「メイカーズ」デザイナー・手嶋 慎さん
2009年にメイカーズを発足。その美しいフォルムには著名人のファンも多い。革靴づくりの工程はほぼこなせる作り手としての一面が細かなデザインへのこだわりに繋がっている。
「リゾルト」デザイナー・林 芳亨さん
ドゥニームのデザイナーとして活躍した後、2010年にリゾルトをスタート。圧倒的なサイズレンジを持つ定番4型を、日本人の体型に合わせてアップデート。業界屈指の靴好き。
欧米由来のものを日本人の感覚で再構築する。
手嶋慎(以下、手嶋) お久しぶり、ではないんですが、またお話をする機会ができて嬉しいです。昨年の対談以来、仲良くさせていただき、ありがとうございます。
林芳亨(以下、林) ちょくちょく会っていますよね。あれから一年経って、まず思うのは最近は革靴も改めて見直されてきてるなと。それはジーパンと革靴が似てるからじゃないかなと感じています。自分がそうだからかもしれないけど、革靴もジーパンと同じように、直しながら履くものじゃないかな? シワが入った、どうしようとか、変に気を遣って履くんじゃなくて、好きなように履いてお手入れすればいいじゃないかと。それが、その人の靴の顔になると思うんだよね。これってまさにジーパンと同じだけど、革靴はジーパン以上に寿命が長い。だからこそ、そういう履き方でいいと思う。
手嶋 確かに、その通りですね。
林 それともうひとつは、いわゆる日本人のモノづくりが革靴でも浸透してきているなということ。かつてジーパンはアメリカやヨーロッパで愛されてきたものが、今ではメイド・イン・ジャパンのジーパンが世界でも評価されるようになった。革靴にも同じことが言えるようになってきたんじゃないかな。やっぱり繊細で柔軟な仕事は日本人の得意技なんよね。ジーパンで言ったら、武骨なワークブーツに合わせるのがアメカジでありルーツなんだけど、日本人が真似しても骨格から違うから、どうも違和感を感じる。だからリゾルトは日本人に似合うようなデザインを意識してるんだけど、革靴だってそう言う部分があると思っていて、そこを日本人の感性で再構築してきたから、改めて見直されてきているんじゃないかな。
理屈を吹き飛ばす単純明快なカッコよさ。
手嶋 確かにそうですね。僕は自分のことをデザイナーよりも作り手寄りだと考えていて、デザインや企画だけじゃなくて、それこそ裁断や底付けを自分でやってるんですよ。だから自分だけでやっていると、最後にほんの僅かな修正を入れたりすることも多いんです。それって日本人らしい感覚なのかもしれないですし、そういうやり方で作るようになってから、メイカーズを支持してくれる人も増えたような気がします。でも細かな仕事と同じくらい、直感も大事にしたいと思っていて。林さんは 、「革靴にジーパン」という確固たるスタイルで、それがカッコイイんですよね。そのスタイルって、林さんが日本に広めたんじゃないですか?
林 もしかしたらそうかもしれんね。でもそれもさっきと同じ理由で、ダボっとゆったり着るのは、やっぱりアメリカとかヨーロッパの人だからこそ似合う気がするんですよ。それを日本人が真似しても不自然に感じることが僕は多くて、だからスタイリングもブーツじゃなくて革靴にして、ちょっとカッコよく見せたほうがいいんじゃないかなと。人それぞれ、好みはもちろん尊重していますけどね。それと直感というか、第一印象は大事ですよね。ジーンズって例えば、どこどこ産の綿を使ってるとか、いろいろ蘊蓄があってそこにこだわることも大事だし、伝えることもいいと思うけど、正直普通の人にはどうでもいいことなんじゃないかな、って思うこともあります。それよりもカッコいいなと、まずは思ってもらいたい。ジーパンと違って革靴は、革で表情が変わってくるから、そこは伝えるべき部分なのかと思いますが。
手嶋 いや、革靴も第一印象は大切だと僕は思います。接客していても靴のことを細かく説明しなければいけなくなったら負けだと思うんですよ。やっぱり、パッと見てカッコいいと思われる靴であるきだと、常に考えながら作っています。
林 やっぱりそうなんだね。それと接客と言えば、最近は面白い販売員が居るショップ、少なくなったなぁ。原宿のアノ店の御大とか、徳島のあの人しか思い浮かばないしなぁ。
手嶋 あの方々ですね(笑)。
林 コロナ禍前の話になるけど、最近はパリのウエストンに行っても、ベテランの店員ってほとんどいなくなった。靴の履き方を教えてくれたり、褒めてくれたり、時には履き方が間違ってると教えてくれる人ね。そういう店員さんって今の時代だからこそ必要だと思うよ。
手嶋 そういう観点って林さんならではだと思います。長くファッション業界にいて、実際にいろいろ体験されているからこそじゃないですか? 今みたいなフランスのウエストンの話とか、昔のジーパンの話も全部、実体験に基づいているじゃないですか。当然なんですが、経験値が僕とは比べ物にならない。そういうお話を聞いていると、ものづくりに繋がるヒントをもらえることも多いんですよね。それに僕と林さんの違う部分は、僕はどちらかというと作り手に寄った感覚で話すことが多いけど、林さんはデザイナーとしての感覚で話されていることが多いと思うんですが、その感覚や視点の違いが、僕にはすごく新鮮ですね。
ジーパンと革靴、両者に共通する部分。
手島 ところで林さんが今日履いているウエストンのゴルフって、見る感じ相当長く履いていらっしゃいますよね?
林 もう30年以上は履いているかな。さっき履かせてもらったメイカーズの2足にもリクエストさせてもらったけど、ジーパンも革靴も履き込んでこそやと僕は思うのよ。ソールが減ったら換えればいいし、定期的に手入れさえすればちゃんと育ってくれる。ジーパンと一緒だね、むしろ革靴の方が息が長いから、もっと楽しめるんじゃないかな。
手嶋 同感ですね。今日、持ってきたコードバンの2足も、6年とか10年とか履き込んだものですけど、メイカーズの展示会でも同じように経年変化した靴を大量に用意します。やっぱり履き続けるとどうなるか、それが気になる人が多いんです。
林 当然だよね。履き込んだ靴の方が断然かっこいいから。このコードバンの靴もさすが、いい感じに育ってるね。スタイリングも考えてきたけど、こういう革靴に合わせるからコーディネイトも楽しいし、穿き込んだジーパンにもフィットすると思う。
手嶋 林さんが今日穿いているのはリゾルトの[711]ですよね。やっぱりいい形と色ですね。どのくらい穿いてるんですか?
林 これは穿いて1年くらいだったかな。でも色っていえば最近の革は、色はどんな感じ? ウエストンでも最近は昔とは微妙に違うものがあって、懐古主義ではないけど、昔の方が好きだなと思ったりするね。
手嶋 確かに同じ色の革をリクエストしても、昔と違うなと思うこともありますね。ただそれは環境負荷を考えた染料を使うようになったり、実はいろいろな事情があるんですよ。
林 なるほど。あとはやっぱり外国人と日本人との感覚の違いもあるかもしれないね。デニム生地でもやっぱり海外のものは日本のものより個体差があるし、それが面白かったりする。革そのものも、そうやっていろいろ楽しめばいいかもね。
手嶋 そうですね。だからこそメイド・イン・ジャパンのものづくりが際立ってくると思います。これからも突き詰めていきたいです。
【Makers × RESOLUTE】「リゾルト」デザイナー・林 芳亨さんによるスタイリングサンプル。
PUNCHED CAP BLUCHER(右)
着用歴は約6年。上質で深みのあるカラーはブラウン。エイジングを経て、より風合いを増している。ベースデザインがシンプルなだけに、深く入ったシワが絶妙なアクセントに。
V TIP BLUCHER(左)
着用歴は約10 年。ブラックにも近い濃いバーガンディは経年変化の賜物。流れるようなシルエットと広めのコバの組み合わせが存在感を高める。10年履き込まれた美しさに惚れ惚れする。
こちらの2足を使った着こなしをご紹介いただいた。
まずは、靴の色とは対比的な鮮やかなブルーが好相性なコーデ。着用した靴はPUNCHED CAP BLUCHERだ。
「靴はきれいなチョコレートブラウンなので、それ以外をブルートーンで合わせると、靴も服も引き立つかなと思っています。ジーパンは濃いめの色合いのリゾルト[711]にしました」
続いては褪色したジーパンがこなれたトラッドスタイルを演出するこちらの着こなし。着用したのはV TIP BLUCHER。
「バラクータのG9にタッターソールチェックのシャツ、エイジングしたリゾルト[711]を合わせました。靴は深みのある色なので、ジーパンとトップスは淡い色でバランスを取ってます」
ほかにも、林さんのお気に入りのデニムと革靴をご紹介いただいた。
こちらは言わずと知れたリゾルトのジーパン。今回の取材では定番の中でも少しゆったりした[711]をセレクト。きれいな色落ちは、まだ穿いて一年ほどだとか。
30年以上愛用するというジェイエムウエストンのゴルフ。幾度となくソール交換やインソールのリペアをしているとはいえ、甲革の状態の良さはさすがの品質を伺わせる。大事に履き続けたという訳ではなく、昔はオートバイにもゴルフを履いて乗っていたというから驚き。
足元に宿る、用の美。
シューズデザイナーの手嶋慎氏が2009年に立ち上げた、メイカーズ。匿名性をもつ、その名の通り、過度な情報はこの靴にいらない。ただクリエイトすることだけに心血を注ぎ、ストイックに生み出された流線型は美しくも無機質なプロダクトデザイン。名もなき民藝品にも似た「用の美」を、この一足に見出す。
PLANE SHOES|デザインを排し、革の魅力を引き出す。
ダークネイビーのホ—ウィン社製シェルコードバンが洒脱な足元を演出。その魅力を最大限に引き出すため、通常はアッパーとタンに入るつなぎ目を排除してウエストバンプにも履き皺が入るように設計されている。12万5400円
PUNCHED CAP BLUCHER|細かなシューレースの交差が美しい。
シューレースホールを極限まで増やした8穴の外羽根パンチドキャップトゥがエレガント。キャップ部分は全体のバランスを崩さないように小さく設計されている。グリーンシェルコードバンがコーディネイトの意表を突く。12万5950円
CHUKKA BOOTS|シンプルだからこそデザインに機微がある。
非常に珍しい6穴のブーツ。チャッカとレースアップの中間に位置するような、中庸なデザインが服好きをより楽しませてくれる。横から見て、ヒールから履き口にかけての見事な流線型はこの靴の最も美しい点と言える。13万1450円
PLANE SHOES|ジーパンと革靴。必然の巡り会わせ。
履き続けること、使い続けることで美しさが増す。装飾性は一切ない、洗練されたデザインは機能に付随する。まさに「用の美」という捉え方ができる、革靴とデニム。ある意味、その巡り合わせは必然といってもいい。12万5400円
地元・愛媛の名店で受注会を開催。
手嶋さんが学生時代に足繁く通い、販売員を務めていた愛媛のセレクトショップ「PLUS USP」にて、メイカーズのコードバン受注会を開催。9/24、25 には自らも店頭に立ってフィッティングを行う予定。開催期間は9/17 〜9/25。 愛媛県新居浜市中須賀町2-1-2 TEL0897-33-2701
【問い合わせ】
ディアドルフ
https://maker-s.jp/
Photo/Chie Kushibiki、Keisuke Kitamura Text/TRYOUT、Kazuki Ueda Styling/Nobuyuki Ida Hair&Make/Daisuke Yamada Model/Louis
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