子どもの頃からずっと 「自分の店」が持ちたかった。
「セレクトショップを開きたい」
村田和之さんの中学時代からの夢がそれだ。ヘビーな厚みを持ったコットンTとか、定番の501じゃないリーバイスとか、某ブランドのあのジャケットとか。
「目利きで選んだ本当に欲しいものだけを揃えた店を、生まれ育った新潟でやりたかったんですよ」
そして今、村田さんが新潟市中央区で営むのが『FEELIN’ GOOD GENERAL STORE(フィーリングージェネラルストア)』だ。
DIYでつくった壁や床に、自作のドライフラワーで飾った味のある店内。そこには、もちろん村田さんが自ら選んだ商品が並ぶ。アメリカ製の脚立とか、ブリティッシュグリーンが洒脱な園芸用品とか、西海岸のガレージにあるようなブラシ、とか。
『あれ? セレクトしてるの服じゃないの?』と思うのは当然だ。『フィーリングージェネラルストア』は名前通りのジェネラルストア(雑貨店)。もっと正確に言うと「ホームセンター」だという。
「途中で洋服より普段使いの日用品やツールに魅かれるようになっちゃったんですよね。掃除にしろ洗濯にしろ、日常の作業って、わずらわしいこともある。けれど、使うモノが素敵だったら、そういう作業も、ちょっと楽しくなったりするじゃないですか。そういうのを、提供したかったんです」
ルーツは電気店、工具と技にシビれていた。
最初の夢は電気屋さんだった。上越市の実家で亡き父が電気店を経営。村田さんも小学生まではクーラーの取り付けや冷蔵庫の設置をたまに手伝っていたからだ。
「まず工具がかっこよかった。あと田舎の電気店でしたからね。『棚が壊れちゃって』なんて言われると親父、『いいよ』なんて軽く言ってサッと直しちゃうんですよ」
ただ中高生になると情熱はファッションに傾く。1990年前後、渋カジの頃。ディスカスのパーカーやビッグマックのシャンブレーシャツなんかをタマ数が少ない新潟で探し、好んだ。次第に夢は電気店から洋服店になっていった。だから新潟大学経済学部に進学したのも夢に近づくためだった。
「本当は経営を学びたかったけど、当時、新大には経営学部がなくて経済学を。仕方ないので……」
実地で学んだ。新潟市万代地区にある大手セレクトショップでアルバイト。夜はDJブースのあるバーでレゲエやソウルのレコードを回していた。周囲がヒップホップばかりかけている中でその辺を選ぶのは、あえて505を選ぶ村田さんの“らしさ”だ。そう考えると、以降のキャリアにも、“らしさ”が漂う。
『好きなモノがある人、募集!』
ある日、そんな一文だけを乗せた求人広告を見つけた。
「その年に新潟に開局する新しいFM局の求人でした。音楽と服が好きな僕が、呼ばれた気がした」
ラジオなんてほとんど聴かなかったが「心地よいレゲエやソウルをかけたい。聴きながら家事をすると、いつもの掃除や洗濯もなんだか楽しく感じるような番組がしたい」と伝えると、採用された。
「新潟だと特に他と少し違う仕事ですからね。飛び込みました」
ディレクターとなって音楽番組や情報番組を手がけた。土曜日の深夜番組では自らラジオブースでMCも務めたこともあった。テレビからは聴こえないソウルやレゲエの渋い選曲が「何げにいい曲がかかる」と静かな話題となった。気がつけば、15年が経っていた。
洋服よりも日用品に欲しいモノ」がなかった。
40歳に控えた頃、「ココで店をやらなきゃ一生ない」と腰をあげた。ただし、洋服よりも「足りないもの」があることに気づいた。
「その頃には結婚して子どももいたので、洋服より家のもの、日用品を買う機会が増えていたんです。するとちょっとした掃除用品とか食器とか、普段使いのモノこそ、自分好みが少ないなって」
起業の準備中、アウトドアショップで働いた経験もヒントになった。「メスティンを買いにきた。弁当箱にしたくて」「キャンプ用品をリビングで使っている」とアウトドアな用具を普段使いしている人が多かった。よくある日用雑貨より「気分がアガる」からだ。
「だから洋服店じゃなく雑貨のセレクトショップにしたんです。しかも普通の雑貨店にないような、なんというか男っぽいアメリカの工具や日用雑貨、キャンプ用品などから縦横無尽にセレクトした店にね。並べてみると『おしゃれなホームセンター』みたいだった」
こうして『フィーリングージェネラルストア』は生まれた。場所は今と違う中央区礎町のビルの3階。それでもじわじわとファンが増えた。新潟ではなかなか見かけられなかった商品が並び、「何げにいいモノが揃っている」と来店客を増やしていったからだ。その中に、今テナントとして入っている商業施設「S.H.S鳥屋野店」の会長で、地元のカリスマ経営者である城丸正氏もいた。
「突然、ふらっと訪れて『移転しないか?』と言うんですよ」
『こんな場所でこんな商売できているのは大したもの』『うちに移れば、もっと売れる』。城丸氏の目利きで、セレクションされた。
「そして2018年から今の場所、ココです。言われたとおり、売上もお客さんも増えましたね」
もうオープンから9年目。村田さんは今も変わらずレアグルーヴをかけるように、あまり見かけないカッコいい用具や道具を売る。使う人の時間と日常と心を潤す。そうそう。店をはじめてから、村田さん自身も凄まじく心を潤わされた瞬間があったらしい。
「長男がね、学校で将来の夢をと聞かれて『雑貨屋さん』って」
【DATA】
FEELIN’ GOOD GENERAL STORE
新潟市中央区女池南3-5-1 S.H.S TOYANO 1F
TEL025-378-3277
営業/10:30〜19:00
休み/水曜
instagram:@feelingoodgeneralstore
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning 2024年6月号 Vol.362」)
Text/K.Hakoda 箱田高樹(カデナクリエイト) Photo/Y.Amino 網野貴香
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