ステッキの役割も担う英国カルチャーの粋。
かつて英国紳士にとって“雨をしのぐ”というのは、傘が担うべき役割の半分にすぎなかった。もう半分はステッキとしての役割。細くエレガントな傘を持つことが、紳士の嗜みのひとつとされていたのだ。そしてフォックス・アンブレラの存在が、その古き良き伝統を普及する一助になっていたのは疑いようもない。
同社は19世紀末に角断面パイプを用いたスティールフレームを世界で初めて傘に採用。さらにそれを改良し、現在も主流になっているU字断面のスティールフレームを開発するに至った。
さらに第二次大戦中に英国空軍のパラシュートを製作していた経験から、戦後その残材で当時最先端素材だったナイロンも世界で初めて傘に導入。その後ポリエステルが開発されると、撥水性と速乾性の高さに目をつけ、いち早く取り入れていった。
つまり今日我々が何気なく使っている傘の礎は、フォックス・アンブレラが築き上げたものなのだ。しかし同じ素材を使っていたとしても、仕立てる際の美意識は異なる。英国の職人が手作業で製作する傘は、耐久性に優れる反面、細く、美しく、さながらステッキのように精悍な姿に畳むことができる。
同社でビスポークした傘は、雨をしのぐ道具としても、服装に品を添える装飾品としても機能するうえ、自らの 嗜好もさり気に主張してくれる。ビニ傘を脱却したい物好きにとって、これ以上の傘はないはずだ。
細く、強く、精悍な紳士の傘を英国職人が真摯に創る。
傘は体格差によってサイズが左右されにくいため、同社のビスポークは概ねパターンオーダーとなる。
最初に折り畳み傘か長傘かを選択したら、ハンドルを選ぶ(この段階で自ずとシャフトの材質も決まる。長傘の場合、アルミ芯と一本木と継ぎ木の3種あり)。
次に生地選びに移るが、同社の傘は8パネルで、ひとつひとつの生地を変えることも可能だ。最後は玉留め等のメタルパーツとバンドの色をセレクト。すべての部材を選び終えたらオーダー完了。
あとは英国の自社工場で職人たちが一本一本手仕事で仕上げていく。縫製のみならず、生地の裁断からハンドルを曲げる工程まで昔と変わらぬ製法で作られる、真のメイド・イン・イングランドだ。
職人が丹精込めて仕立てた傘は、一般的な傘よりテンションがかかっていて、雨が当たった瞬間弾けるような音、通称“フォックス・ サウンド”が生まるのも特徴だ。
納期は約5か月前後。玉留めやゴムバンド部分にイニシャルの刻印や刺繍を施すことも可能(別途料金が必要)。折り畳み傘は2万3100円~。長傘は3万6300円~。
【DATA】
ヴァルカナイズ・ロンドン @ ザ・プレイハウス
東京都港区南青山5-8-5
TEL03-5464-5255
営業/11:00~20:00
休み/不定休
※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/「2nd 2023年2月号 Vol.191」)
Photo/Koki Marueki(BOIL) Text/Masato Kurosawa
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