奄美伝統の「泥染め」による奥行きのある黒褐色。
絶妙なショート丈のバランスが特徴である往年のフレンチワークジャケットをベースに、まるでモールスキンのような、泥染め特有の“墨黒” 色でヴィンテージの風合いを表現。生地はハリとコシのある高密度ヘリンボーンツイルで春の装いに軽快感をプラスする。
民族衣装をモダンに変えるテーチ木染めの風合い。
麻袋のような、あえて粗めに織ったリネンと独自のムラ感が印象的な奄美古来のテーチ木染めで程よいリラックス感を持たせたチャイナジャケット。ベースは中国南部の山間部にて伝統工芸を生業とするミャオ族由来という、同レーベルならではのモダンエキゾチック。
フレンチとも相性のいい日本の天然染色。
コレクションのメインアイテムに位置するのが、フランス発祥のデイリーウエアたち。アメリカとはひと味違うヨーロッパならではの品を感じるワークジャケットやバスクシャツだからこそ、一点一点手染めで仕上げる天然染色の温もりや経年の妙味がより一層映える。
定番のベースボールキャップも。
泥染め仕様のブラック、手染めインディゴの2色展開。1970〜80年代にかけてUSネイビーにて採用されていたユーティリティキャップをイメージソースに、オーバーダイしたヴィンテージピースを思わせるこなれた風合いを見事に表現している。
シンプルなアメカジスタイルにも、程よく主張を加えるチャイナジャケット。
洗いざらしのTシャツにコットンチノパンツといった定番スタイルにも、テーチ木染めの風合いを活かしたチャイナジャケットを主役にすることで雰囲気十分な夏の装いに。程よいエキゾチックムードと手染めならではのクラフト感をオーバーサイズで取り入れた。
「ほっこり」しすぎず、「かしこまらず」。これがフェニカのスタイルです。
設立から20 周年を迎えたフェニカの最たる魅力は、伝統工芸やハンドクラフトを取り入れながらも常にモダンであり続けていること。未来に継ぐべきもの、ことを時代のニーズに沿ったかたちでさりげなく表現し続ける、それがフェニカのスタイルと心得よ。
「ビームス フェニカ」ディレクターに訊く、天然の色彩を活かす奄美大島の伝統染色「泥染め」の魅力。
奈良時代より受け継がれる奄美伝統の染色技法「泥染め」。その歴史や背景、日常着との親和性をディレクターに訊く。
世界三大織物にも名を連ねる大島紬由来の染色技法。
鹿児島市と沖縄本島のほぼ中間に位置する奄美大島は、奈良時代より養蚕業で栄え、上質な絹織物とともに独自の染色技法が根付いたとされている。それらはやがて大島紬なる言わばブランド織物として幕府にも献上され、明治以降には海外へもその名を轟かせた。泥染めは、そんな大島紬に紐づく伝統技法のひとつであり、今なおこの島でしか再現することのできない希少性と他にはない特殊な魅力を持っているという。
「ディレクターに就任するにあたって、それまでおぼろげには知っていたものの、細かなところまで深堀りしていなかったものやことを再確認しなければと考えました。泥染めもそのひとつで、かねてからお付き合いのあった〈アマンユ〉というブランドに現地の染色工房を紹介していただき、今回の企画へとつなげることができたのです。一説によれば、泥染めは偶然の産物だったとも言われています。
当初は普段使いだった大島紬が、江戸時代に庶民の着用を禁じられ、それでもどうにか手元に残していきたいと考えた一部の島民が泥田の中に隠したことに由来していると。ただ一方では、およそ1300年前にはすでに泥染め技法が確立されていたという文献もあるようですし、詳細な起源は今もわかっていません。とはいえ、本格的な大島紬となると私たち世代にとってはハードルが高く、やすやすと手を出せる価格帯でもありません。でも、今回の企画を通して天然染色ならではの素朴な風合いや奄美の伝統文化に興味を持ってもらえればと考えています」
奄美に群生する車輪梅とも呼ばれる「テーチ木」をチップ状に加工し、大釜で煮出した褐色の天然染料こそが泥染めの起点となっている。そんなテーチ木の煎汁液に含まれるタンニンと、火山島ならではの地場の泥に含まれる高濃度な鉄分が化学反応を起こし、特殊な黒褐色が生み出される。つまり、一旦テーチ木染めで仕上げた生地をあえて泥でオーバーダイすることで、墨黒のようにスモーキーでありながら、程よい光沢を湛えた素朴で奥行きある黒色へと変化させている。そのあまりに非効率な工程は単なる染色の域をはるかに超えていたと菊地さんは続ける。
「実際に工房を訪ね、すべての工程を見せていただいたのですが、私たちが思っていた以上にプリミティブで、どこか神秘的な印象さえ受けました。さらに驚いたのは、衣類が染め上がるまで、同じ染色工程を何度も繰り返していたことです。それもすべて手作業で納得のいく染め上がりを目指していました。それほどまでの重労働と私たちの着物離れもあって、数百年にわたって地場を支えた伝統技法も今では数件のみに引き継がれていると聞いています」
フェニカのレーベルフィロソフィーでもある「デザインとクラフトの橋渡し」は、今回の泥染め企画にも明確に表れていた。古く歴史あるものをそのままのかたちでピックするのではなく、あくまで時代に沿ったカジュアルウエアとして提案することで、構えることなく伝統や手仕事に触れることができる。そのようなきっかけになることを、フェニカは願っている。
泥染め(黒褐色)、テーチ木染め(褐色)、インディゴ染め、すべてを奄美大島の工房、肥後染色に依頼。今季展開する4型は昔ながらの手染めの魅力を最も引き出せる定番アイテムで揃えた。
(上から)ミリタリーキャップは泥染めとインディゴの2色展開。1 万1000 円、ヘリンボーンツイルのフレンチワークジャケットも同じく2 色展開。3 万9600 円、半袖チャイナジャケットはテーチ木染めのみ。3 万4650 円、バスクシャツはテーチ木染めとインディゴの2色展開。1万6500円
【問い合わせ】
ビームス ジャパン
TEL03-5368-7300
www.beams.co.jp/fennica/
(出典/「2nd 2023年6月号 Vol.195」)
Photo/Ryota Yukitake Yoshika Amino Styling/Hisafumi Motohiro Text/Takehiro Hakusui Hair&Make/Kentaro Katsu