパクトカーのピントをベースに開発されて、車名もフルモデルチェンジによってマスタングIIになった。ボディはコンバーチブルがなくなり、ハードトップとハッチバックの2種類に。

エンジンラインナップもマスタング史上初めてラインナップされた直4(約2300cc)とV6(約2800cc)の2種類に絞ったけれど、やはりそこはアメリカ、多くのユーザーが求めていたV8エンジンが1975年には復活したのがおもしろい。

マスタングIIはそれまでのスポーティカーとしてではなく「小型車のファーストクラス」というキャッチコピーで、まったく違う性格を押し出すことになった。

ちなみにデザインはイタリアのカロッツェリアであるギア社が担当している。

第三世代 1979-1993年

製造するプラットフォームから新機軸となった第三世代。スタイリングも1980年代らしい良い意味で野暮ったさがある。これは1980年式。Photo by Ford Motor Company

先代のコンパクトカー志向を継承して、当時のピントなどの生産ラインとして存在していたフォックス・プラットフォームを採用したことで”フォックス・ボディ”と呼ばれる第三世代。

それまで継承されてきた丸目2灯のフロントマスクは角目4灯へと変わり、当時の欧州車や日本車などのデザインに寄せるようなカタチになった。

2ドアのみという設定は変わらず、ボディはハードトップとハッチバック式の3ドアを設定。エンジンは史上初めて2300ccの直列4気筒ターボがラインナップされ、ハイパフォーマンスモデルはマッハ1の代わりにコブラパッケージが設定された。

1986年式から燃料噴射がキャブレターからフューエルインジェクションになり近代化した。これは1986年式GT。Photo by Ford Motor Company

1982年にはそれまでのコブラに代わり、新設計の302V8(5000cc)が搭載されたGTモデルが登場。1983年式にはラインナップから落ちていたコンバーチブルが復活している。

1987年式にビッグマイナーチェンジが行われて、フロントマスクは角目2灯になり、1986年にデビューしたフォード・トーラスとデザイン的に似たスタイルになった。

ホットモデルとしてはこの世代の最終年式となる1993年にSVT(スペシャル・ヴィークル・チーム)がチューニングしたSVTコブラが設定された。

ビッグマイナーチェンジによってかなり見た目が変わった第三世代後期モデル。それまでの角目4灯から脱却した。口を開けていた大きなフロントグリルもなくなり、今見ると、これもなかなかクラシカルに見える。写真は1987年式コンバーチブル。Photo by Ford Motor Company

第四世代 1994-2004年

先代のぜい肉をそぎ落とし、初代マスタングのイメージをデザインに取り入れた第四世代。現代マスタングに繋がる最初の世代ともいえるデザイン。これは1998年式クーペ。 Photo by Ford Motor Company

いわゆる1980年代に主流だった直線基調のデザインから脱却し、曲線を多く取り入れたデザインに生まれ変わった第4世代。それだけでなく、初代マスタングのイメージをデザインに取り入れ、原点回帰したモデルとなった。

エンジンは4気筒が廃止されて、3800ccのV6と5000ccのV8エンジンというラインナップに。さらに先代から受け継がれたSVTコブラも継続された。

第四世代後期モデルは1999年にマイナーチェンジ。”ニューエッジスタイリング”と呼ばれるシャープで引き締まったボディデザインに変更された。また、クラシック・マスタングをイメージした映画『ブリット』仕様(2001年式)やマッハ1やコブラ(2003、2004年式)といったスペシャルなモデルも登場した。

第四世代後期モデルは前期モデルをさらにシャープにしたスタイリングに。これは 2004年式SVTコブラ。ボディサイドにコブラのエンブレムが装着される。Photo by Ford Motor Company

第五世代 2005-2014年

エッジを効かせたスタイリングからクラシカルなスタイルに原点回帰することで丸目2灯が復活。このころのアメリカ車はフォードだけでなく、往年のクラシックモデルを現代的にアレンジすることがちょっとした流行になっていた。Photo by Ford Motor Company

フルモデルチェンジして生まれた第五世代は、レトロフューチャリズムというデザインコンセプトの元、1960年代のマスタングを彷彿とさせる姿で2004年の北米モーターショーで発表された。

往年のモデルを思わせるデザインを各所に取り込みながらモダンなスタイルに仕上げることで昔ながらのファンにも歓迎されるモデルとなったけれど、オールドマスタングと比べると、少々ぼってりとしたデザインに。

2010年にはフェイスリフトによるマイナーチェンジした第五世代の後期モデルが登場。クラシカルな部分を残しながらもシャープな顔立ちへと進化した。

搭載されたエンジンは4000ccのV6と4600ccのV8。後期モデルの2011年式からは、3700ccのV6、5000ccのV8エンジンになって、スタイリングだけでなく、パフォーマンスも近代化される。ボディバリエーションはクーペとソフトトップのコンバーチブル。

また、2010年式からホットモデルとしてスーパーチャージャーで過給した5400ccのV8エンジンを積んだシェルビーGT500や、2012、2013年式にはGTモデルに搭載していたV8エンジンをチューニングしたBOSS302も販売され、世代を超えて楽しめる様々なバリエーションがラインナップされた。

第五世代後期モデルはフェイスリフトによって精悍な顔つきに。これは2011年式GTカリフォルニア・スペシャル。Photo by Ford Motor Company

第六世代 2015-2023年

大きく口を開けたフロントグリルを配したデザインは踏襲しながらも、丸目を廃止してシャープなスタイリングに生まれ変わった第六世代。といっても1960年代のマスタングをイメージしたデザインを上手に残すことで、伝統もキープしている。Photo by Ford Motor Company

リアの縦長の三連テールはオールドマスタングや先代からのイメージを踏襲しながらも、吊り目になって先代後期よりもさらにシャープな顔立ちに生まれ変わった第六世代。

基本的なデザインコンセプトは1960年代のモデルをベースに現代的にリデザインされている。

もっとも特徴的なのは”シャークバイト”と呼ばれるフロントグリルを中心にしたフロントマスク。これは1969年式のマスタングをオマージュしたもので、オールドモデルのイメージを上手に取り込んだことで話題を呼んだ。

全体的なデザインは先代よりも車幅が拡張され、車高も抑えたデザインに変わったことで、よりスポーティなスタイリングになっている。

エンジンラインナップは大幅に変更され、新設計の2300ccの4気筒エコブースト、3700ccのV6、5000ccのV8の3種類に。

トランスミッションは前期モデルが6速ATと6速マニュアルだったが、2018年のマイナーチェンジによって、オートマチックが10速にアップデートされた。

引き続きホットモデルとしてコブラのエンブレムを付けたシェルビーGT500もラインナップさている。

2021年にはマスタング・マッハEとしてEVのクロスオーバーSUVが登場したが、これはまったくの別モデルとして認識されている。

第七世代 2024年~

先代のイメージから大きく変更することなく、より現代的なデザインを多く取り込んだ新型マスタング。2023年夏からデリバリー予定。Photo by Ford Motor Company

ここ数世代続いているレトロフューチャー路線の延長線上のデザインでフルモデルチェンジした2024年モデルは2023年夏から販売予定。先代よりもロングノーズ、ショートデッキが強調されたデザインになり、口を大きく開けたフロントマスクは健在。リアは縦3連のテールランプのデザインは踏襲されるけれど、サイドから見ると「くの字」にえぐれたような特徴的なデザインへと刷新されている。

初代マスタングの特徴でもあった縦3連のテールランプは第七世代でもキープコンセプト。ただ、くの字にえぐったようなデザインになり、戦闘的なリアスタイルになった。Photo by Ford Motor Company

搭載されるエンジンは2300ccの4気筒エコブーストとGTモデル用の5000ccのV8エンジンの2種類が基本。新たに生まれたホットモデルであるダークホースは、5000ccのV8エンジン(480馬力)をさらにチューニングして500馬力に仕上げた仕様になっている。ボディはクーペ(フォードでの呼び名はファストバック)とコンバーチブルの2種類。

コクピットは13.2インチという巨大なセンタースクリーンをダッシュボードに搭載するなど、インテリアはかなりモダンになっている。

今後、シェルビーGT500など、さらなるホットモデルの登場もあるかもしれない。

アメリカ車を代表する名車とも言えるフォード・マスタング。環境性能や安全性能が叫ばれる昨今でも、クルマ好きたちが求めるスポーツ走行も楽しめるモデルとして、これからも存在し続けてほしいものである。

この記事を書いた人
ラーメン小池
この記事を書いた人

ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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