表現するのは難しいのだが、緊張感、ワクワクした雰囲気、そして広報の方の作業の無茶苦茶な多さが、スタッフの方やスケジュールなどから、なんとなく伝わって来ていたのだ。
フタを開けてみると、画期的デバイス、Apple Vision Pro発表を筆頭に、プレスリリースが13本という情報量の多さだ。
実は私もまだ全部消化しきれてないのだが、とにかく触れるべきはApple Vision Proの発表だろう。
アップルは6年以上かけてこのデバイスを開発した
アップルは世の中を変えるようなデバイスをこれまでに4つ産み出している。
1984年に最初のパーソナルコンピュータであるMacintosh。スマホのiPhoneが2007年。2010年にタブレットであるiPad。そしてスマートウォッチである2015年のApple Watch。
いずれも、その分野の最初の製品だとは限らないから、こういうと「○○の方が早い!」と言う人もいるが、アップルは常に世の中にどう問うべきかを考えて、必要な要素を組み込んで『完成させる』、ちゃんとビジネスとして成立させて来るところに期待が大きいのだと思う。ちゃんと『欲しくなるもの』を作るということだ。
そして今回、『空間コンピュータ』(英語では、Spatial Computer)という新しい製品として、Apple Vision Proを世に問うた。VRとか、ARとかいう枠組みで争う気はないということなのだろう。
(以下Apple Vision ProをVision Proと表記する……余談だが、アップルも両方の呼び方を使い分けている。Apple Watchは単に『Watch』と呼ばれることはないが、Apple Vision Proは少し長いので『Vision Pro』と呼ばれるようになるのだろう)
コンピューティングの能力が向上し、VRやARがいろいろと作られるようになったのは、2017~2018年ぐらいのことだろうか? Oculus Goが2018年5月、Oculus Questが2019年に発売されている。
アップルがそのトレンドに乗るように見えたのは、2017年の、筆者が最初に行ったWWDCだった。その時、アップルはARKitというAPIを出して、AR映像を扱う挑戦を始めた。そして、その後2020年に発表されたiPhone 12 ProからはiPhoneにLiDARセンサーが搭載され、ARの様々な扱い方について研究しているように見えた。
しかし、実に最初のARKitの発表から6年にわたって、完全にARであること自体を利用したデバイスは登場しなかった。つまり、アップルは6年以上に渡ってこのデバイスについて思案していた……ということになる。
まったく新規に高性能な仕組みを構築
Vision Proは、シンプルに考えると、Google GlassやMOVERIOのような、光学的な視野にコンピュータのデータを乗せるデバイスではなく、Oculus QuestのようなVR型のデバイスで、外型のカメラの映像を眼前に映している。
ただ、従来の製品と違って、12のカメラ、5つのセンサーでもって周囲を高精細にとらえ、それをとても高精細なmicro-OLEDテクノロジーによって、眼前に表示するからまるで本当にあるように見えるのだという。
Retinaディスプレイがピクセルの存在を感じられなくしたように、iPhoneのピクセル1個分のスペースに64ピクセルを詰め込んだとのこと。幅は7.5ミクロンの微小なピクセルだ。それを、左右それぞれ4K(約830万ピクセル)以上のものを切手ぐらいのサイズで作り、それを3枚構成のカスタムレンズで、目の前に歪みなく写し出すことに成功したという。合計のピクセル数は2300万を超えるという。その映像をレスポンスの遅れなく表示するには、Apple Siliconのパフォーマンスが役に立っていることだろう。
搭載されるチップセットは、MacBook AirやiPad Proに詰まれているM2、そして12のカメラ、5つのセンサー、6つのマイクからの、リアルタイムのプロセスを処理するのがR1という新しいカスタムチップだ。これもAシリーズ、Mシリーズの流れを汲みつつ、リアルタイム処理に関係する部分を担うようだ。
Vision Proのアイデアもすごいが、この根本的な部分のパフォーマンスの高さが、文字通りこのビジョンを実現しているともいえる。
年間2億台も売れて、大量に生産されるAシリーズチップ。そのコアを多数使って性能を出すことに成功したMシリーズチップを作ってきたアップルだからこそ、自社でカスタムチップを用意できるアップルだからこそ実現したデバイスだともいえるのだ。
目の前に、大きなディスプレイがいくつも出現
ARデバイスが出るとしても『何に使うか?』が最大の問題だと筆者は思っていた。しかし、その障壁もアップルは軽々と乗り越えてきた。
そして、いつもアップル製品を見ると思うのだが、完成してみると、それは当り前の答えだったように思えるのだ。
アップルは、アップルデバイスの体験を『空間』に現出させてみせた。
アップルはこのデバイスを『空間コンピュータ』と呼ぶ。
まずは、現実の空間上にディスプレイを現出させてみせるのだ。
もちろん、それは、LiDARが計測した部屋の中に『浮かんで』見える。空間を把握しているので、下のテーブルには影も写るし、半透明に透けて背後が見える部分もある。
そのディスプレイは家全体ぐらいのサイズに大きくもできるし、自分の周囲にラウンドさせることもできるし、複数枚を浮かべることもできる。実際に奥行きを持って重ねることも、左右に並べることも、上下に重ねることもできる。
それだけでかなり便利に思えないだろうか?
書類を広げて仕事をすることもできるし、超大画面で映画を見ることもできる。3Dの映像は本当に画面から飛び出して見えるはずだ。もちろん、立体空間を存分に使った作業もできると思う。たとえば、人体模型の中に入ってみるとか、建築のCAD図面の中に入ったりすることもできるだろう。
また、アップルがこのデバイスを作る上で、すでに自社にMacやiPhone、iPadなどのデバイスがあるというのは大きなアドバンテージだ。
たとえば、Macを開いただけで、Vision ProはMacの外部ディスプレイに相当するものを目の前に現出させられるのだ。iPadやiPhoneのアプリも、表示できるのだという。AirDropもできる。iPhoneに入ってる写真を送って表示したり、プレゼンテーション資料をAR空間内に広げて見せることだってできる。
技術を『コミュニケーション』のために使う企業
ユニークなのは、アップルが『隔絶させない』ということにたいへん気を配っているということだ。
VRゴーグルを使っていると、2時間、3時間があっという間に過ぎていることがある。現実世界と隔絶してしまうから、家族やチームとコミュニケーションが取れないし、時間の経過さえも分からなくなってしまう。筆者はその『異世界に行ってしまう感じ』が少し苦手だ(それが好きだという人もいるとは思う)。
Vision Proは現実空間を表示させておくことも、その影響を少し下げることもできる。また、人が近づいてきたらそれを認識して、自動的に外の光景を割り込ませて、人が見えるようにもしてくれる。
興味深いのが、その時に内側に設けられたカメラが撮影した目を、外側に設けられたディスプレイに表示するということだ。外を見てる時には「見てるよ」という意味で、わざわざ目を表示する。
一見馬鹿馬鹿しいような仕組みだが、人は『視線を感じる』『目が合っている』ということが非常に大切に感じる生き物でなのだということを重視しているのと思う。目隠しして、違う世界に行っている人が部屋にいるのには不快感を感じるということをあらためて考えた。それは、電車の中の他人の会話は不快ではないのに、片側しか聞こえない電話の会話は急に不愉快になるのにも似ているかもしれない。
Vision Proは、目を表示することで、疑似的にこの問題を解決しようとしている。
これが、本当に有効なのか、それとも子供だましの仕組みなのかは、実際に生活の中で使ってみないと分からないが、こうやって製品化するということは、ある程度有効なのだと思う。
筆者は買うつもり。あなたは?
実働するデモ機もあるようだが、発売されるのは米国が来年はじめ頃。その他の国は2024年年内……ということなので、我々が手に出来るのは少し先のようだ。
お値段は3499ドル。日本円にして(今のレートだと)50万円前後。高価ではあるが、最高級のiPad Proを2台目に貼り付けて小型化したようなデバイスで、ある意味ノートパソコン以上に高機能なデバイスだと思えば、仕方のない値段だろう。むしろ、現時点では「よくその価格に収めたな」「利益出てなさそう」な価格設定ではある。
『Pro』というぐらいだから、技術がこなれてきたら、無印や『Air』など、もっと身近なモデルも登場してくれるのではないかと期待したい。
筆者は、非常に興味深く思い、入手できるようになったら、すぐに買おうと思っている。
みなさんはどうだろうか?
(村上タクタ)
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