ラグビー誕生からのラガーシャツの素材の変遷とは?
1823年、フットボールの試合中にウィリアム・ウェッブ・エリス少年がボールを抱えてゴールを目指したのがラグビーの始まりだそう。その舞台となったのが、イングランドで老舗のパブリックスクール(名門私立学校)のラグビー校。上流階級の子息に愛好されたラグビーは、まずは南半球を含めた英連邦へと広まっていく。
スウェットシャツに代表されるアスレチックウエアの起源をたどると、素材にはウールが使われていたことに気づかされる。ラグビーシャツも然り。ラグビー王国ニュージーランドの代表にカンタベリーが供給していた1920年代製の1着もウール100%だった。綿100%が主流になったのは1950年代のこと。
1970年代には、軽量性や吸汗速乾性を追い求めて綿にポリエステルを混紡した素材が登場。2000年代に入ると、引き裂き強度の高さとさらなる軽量化を実現したポリエステル100%の素材に切り替わっていく。現在の最進化系は、同じポリエステルでもシャツの部位ごとに耐久性や伸縮性などの機能が異なる素材を融合させている。
ニュージーランド型とイングランド型の違いとは?
ラガーシャツを語るうえで外せない、ニュージーランド型とイングランド型のラガーシャツの違いを、2大ブランドとも言える、「カンタベリー」「アンブロ」で見ていこう。
【ニュージーランド代表】CANTERBURY(カンタベリー)
「カンタベリーがラグビーに対して本格的なアプローチを開始したのは、第一次世界大戦が終わってから。前身となったレーン・ウォーカー・ラドキン社の代表のひとりだったジョン・レーンが“ラグビーシャツを編んでほしい” と友人から頼まれたのがきっかけです」(岸さん)。
同社によるウール100%のシャツはたちまち評判となり、1924年からはニュージーランド代表チームのユニフォームも手がけ始める。以降、70年以上に渡って公式サプライヤーを務めるなかで素材や細部において独自に進化。
「ニュージーランド型と称されているラグビーシャツを象徴する襟のディテールは、カンタベリーが1950年代に完成させたものです」。
頑丈で安全という作りこそラガーマンへの最高の贈り物だ。
【ディテール①】ダブルテープ&トリプルステッチ
襟の結合部は表裏の両面からテープをあしらい、3本のステッチで縫製。エンド部分は裏側から折り返してバータックで補強。
【ディテール②】ループネック
ニュージーランド型はひと続きの生地でネックをループ状にしている。破れにくく、背後から襟を引っ張られても危なくない。
【ディテール③】ラバーボタン
ループネックもそうだが、ラバーボタンを考案したのもカンタベリーだ。柔らかい素材なので自分も敵も傷つけることがない。
【歴史】現存では最古の100年ブランド。
1904年、靴下などを編む工場と羊毛工場が合併。この時に誕生したレーン・ウォーカー・ラドキン社が前身だ。
【こだわり】コンセプトは“世界一タフな活動着”。
「The Worldʼs Toughest ActiveWear(世界一タフな活動着)」をコンセプトに掲げるカンタベリーは、1920年代から特別な編み機を使ってラグビーシャツの素材を編み立ててきた。
【イングランド代表】UMBRO(アンブロ)
アンブロは英国の音楽やサッカーが好きな人にとってはお馴染みのマンチェスターで創業している。「マンチェスターは“コットンポリス” とも呼ばれてきた街。霧が多くて多湿な土地柄が綿花の保管に適していたので、世界中から綿が集まってきました。それもあって、コットン素材を使ったスポーツアパレルがアンブロの強みになったのです」(冨田さん)。
そもそもミルスペックに基づいて軍服を生産していたブランドだから、機能性が問われるスポーツウエアはお手のもの。
「ラグビーはイングランドで生まれ、英国の上流階級が愛した紳士のスポーツ。だから、ユニフォームは襟付きなのです」。
イングランド型の襟周りは、きっちりと頑強に仕上げられているだけでなく紳士の風格を備えている。
【ディテール①】台襟&トップボタン付き
襟があるのはもちろん、試合後の交流会にネクタイを着用して出られるようにトップボタン付きなのもイングランド型の特徴。
【ディテール②】6センチ幅のボーダー。
アンブロのフラッグシップとされるボーダー柄は、幅が6センチ。カンタベリーの4インチと比べてみるとだいぶ細い。
【ディテール③】動き易い脇下のガゼット仕様。
脇の下のフロント側とバック側にそれぞれ別生地で切り替えをあしらっている。手間のかかる工程を経て、動きやすさを確保。
【歴史】ミルスペックをもった世界初のスポーツブランド。
1924年に創業した当時は、軍服やボーイスカウト用ウエアを手がけていた。多くのスポーツブランドは靴
から歴史をスタートさせているが、ミルスペックに準拠したウエアからというのは珍しい。
【カタログ】1960年代のカタログをレシピに完全再現。
貴重な資料として保管されている1960年代のセールスカタログではボディの素材や柄、襟のディテールなどについての詳しい解説を見ることができる。今秋から立ち上がる「アンブロハウス」コレクションでは当時のレシピが活かされている。
Photo/Nakano Hidaka Text/Kiyoto Kuniryo(NO-TECH)
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