映画監督や俳優のいらっしゃる発表会は普段のテック系の取材とはまた違った華やかさがあって面白かった。
手塚治虫の名作を、iPhone 15 Proで撮影
『ミッドナイト』は、1986年5月から1987年9月に描かれた手塚治虫の最後の週刊誌連載作品だが、これまで映像化されていなかった隠れた名作。「夜はいろいろな顔を持っている。その顔をひとつひとつのぞいていく男がいる。その名をミッドナイト」というプロローグで始まるこの物語は、深夜の街を走る無免許(!)のタクシードライバーを主人公にしたヒューマンドラマ。
今回は、そのうちのエピソードのひとつがiPhone 15 Proを使って映像化された。
ちなみに、原作もApple Booksで公開されている。
ちょっと余談だが、これは試写会では取材できなかったのだが、ミッドナイトが駆るタクシーの車種はなんだろう? マンガと同じMの字をモチーフにした(マセラティのトライデントのような)マークが付いているのだが、グリルやテールなどの特徴的な部分は隠されていてよく分からない。ボディラインからするとR30スカイライン(いわゆる鉄仮面)の初期型のような気がするのだが(Cピラーが寝過ぎな気もする)……このあたりは詳しい方の情報をお待ちしたい。
追記(2024/03/07 13:27):「ローレルでは?」というご指摘をいただき、調べてみたところC33ローレルのボディラインが適合するような気がします。
19分に魅力をギュッと濃縮
話は逸れてしまったが、『ミッドナイト』のストーリーは、いつものようにミッドナイト(賀来賢人)が街を流していると、殺し屋(小澤征悦)に命を狙われるトラックドライバーの少女カエデ(加藤小夏)とひょんなことから知り合い、彼女の逃亡に手を貸す……というもの。
人物の演技あり、カーチェイスあり、アクションあり……と、19分の短い時間の中にたくさんの要素が詰め込まれており、監督、俳優陣の豪華さもあって、あっという間の19分と感じる映像となっている。
ちなみに、せっかくの美しい4K映像なので、ぜひ大画面で見ていただきたい。
原作は’80年代ということで風情はレトロ調ではあるが、街行くクルマは新しかったり、登場人物たちもiPhoneを使っていたりと、時代背景不明のSF的世界観。手塚作品らしいといえば、らしい。
4つのワクワクで即決
上映会後には、三池崇史監督、賀来賢人さん、小澤征悦さん、加藤小夏さんの4人が登壇。『ミッドナイト』の制作に携わっての感想を述べた。
三池監督は「最初にiPhoneだけでと聞いた時には『無茶なこと考えるなぁ』と思いましたよ。でも、技術的な検証とかをいろいろと行って『自分の想像以上にいい感じに撮れるなぁ』と思いました。実は20歳の時、初めて助監督をやった作品が、加山雄三さんの演じてらっしゃった『ブラック・ジャック』だったんです。そこから43年経って、手塚先生の作品の監督の話が来たことに不思議なものを感じましたね」と語った。
賀来さんは「仕事のオファーをいただいた時に、僕はどれだけワクワクするか、やったことのない要素があるかで決めるんです。今回は、『アップルさんが映像作品を作る』『iPhone 15 Proのみで撮る』『三池監督の作品』『手塚治虫さん原作』と4つもあって、即出演を決めましたね」と語った。
走ってるシーンは、アクションカメラモードで
iPhoneで撮影ということに関しては全員が肯定的だった。
賀来さんは「iPhoneのサイズでしか出せないアングルがありますよね。僕のアクセルを踏む足もとにもiPhoneが入っているんですが、従来のカメラだったら、絶対撮れないアングルです」と語った。これまでの映画界では、クルマを切り欠いてカメラを入れていたのだそう。
加藤さんは、線路脇をカエデが走るシーンを挙げた。これまでだったら、ドリーなど大掛かりな装置でカメラマンが動いたりするのだが「iPhoneを持ったカメラマンさんが走って撮ってました。それでもブレてなかったのでビックリしました」と述べた。
小澤さんは、低照度での強さを挙げた。「私は悪役だったので、暗い場所にいるシーンが多かったんですよ。肉眼で見ても真っ暗な状況だったのに、iPhoneのカメラではちゃんと撮れていたので驚きました」という。
三池監督は、「激しいアクションに使っても壊れないのに驚いた。普通これほど激しく使うと、デジタルだからノイズが走ったりするのだけど、まったくそんなことがない」と語った。「おかげで1台も壊さずにお返しできました(笑)」と笑いを誘った。
手塚マンガにおける画面転換の速さ、あのテンポを模したカット割り、アクションの速さにiPhoneだからこそついていけたのだという。
一番、魅力的なのは、それを子供たちも持っているということ
誰もが持っているiPhoneには大きな可能性があるという。
小池監督は「今後、iPhoneにしかない機能をみんなが使って、そういう映像が増えていくと思います。既存の撮影機材にはない力です」と話をまとめた。
「一番、魅力的なのは、それを子供たちも持っているということです。みなさん、その気になれば、このあと午後から歌舞伎町に行って撮影していただければ(笑)。すでにiPhoneは持っているわけですから、やるかやらないか? 何を作るか? なんです。そういうものを、僕らは手にしてポケットに入れているんですね」
ProRes 4444(最高品質のフォーマット)のLog撮影で
その後撮影技師の北信康さんに話を聞く機会もあった。
撮影はすべてiPhoneで。多くのシーンはProRes 4444(最高品質のフォーマット)のLog撮影(RAWよりデータが小さく、色調整範囲の広い撮影設定)で撮影しているとのこと。
いっぽうアクションモードや、シネマティックモードを使っているので、通常サイズのデータで撮影してる部分もある模様。撮影には何種類かのリグ(iPhoneをマウントするフレームのようなもの)が使われており、データはiPhoneに直接書き込まれたり、リグに一緒に固定されたSSDに記録されたという。
こういった場面でUSB-Cポートは非常に役に立ったとのこと。データを書き出すのも容易で高速だし、充電も手早い。また、ロケハンに行った後、その映像をディスプレイに映して検討するのも簡単だという。
すでに、ロケハンなどのシーンでは常にiPhoneが使われており、単に仮の映像を撮るだけでなく、その状況で光が良ければそれを撮っておいて本番に使ったりもするという。また、Sun Seekerというアプリを使えば、何時にどの位置に太陽が来るかが正確に分かるので、撮影時刻などを決定するのにも役立っているという。
メイキングの詳しい話は、こちらの動画を参照のこと。
また、テーマソングはApple Musicで聞くことができるし、
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT 「Midnight Klaxon Baby」
https://music.apple.com/jp/album/midnight-klaxon-baby/1444109943?i=1444110149
遠藤浩二さんが手掛けた9曲収録のサウンドトラック『ミッドナイト』はドルビーアトモスによる空間オーディオを使って、Apple Musicで配信されている。
『ミッドナイト』オリジナルサウンドトラック
https://music.apple.com/jp/album/midnight-original-soundtrack/1733925435
さらに、App Storeでは、『ミッドナイト』の撮影で使用された、ビデオカメラアプリ「Blackmagic Camera」、「Filmic Pro」、「Scanniverse」などが紹介されている。
https://apps.apple.com/jp/story/id1727978506
三池監督のように、誰もがプロ並みの映像を撮れるカメラを手にしている。これを使って、みなさんも動画撮影にチャレンジしてはいかがだろうか?
(村上タクタ)