アメリカでのセールスを目標に開発された日産のスポーツカー「Z」の魅力、再発見!

それまでのダットサンフェアレディに変わって登場したフェアレディZ。今も日本だけでなくアメリカを中心に世界中で人気のクルマだ。そんなフェアレディZの誕生物語とは?

アメリカで売ることを考えた結果、世界的な大ヒットに。

北米仕様は2.4リッターエンジンを搭載。車名もフェアレディZではなく、単にZと呼ばれた。日本仕様との外観上の差異は、フロントバンパーに装着されたオーバーライダーと、フロントフェンダー後端のDATSUNエンブレム、ドアミラーなど

フェアレディZは、それまでのダットサンフェアレディに変わって’69年に登場。その後もモデルチェンジを続け、途中2年間のブランクはあったものの、現在新しいZが登場して世界的にも話題になっている日産を代表するロングセラーのスポーツクーペだ。

日本離れしたスタイリッシュなデザインのボディは、日本のみならずアメリカを含めた世界中で愛されており、’78年のモデルチェンジまでに初代モデルのみで55万台以上をセールスを記録している。その多くが日本国内ではなく北米でのセールスだったのだ

フェアレディZ誕生の大きなきっかけとなったのが、ミスターKの愛称で多くのZファンに親しまれた片山豊氏だ。当時片山氏は北米日産の社長を務めており、北米市場でダットサンブランドを象徴するイメージモデルが必要と考え、日産の開発陣に新たなスポーツモデルの開発をリクエスト。

片山豊氏は’60年に渡米し北米日産の初代社長に就任。’15年に105歳で逝去。ちなみにエンジニア以外では珍しく、Zの生みの親として’98年にアメリカの自動車殿堂入りを果 たしている
片山氏の愛称であるMr.K(ミスターK)は、北米日産社内でスタッフから慕われて呼ばれたのが起源となっている

こうしてフェアレディZは生まれたのである。つまりフェアディZはアメリカでのセールスを考慮して開発した結果、日米のみならず、世界中でヒットし、日産を世界に知らしめる大きな力となったのだ。

北米市場ではそれまでのダットサンフェアレディも輸出されていたが、イギリス製のライトウエイトスポーツの二番煎じとなってしまい、役不足であると考えていた。そこで片山氏は、ジャガーEタイプやポルシェ911のような流麗なボディを持つスポーティな高級GTクーペをイギリス車やドイツ車よりも廉価に販売することで、北米市場の開拓を画策したのだ。

フェアレディZの具体的なデザインは日産社内の第1造形課第4デザインスタジオで行われた
写真はデザインスタジオ内でクレイモデルを仕上げている貴重なカット。すでに市販モデルにかなり近い形状となっているのが判る

日本車でありながらアメリカを感じさせるフェアレディZ。

モデル末期の’75年には排気量を2.8リッターに拡大した280Zが北米市場に登場。この2.8リッターエンジンは北米市場専用で、外観もアメリカの法律に対処すべく巨大なショック付きの通称5マイルバンパーが備わるのが特徴。手前が夫婦向けの2シーター、奥がファミリー向けの2by2モデル

フェアレディZを開発していた’60年代の後半というと、一般的な日本車は、ラダーフレームに四角いボディを懸架する構造が多かった。そんな時代にロングノーズ&ショートデッキのお手本のような流麗なボディデザインを採用し、ボディ形状もモノコック構造を採用。四輪独立懸架のサスペンションを持つ当時としては最先端のスペックとなった。

ちなみにフェアレディZが登場した’69年にデビューを飾った他の日本車というと、いすゞベレットGTRやマツダルーチェロータリークーペ、ホンダ1300 99S、スカイラインGT-Rなどが挙げられる。’67年に先行デビューしていたトヨタ2000GTという例外を除けば、いかにフェアレディZがスタイリッシュで先進的なパッケージだったかが判るだろう。

一方で搭載されるエンジンは、扱いにくいスポーツエンジンではなく、あえて直列6気筒のSOHCエンジンを採用した。日本国内向けには税制の問題から2リッターのL20が用意されたが、北米向けには最初から排気量を拡大し2.4リッターのL24が用意された。

決してスポーティなエンジンではなかったが、低速からトルクフルで扱いやすいエンジンは、大排気量エンジンの多いアメリカ市場では馴染みやすく好評だった。その後も北米仕様は’74年に2.6リッター、’75年に2.8リッターと徐々に排気量を拡大。初代モデルを販売した約10年間で北米市場でのダットサンブランドの知名度を大きく上げる結果となったのだ。

240Zはレースでも活躍した。写真はジョンモートンのドライブで’70年のSCCA西地区のシリーズ戦に参戦したBRE(BROCK RACING ENTERPRISES)の車両
このレースマシンの活躍がDATSUNのイメージ向上を果たし、セールスの大きな手助けとなった

ちなみにフェアレディZと呼ばれるのは日本国内のみで、北米市場などでは「DATSUN Z(ダッツンズィー)」と呼ばれた。現在でもアメリカでは初代DATSUN Zのファンは多く、ノーマルの状態をキープした個体はもちろん、V8を換装したカスタムまで数多くのZが現存している。

日本車でありながらフェアレディZにアメリカを感じてしまう理由はこんなところにあったのだ。

北米でZはDATSUNブランドで販売された。そのため彼の地では「DATSUN Z(ダッツンズィー)」や単に「Z-car(ズィーカー)」と呼ばれた。写真は新たに取り扱うDATSUN 240Zを前に北米日産スタッフとの記念撮影
ラリーの世界でもZは活躍。写真は’71年のモンテカルロラリー出場車で、ゼッケン70はトニー・ホールがドライブした。ラリー仕様の多くは左ハンドルで2.4リッターエンジンを搭載していた

(出典/「Lightning2023年5月号 Vol.349」)

この記事を書いた人
Lightning 編集部
この記事を書いた人

Lightning 編集部

アメリカンカルチャーマガジン

ファッション、クルマ、遊びなど、こだわる大人たちに向けたアメリカンカルチャーマガジン。縦横無尽なアンテナでピックアップしたスタイルを、遊び心あるページでお届けする。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

【ORIENTAL×2nd別注】アウトドアの風味漂う万能ローファー登場!

  • 2025.11.14

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【ORIENTAL×2nd】ラフアウト アルバース 高品質な素材と日本人に合った木型を使用した高品質な革靴を提案する...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

【UNIVERSAL OVERALL × 2nd別注】ワークとトラッドが融合した唯一無二のカバーオール登場

  • 2025.11.25

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【UNIVERSAL OVERALL × 2nd】パッチワークマドラスカバーオール アメリカ・シカゴ発のリアルワーク...

Pick Up おすすめ記事

「アイヴァン」からニューヨークに実在する通りの名前を冠した新作アイウエアコレクション登場

  • 2025.11.21

ニューヨークに実在する通りの名前を冠した「アイヴァン」の新作コレクション。クラシックな要素をサンプリングしながらも現代の空気感を絶妙に捉え服と同等か、それ以上にスタイルを左右する究極のファッショナブルアイウエア。 Allen 2023年、NYに誕生した「ビースティ・ボーイズ・スクエア」。その付近で出...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

時計とベルト、組み合わせの美学。どんなコンビネーションがカッコいいか紹介します!

  • 2025.11.21

服を着る=装うことにおいて、“何を着るか”も大切だが、それ以上に重要なのが、“どのように着るか”だ。最高級のプロダクトを身につけてもほかとのバランスが悪ければ、それは実に滑稽に映ってしまう。逆に言えば、うまく組み合わせることができれば、単なる足し算ではなく、掛け算となって魅力は倍増する。それは腕時計...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

着用者にさりげなく“スタイル”をもたらす、“機能美”が凝縮された「アイヴァン 7285」のメガネ

  • 2025.11.21

技巧的かつ理にかなった意匠には、自然とデザインとしての美しさが宿る。「アイヴァン 7285」のアイウエアは、そんな“機能美”が小さな1本に凝縮されており着用者にさりげなくも揺るぎのないスタイルをもたらす。 “着るメガネ”の真骨頂はアイヴァン 7285の機能に宿る シンプリシティのなかに宿るディテール...