【ジャパントラッドを担う、注目の10人】「FAR EAST MANUFACTURING」デザイナー・林芳亨さん

あの林さんがシャツを作った。その噂を聞いただけで四角四面のトラッドとは一線を画すシャツであることは十分想像できた。だが実際に見たそれは、そんな陳腐な想像を遥かに越えて真面目に遊んでいた。日本で新たに産声をあげたBDの名門ファーイーストマニュファクチュアリング。知らずに春は迎えられない。ジャパントラッドを担う、注目の10人の一人、林芳亨さんに迫る。

お気に入りのシャツをバラしたら芯地がなかった。これは発見やったね。

「ファーイーストマニュファクチュアリング」デザイナー・林芳亨さん|説明不要のデニム賢人が、23年春夏シーズン創設のシャツブランドを監修。リゾルトと同様に、トラッドなアイテムを日本人の体型と自らの嗜好に合わせて編集する

林さんの春夏のBDスタイルは袖捲りが常。4回ロールアップして肘の上まで捲りあげる。今作はそんなトラッドなシャツを自分流に咀嚼して、ラフに羽織りたい服好きに向け、生地作りから縫製、細部の意匠まで林イズムが注入されている

「かれこれ12~13年前から某米国ブランドのBDシャツを愛用しとったんやけど、やれ裾が短かったり、カフスの幅も広かったり、ガチガチに硬い芯地が使われてたり……な~んかしっくりけえへんかった。それでも米国製やからいうことで我慢して着とったんやけど、段々また悪い虫が疼き出してな。“これなら自分で作った方がええんちゃうの?”って(笑)」

そんなシャツ作りへの想いを、盟友であるリゾルトの生産チームに吐露したのは2021年。ちょうどメンバー間で、ジーンズ以外で男のワードローブの核と成り得る製品作りを模索している最中だった。

「話してみたらとんとん拍子で話が進んで。それからはまたジーンズを作り始めた時と一緒。とにかく色んなシャツをこねくり回して、穴が出るほど見て、改めて勉強するところからスタートしましたわ」

BDシャツの歴史は古い。アメリカで初めて製品化されたのは1896年。やがて東海岸のアイビーリーグの学生の間で大流行し、アイビースタイルの象徴として定着した。しかしこのドレスとカジュアルの双方に根を張る、あまりに使い勝手がいいアイテムが、アメトラの領域だけで寵愛されるはずはない。今ではテイストを問わず、星の数ほど多くのブランドが、自らの嗜好を投影した製品を作り、BDシャツはジーンズと並んで地球人の制服化を果たすこととなった。

「ただ、いざ作るとなると、やっぱり純粋に自分が着たい物を作りたいやろ」と、ベンチマークすることとなったのが、林さんが愛してやまない某アメトラブランドの70年代製BD。

「個人的にはやっぱりこの年代のが一番しっくりくる。結構肉感のあるオックス生地を使ってるんやけど、これが妙に柔らかくて気持ちいい。襟も綺麗なS字ロールが出るのにしなやかやし、袖もクルクルッと捲りやすい。なんでなんやろ?ってバラしてみたら、襟にもカフスにも芯地を使うてないことがわかったんや。これは発見やったね」

かくして林さんの理想である、品がいいのに肩肘張らない、究極のBD像が浮かび上がった。それからファーイーストマニュファクチュアリングがデビューするまでは、およそ1年半。ジーンズ作りに注ぎ込んだ情熱をそのままシャツ作りに向け、国内工場との連携のもと、あらゆる要素にこだわり抜いた究極のBDシャツが完成した。

写真は林さんが愛用していた、某アメリカブランドの1970年代製オックスBD。注目はその襟と袖先だ。ここのステッチを解いてみると、内部に芯地が入れられていないことがわかる。この大発見のもと、林さんはトラッドを出自としながら、カジュアルに羽織れる理想のBD像を着想するに至った

70年代のボタンダウンシャツを解剖して見えたトラディショナルの勘所。|ファーイーストマニュファクチュアリングのシャツ

「白は当たり前すぎて面白くないやん」と最定番に掲げたのが、このエクリュ。「経に色糸入れて緯に白糸を入れるんはジーパンと一緒や」と、経糸にエクリュの40番単糸を引き揃え、緯糸に白の10番単糸を用いた、オリジナルのスーピマ綿製オックスを製作。ひとつのネックサイズに対して4サイズの袖丈を用意しているのも特徴だ。「ピッタリなサイズの方がかっこええのもジーパンと一緒や」。2万2000円(TEL03-5774-8166)

襟

BDの最重要部位が襟。剣先のギリギリの位置にボタンを備えることで、より美しい襟立ちと曲線美を表現。台襟の中央が窪むように仕立てているのも、林さんのこだわり。「この方がクラシックな感じがしてええで」

身頃脇

身頃脇の巻き縫い部が膨らんでいるのも、ヴィンテージBDの特徴。「解体したら独特な方法で巻き縫いしてるのがわかったんや。手間なんやけど同じように縫うてもろうたおかげで、ほら、ぷ~っくり膨らんでるやろ」

前立て

チェーンで縫製してから洗いをかけることで、ご覧の通り味わい深いパッカリングが。「洗濯を繰り返すたびに、もっとクシュッとした表情に育ってくれて、愛着も湧くはずや」

今では極めて希少な存在となってしまった、前立て用のチェーンステッチミシン。「前立てはシャツの顔。強度も高めなければいけない部分やし、絶対チェーンで縫いたかったんや」

袖

カフスの芯地を省略しているため、袖捲りも容易。「剣ボロのストロークを長~くしてるから、クルクルッと捲り上げられんねん」

スタンプ

裾の内側には元ネタにしたヴィンテージと同様に、サイズ表記等がスタンプされている。ちなみに上から2段目は1956年12月11日という林さんの誕生日で、Jは日本を意味するそう。「スタッフからイジられてるんや(笑)」

テストサンプル制作は6回にも及んだ。

プロト段階ではまだ胸ポケットが

上で触れた意匠のほか、裾を入れても出しても様になるシルエットにもこだわり抜いた本作。試作段階のシャツを見るとあらゆる部位に印がつけられ、テコ入れが繰り返されていたことが わかる。「最後の最後でポケットはいらんなと取ってもうた」

【問い合わせ】
エスビープラニング
TEL03-5774-816

※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。

(出典/「2nd 2023年5月号 Vol.194」)

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