かたや、今楽しんでおかねばならない3リッターV6 DOHC直噴ツインターボ、405馬力をFRに搭載した2シーター、つまり今しか見られない男の夢、フェアレディZ Version ST。かたや、ハイテク満載、フルEVで394馬力、4輪にかける力を完全に制御して走行姿勢をコントロールするe-4ORCE、手放しでの運転も可能なプロパイロット2.0搭載のアリア B9 e-4ORCE。
ガソリンかEVか? 伝統か革新か? マッチョか洗練か? どちらに惹かれたかの私的レポート。
Zの約650万円て割安に感じる!
ざっくりと価格表を見てみると、ノートが220〜250万円。オーラやキックスが270〜320万円ぐらい。セレナが320万円前後。エクストレイルが450万円前後。エルグランドでさえ500万円弱。そんな価格を見ると、約800万円のアリア B9 e-4ORCE Limited、約650万円のフェアレディZはかなりぜいたくなクルマだといえる。
※価格はざっくりの本体価格、ご存知のようにオプションや、登録諸費用、税、保険、値引き……等もあるので、実際に検討される方はディーラーで正確にご確認いただきたい。
しかし、ちょっとした外車だと1000万円に迫る、もしくは超える昨今でいうと、これほど個性的なクルマが650〜800万円で買えるというのは実に安い。これらの2台を、都内で乗ってみた。コースは都心部。1時間から30分の時間が与えられているので、首都高速に乗って、一瞬アクセルを踏んでみることもできる。
アリアB9 e-4ORCE LimitedはZに負けない394馬力!
まずは、アリア。
以前、自動運転で諏訪湖まで行ったことがあるし、凍った女神湖の氷上を走ったこともある。
しかし、諏訪湖に行った時は2駆の218馬力だったが、今回は最上位グレードの4駆の394馬力仕様である(女神湖でも乗ったけど、氷の上だったので、パワーは発揮できなかった)。
手を離してもスイスイ走るプロパイロット2.0!
ともあれ、プロパイロット2.0だ。首都高に入って、流れに乗ったところで、プロパイロット2.0をオン! 画面上のアイコンがブルーになると運転支援(現状のステップでは、まだ自動運転と書いてはいけないらしい)が始まる。
ハンドルから手を離してもちゃんと車線を走り続けてくれるし、前のクルマに合わせて加減速もしてくれる。つまり、事実上、この状態で私は何もしていないのに、アリアは走り続けてくれているのだ。カーブがあっても、ちゃんとステアリングを切って曲がっていってくれる。これは驚きだ!
プロパイロット2.0はちゃんと位置情報も持っているので、タイトカーブがあるような場所なら、コーナーの前で自動的に減速してくれる。先を把握してくれているのがすごい。オーバースピードでコーナーに入ってから、「オットット!」となるような人よりは、プロパイロット2.0の方が上手い。
加減速、コーナリングの際に、4輪の回転数を精緻に制御するe-4ORCEと相まって、実にスムーズな乗り心地だ。
HUDを装備しており、ドライバー目線(助手席の人に、運転者の胸元から撮ってもらっています)で見ると、ご覧のように路面に速度や、プロパイロット2.0の設定が表示される。ブルーのハンドルアイコンが、運転制御が可能になったことを示している。
アラートがなるとすぐにハンドルを持たなければならないので、目を離してはならず、通常の運転のように前方、および四方に気を配っていなければならないが、それでも基本的な運転操作から解放されるというのは画期的だ。以前体験した時も、諏訪湖から東京まで、クルマ任せでほぼ帰れた。
最初はこわごわなので不安でかえって疲れるが、慣れてくると疲れが少なくて済むことに気がつく。以前スカイラインのプロパイロット2.0にも乗ったが、プロパイロットが制御するのが『燃焼』『シフトチェンジ』というものを介するスカイラインより、EVであるアリアの方がシステムとして完成度が高いような気がした。
デカくて重いアリアのネガとポジ
都会で乗ると、まずその大きさに驚く。
全長4595mm×全幅1850mm×全高1655mmだから、そりゃまぁ大きい。そして、エンジンなどがないから室内空間も広い。足下が広いのがお分かりいただけるだろうか?
エンジンルームを開いても、おなじみのシリンダーヘッドや、タイミングベルトなどは存在せず、いろんな機械(一番大きく目立つのがコンバーターだそうだ)が入っていて、よく分からない。
荷室はそれなり。
後部座席を倒すと広大なスペースが出現するが、それでも床は少々高い。
192のセル、578kgという総重量を持つバッテリーの配置が、このアリアのすべてを決めているように思う。
踏めば悶絶するほど速い。394馬力とピークパワーはフェアレディZに劣るが、『エンジンの回転数』などという状況関係なしに、スロットルペダルを踏んだ瞬間に電動ならではの大トルクが発生するのが素晴らしい。もっとも、スピードを出すと大きくて重い車体が気になってくる。e-4ORCEが制御しているから持て余しはしないが、『大きくて重い』というのは、やはり気になる。コーナーを頑張って走ると、この重さが結局のところネガになる。
ガソリンエンジンを満喫できる最後の時代かも……?
代わってフェアレディZ。
なんといってもカッコいいのがアガる。凝縮感のあるデザイン、フロント255/40R19、 リア275/35R19というタイヤサイズもど迫力で素敵。タイヤ交換にはお金がかかりそうだけど……。
運転席に座ると、アリアとはうってかわって凝縮感のあるコクピット。簡単に言うと狭い。しかし、このタイトな包まれ感が『運転席』という感じで良い。マニュアルシフトのクルマも久し振りなので、緊張する。
コンソールの上の3連メーターは左からブースト計、ターボ回転計、電圧計だが、そもそもそんなスピードで走ってないので見ることはなかった。
眼前のスピードメーターとタコメーターはディスプレイなのが今風だ。
手元に800万円あって、どちらかを買えるとしたら……?
クルマとしてどちらに惹かれるかというと断然フェアレディZだ。あらゆるところに『アガる』意匠があってワクワクする。マニュアルシフトを操作するのも楽しいし、使い切れないが405馬力のパワーも圧倒的だ。何より、後輪が路面を蹴る感じがたまらなく楽しい。
しかし、自分の生活すべてを考えると、大きくゆったり走れるアリアの方がフィットする。それなりに荷物も乗るし、EV、e-4ORCE、プロパイロット2.0などのテクノロジー満載感も魅力的だ。
B9 e-4ORCE Limitedの航続距離は公称560kmなので、実際のところ筆者の重要な用途である関西への帰省にはちょっと足りない。しかし、以前よりはかなり航続距離が伸びているので、高速のSAで休憩時にチョイ足しすれば辿り着けるレベルまでは来ている。
どちらにしろ、筆者にとっては(経済的に)夢でしかないが、ついにEVが魅力的な選択肢として上ってくる時代になってきたのだなぁと感慨深く思った。
(村上タクタ)
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