盟友、アントニオ・リヴェラーノと語るクラフツマンシップの未来。
赤峰 今日はフィレンツェにいる、私の親友をご紹介しましょう。仕立て屋のアントニオです。ぼくとはもう37~38年の付き合いになるかな。もはや義兄弟です。
ファッション業界の誰もが憧れるイタリア屈指のサルト(仕立て職人)、アントニオ・リヴェラーノさんじゃないですか!
アントニオ いつも電話で話しているから久しぶりという気もしないけど、また会えて嬉しいよ。
赤峰 最近のイタリアのファッションはどうなの?
アントニオ まあひどくなる一方だね。若い連中が知ったかぶりでスーツや生地について語っているけど、全く基本をわかっていない。職人たちも基礎ができていないのにすぐ独立して、名声やお金を得たがる。ぼくやアカミネみたいに、 若者たちに教える人がいなくなってしまった。
赤峰 確かに。本来、若者を導くのは親の仕事なのにね。
アントニオ もともとイタリアの職人文化は、貴族から生まれたんだ。私たちサルトは彼らから多くを教わり、それを技術として下の世代に伝承してきた。しかしそうした伝統は、1950年代以降の急激な経済の発展によって失われた。大資本が発信する文化に取り込まれてしまったんだ。
赤峰 広告を大量に出しているブランドだけがいいもの、という時代になってしまっている。ぼくはその構造そのものに対して、ある種の戦いを挑みたいね。
アントニオ 今や子どもがテストで悪い点を取ると、親が学校にクレームをつけに来る時代だけど、私もそうした世の中に抗うべく、サルトの学校を運営しているよ。私の世代のように子どもの頃から修行するのは難しいけれど、やる気があれば本物になれるかもしれない。でも2~3年じゃ不可能。じっくり取り組まなくてはね。
赤峰 それにはひとり一人のお客さまと向き合う、覚悟が必要だよね。アントニオも長い時間をかけて、たくさんの質の高いお客さまと出会い、育てられて、今ここにいるんだから。
アントニオ 本物のサルトとは、洋服のすべてを知り尽くさなくてはなれません。服の仕立てはもちろん、着こなしに至るまでね。だからこそ私は、お客さまに何でも選ばせるのではなく、お客さまを輝かせる洋服を、私が選んで差し上げる。私を信頼してくれれば、すべてうまくいくのです。長年日本に通い、お客さまにスーツを仕立ててきましたが、そういう私のやり方は、日本の紳士服業界に大きな影響を与えられたのかな、と自負しています。
う~ん、義兄弟というだけあって、おふたりの仰ることは本当にそっくりですね!
赤峰 これはもう話が尽きないね。というわけで、この対談の完全版は、私が連載しているWEBマガジン「ぼくのおじさん」を読んでもらおうか。
40年付き合ってわかった、赤峰流メイド・イン・イタリー。
いやあ、世界最高の仕立て屋との対談、刺激的でした! しかしイタリアの洋服って、なんでこんなに魅力的なんですかね?
赤峰 アメリカやイギリスなどと違って、いまだにものづくりの文化が残っていることが大きい。今や紳士もののフルコレクションをつくれるのは、イタリアと日本しかありませんから。加えてイタリアの場合、縫製工場がパタンナーとともに自社ブランドを抱えていることが多いので、この映画のこのシーンに出てくる服……みたいな、細かなニュアンスが通じるんです。これは日本の縫製工場では、ほぼありませんから。
なるほど。先ほど仰った地域ごとの特性もあるんですか?
赤峰 もちろん。私は1998年、そういうイタリアのものづくりを活かした自身のブランド「Y.AKA–MINE」を設立して、全土を飛び回っていました。
すべてをイタリアでつくった、伝説の日本ブランドですね!
赤峰 日本では前人未踏でした。ニットやコートは北部、レザーはトスカーナ、ジャケットはフィレンツェ南部……といった具合に、それぞれの産地でフルコレクションをつくっていましたから。トラブルもたくさん経験しましたが、主に南のほうでしたね(笑)。
やはりナポリはクセが強いんですね(笑)。
赤峰 ともあれイタリアの強みって、中小のファミリー企業が圧倒的に多いことなんです。小規模だからこそ、ものづくりにおける原酒を薄めずに、守り続けることができる。古い考え方かもしれないけれど、これからの時代にこそ必要なやり方とも言えますよね。
最終回っぽい締め方ですが(笑)、それこそトラッドですよね。
赤峰 2ndの読者の皆さんにも、それぞれの暮らしにおいて、自身の軸となるトラディショナルを大切にしてほしいね。皆さん、またどこかでお会いしましょう!
(出典/「2nd 2023年5月号 Vol.194」)
Edit&Photo&Text/Eisuke Yamashita
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