背景に見え隠れするストーリーに心が揺れますね。
「スニーカーは苦手なんです」
そう語る山下さんは、たとえ気に入ったものでも物理的に長く履けるものではないからとその理由を説明する。その点、革靴はほぼ一生付き合えるもので、長い時を共有するからこそ生まれる〝なにか〞に強い魅力を感じるとか。
「モノの内側にあるストーリーを結局僕は欲しているのでしょう。単純に質が高いだけというモノには興味を覚えません。僕が手にしてきた革靴は老舗のものが多い。やはりそれは、ブランドの歴史や名作の背後に何らかの物語があるからだと思います」
象徴する一足がこのサルヴァトーレ フェラガモである。
「ウォーホールが履いていたビスポーク靴を参考にした一足。彼が作品を描いている最中に飛び散った絵の具を再現したペイントがユニークです」
そして、山下さんはいま革靴を手にする意味をこう話す。
「昨今、産業の衰退や過度な現代的アレンジに伴いオリジンに触れる機会が減っています。その中にあって革靴はオリジンに触れられる数少ないジャンルのひとつ。とはいえ、手に入りづらくなっているのも事実なので、若い方もぜひ手に取ってもらいたいですね」
【山下流革靴スタイル】革靴との向き合い方は、着こなしにおいても至って自然体。
街はもちろん、山や海へ行く時でも革靴を履くという山下さんだが、「かといって、日々磨きながらすごい大切にしているかというと、実はそんなに神経質にケアはしません」という。あくまでも気張らず、気取らず自然体で革靴と向き合う。そのスタンスは、ON/OFF を問わずスタイリングにも現れているように映る。ここでは、それぞれの着こなしと足元についてを。
【ON】褪せた革靴と足並みを揃えたゆったりめなクラシックスーツ。
「ファッションへの関心がアメリカからイギリスへとシフトしていく中で、スーツにも興味を持つのは自然な流れ。普段はカジュアルに着ることの方が多いですけど、そうなると足元は色褪せたこの一足がちょうどいい」
【革靴コレクション②】チャーチ
「購入してみたものの明るい色味が気になっていたので、ブリフトアッシュさんに色を入れ直してもらうように依頼。全体の色味を濃くしてもらいました。ボロボロですけどそれはそれで気にしません」
【OFF】行動範囲が広がるチロリアン中心のサファリルック。
「過去10年はいわゆる本格靴が主流でしたが、今は不格好で履き心地のいいどんくさい靴、いわゆるウォーキングシューズをよくはいています。サファリジャケットを軸としたラフでクラシカルなスタイルにもいいですね」
【革靴コレクション③】メフィスト
「神田に神田大喜靴店という靴屋があるのですが、そこには掘り出し物も多くまさに穴場といえる場所。こちらもそのたぐい。見た目は野暮ったいですけどクラシックな作りで履き心地は抜群にいいですね」
まだまだあります革靴コレクション! 忘れかけている何かを思い出させる靴たち。
「今の主流となっているのは痒いところに手が届くモノ作り。消費者のニーズに寄り添うとも捉えられますが、行き過ぎるとオリジナルの良さが消えてしまいますよね」。山下さんが日頃からクラシックを嗜好するのは、ローカリズムやオリジンの大事さを理解しているからこそ発するシーンへの提言ともいえる。そんな想いが透けて見える山下さんの下駄箱。誌面で紹介したものから厳選して紹介!
【革靴コレクション④】ジェイエムウエストン
「アリゲーターの革を使った、まさしく伝説のローファー。シップスの故中澤芳之さん、M16の故村松周作さんなど、錚々たる方々がはいてらっしゃるのを見て憧れましたね」
【革靴コレクション⑤】フラテッリ ジャコメッティ
「象革を使ったこのサンダルは夏冬関係なく履きます。旅行時の必需品で、空港ではことさら便利ですね。ケアいらずでスーツにも合う。革靴に馴染みのない方にこそ勧めたいです」
【革靴コレクション⑥】バーシュ
「サイドウォールが垂直にそそり立ったフォルムなど、中欧独自の靴文化を今に伝えるハンガリーブランド。工場へも行きましたが技術が高く、素材の質も素晴らしいです」
【革靴コレクション⑦】クラークス
「たまに古着屋でUKメイドのデッドストックを見つけたら買うようにしているクラークス。今のボテっとしたベトナム製もいいですけど、スタイリッシュなUKメイドも素敵です」
(出典/「断然革靴派 2nd 2022年4月号増刊」)
Photo/Yuta Kono , Hisanori Suzuki Text&Edit/Ryo Kikuchi
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