1980年代に誕生したというのは誤り。実は1903年以前から存在していた!!
そもそもブラックデニムはいつ誕生したのか。また一体どうやって作られているのか。どうしても知りたい、伝えたいと切望したのが、この根本的な問いへの“正確な”答えだ。というのもブルー(インディゴ)デニムに比べ、ブラックデニムに関する情報量は圧倒的に少ない上に、拾える情報の内容もバラバラで、“これは正確だ!”と確信できる情報に行き当たることが難しかったからだ。
そこでまずその起源について、ジーンズのご本尊たるリーバイスに確認したところ、なんと“1903年から”という驚愕の回答を得た。古着界隈でもネット上でも、“ブラックデニムは1980年代から誕生した”という説が真しやかに囁かれていたが、これは誤りだったのだ。たしかに同社の1903年のカタログを見ると、明確に“Black Denim”と表記された製品がいくつも作られていたことがわかる。
しかも1906年のサンフランシスコ大地震における火災によって、資料が消失してしまったために正確ではないものの、1903年より前から作られていた可能性もあるとのことだ。かくしてその起源から驚かされたブラックデニムだが、その作り方についても興味深い内容を知ることができた。
“ロープ染色”は実はブルーもブラックも大まかな工程は同じ。
そもそもデニム生地を仕上げるためには、ごくごく大まかに言っても、原綿から糸を紡ぐ「紡績」や、糸を染める「染色」、染めた糸で生地を織る「織布」、ケバ取りや斜行防止などの仕上げを行う「整理加工」などなど、多様な工程を辿る。そのなかでブルーデニムとブラックデニムで最も違いが生じる工程が「染色」だ。レミ レリーフの後藤さんは言う。
「デニムの染色方法も沢山種類があるので一概には言えませんが、最もポピュラーな“ロープ染色”という手法に関して言うと、実は大まかな方法はブルーもブラックそれほど変わらないんです。まず一般的にブルーデニムはその大多数が合成したインディゴ染料を用いているのに対して、ブラックデニムは黒色の酸化染料(サルファ)を使います。
どちらも粒子が粗く水に溶けにくいので、還元剤などを投入して粒子を細かくして、水に溶けこませて液槽に張り、その中にロープ状に束ねられた糸を漬け込んで吸着させていきます。その糸束を引き上げて空気に晒して酸化させ、また液槽に漬け込んで引き上げる。
この工程を何度も繰り返して糸を染めていくことで、糸の芯は白いまま、表層部分だけ染色された、いわゆる中白(なかじろ)と呼ばれる、履き込むと経年変化しやすいデニム生地に染め上がります。つまりブルーデニムとブラックデニムは“大まかな染色方法は同じだけれど、使用する染料が異なる”ということです。
ただ染料が異なると、当然ノウハウも異なってきます。それぞれの染料の調合や、液槽に漬け込む回数、酸化させる時間の長さなど、多様な要素が色に影響するので、染色工程を担う生地メーカーには独自のブラックデニムレシピが存在しているはずです」
一部で流布するリーバイスのブラックデニムが“初期は先染め”で“後年は後染め”。実はどちらも“先染め”である。
こうして起源と作り方についておおよその輪郭を捉えることができたが、後藤さんとの取材を経て、現状一部の古着界隈で流布しているブラックデニムの大別法に関しての誤りも判明したので、最後にそれもお伝えしたい。
まず現状古着市場で流通しているブラックデニムの多くは、1980年代から2000年代にかけてのリーバイス製品だ。501や505、550と品番は様々だが、いずれにしろ80年代前半に作られていたグレーがかったブラックデニムは“初期タイプ”として分類され、“先染め”という付加価値の付いた通称で呼ばれている。
一方後年の色がより真っ黒な“後期タイプ”に分類されている製品は、“後染め”されて作られたというのが定説になってしまっている。しかし後藤さんとともに検証すると、どちらも“ロープ染色した糸を使った先染め生地”であることがわかった。
「一般的に“先染め”というのは、糸に紡績する前の綿の状態か、紡績した糸を染め上げてから織り立てた生地を指します、対して“後染め”は、生地に織り上げてから反染めした物か、製品として縫製した後に染める、いわゆる製品染めした物を指します。一部の古着屋さんが“後染め”として紹介している真っ黒なデニムは、単に経糸と緯糸の両方にロープ染色した黒糸を使っているもの。“初期タイプ”に分類されている製品がグレーがかって見えるのは、単に緯糸に白糸を打っているから。実はどちらも“先染め”なんです」
一部の古着屋とネット上では、“裏返して白ければ先染めで、黒いのは後染め”という情報が流れてしまっているが、それは誤り。リーバイスの古着のブラックデニムが趣深い色合いに育つのは、ロープ染色された糸で織られた先染め生地だったからこそなのだ。
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(出典/「2nd 2023年4月号 Vol.193」)
Photo/Kazuo Yoshioka(BURONICA) Text/Masato Kurosawa
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