数年でまた数を減らした絶滅危惧の伝統製法。
米国ニューイングランド地方の北東部に位置するメイン州。エル・エル・ビーンの創業地でもある同地は、大西洋に面し、その大半が森林や河川、湖などに覆われている自然豊かな環境から、昔よりアウトドアやレジャーが盛んな地域としても知られている。
また19世紀よりハンドソーン(手縫い)の伝統製法で作り上げるモカシンシューズの靴職人たちが多く在籍しており、アメリカントラッドの名門がこぞってメイン州で靴づくりを行っていた歴史がある。
最盛期にはおよそ200ものファクトリーが存在したともいわれ、隆盛を極めたが、現在は後継者問題などで工房の閉業が相次ぎ、現存するのはたった2社とも言われている。「ランコート」と「クオディ」がまさにその2社である。
しかし日本国内ではビームス プラスが別注を依頼していたり、「ユーソニアングッズストア」や「トラベルズ」など、アメカジを主軸とするセレクトショップでは取り扱いもあるため決して手に入らないわけではない。とはいえ、この急激な工房の減少傾向を見ると、アメリカ靴の代表格であるハンドソーンモカシンも、いまや“絶滅危惧テクニック”といっても過言ではない。
ブランドとしての方向性、導入する機材や規模感、靴のバリエーションに関しても、2社間ではかなりの違いを感じられたのは実際に現地を訪れることができたからだろう。大事なのはどうやってこの伝統技術を絶やさぬかだ。
最先端機械を導入した現代モカシンシューズの旗手「ランコート」。
1967年よりハンドソーンによる靴作りを手がける〈ランコート〉。本格的に始動したのが2009年。当初は15人しか職人がいなかった工場も、現在は47人にまで増え、2021年には、日本で開催したオリンピックにてUSチーム用のスニーカーを制作。ブルックス ブラザーズやJ.クルーの革靴も一部製作を手がけるなど、ビジネスとしての幅の広さも〈ランコート〉の特徴である。
効率化を図るため、革の裁断など一部の工程では機械も導入している。オーナーのマイク・ランコートいわく、「会社を成長させるベくハンドソーン以外の靴、モカシン以外の靴も作りますが、全体の7割はハンドソーン。我々がもっとも大事にしているのは伝統なのです。辞めるつもりはありません」。
昔ながらの製法を守り続ける旧きよきアジのあるファクトリー「クオデイ」。
〈クオディ〉は、誕生した1900年代初頭から、ブランド消滅の危機や買収などの紆余曲折を経て、100年という長い道のりをここまで歩んできた。現在は、もともとコール・ハーンの工場だったというこの旧きよき建物をそのまま活かし、わずか20名の職人のみで製作。
派手な機械もなく、スペースを持て余している感じすらある。革に熱を与えて縮ませ、木型にフィットさせるための石造りの部屋だって、非常に原始的だ。
「すこしもハイテクじゃないけど、これが僕たちなんだ」と代表者のひとり、ケビン・ショーリーさんは笑いながら教えてくれた。彼らが最も大事にしている“快適な靴を作る”という使命は、これからも昔ながらのやり方で受け継がれていくことだろう。
※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
Photo/Yoshika Amino Text/Shuhei Takano
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