先進的な授業に取り組む地方都市
今回、取材にお邪魔した長野県伊那市では、2014年からiPadの導入が検討され、最初に少数配布、そして徐々に配布数を増やし、電子黒板やWi-Fiなども充実させ、2020年からは全小中学生にひとり1台のiPadの配布を完了させている。
そういう意味では、最終的にGIGAスクール構想の国の予算に後押しされたわけだが、その6年も前から、自力で導入を検討し、少ない導入台数でもいかに成果を上げるかを工夫してきただけあって、iPadの導入に対する知見も深い。
伊那市立伊那中学校の理科の授業での活用を取材させていただいたので、ご報告しよう。伊那中学校は伊那市街地西部の高台の上にある、戦後、1947年に設立された市立中学校だ。
理科の授業がどう変わったか?
見学させていただいたのは理科の授業。担当教諭は塚平和希教諭。学生時代からiPadを使っていたとのことで、伊那市でのiPad導入にも当初から積極的に取り組んできた先生だとのこと。
授業は『運動とエネルギー』に関して。傾斜をつけたレールの上で台車を転がして、『だんだん速くなる運動』、つまり重力加速度について、実験から体感するというもの。
従来であれば、一定時間で打刻される記録テープを切り貼りして方眼紙に貼り付け、単位時間あたりの移動距離が比例して伸び、累計の移動距離が二次曲線的に伸びる(加速していく)ことを学ぶのだが、iPadを使った授業はもっと分かりやすい。
iPadのグラフに浮かび上がる明らかな結果
生徒達は、iPadで先生がSchool Work(学校で使うアップルの情報共有アプリ)で共有されたNumbers(表計算アプリ)に、数値を記入していく。
アプリは表に数値を入力すると自動的にグラフが生成されるように設定されており、単位あたりの移動距離は時間に比例して伸びていき、トータルでの移動距離は二次曲線的に伸びることがひと目で分かる。
あらゆる生徒が、主体的に授業に参加できる
レポートもSchool Workで共有されており、用意されたフォームに写真や文章を入力していく形式だからとても答えやすい。
従来の方式の授業だと、手を挙げて答える一部の生徒だけが授業に参加している側面もあったが、iPadを利用してクラウド共有していると、すべての生徒が自分で回答する機会を得られるし、先生から見ても誰がどんな回答をしているか一目瞭然だ。
iPad利用によって、すべての生徒にとって授業が自分のものになる。個別最適化された学びを実現していると言えるだろう。
共有することによる学び
また、実験データはクラス全体でも共有されているので、他の班との違いを見ることもできる。
今回のグラフで言えば、レールの傾斜を強くした班は、加速が速くなっているという傾向を見て取ることができる。共有することで、自分達だけの実験ではなく、他の班の実験結果も含めて考察することができる。これも従来の方式では得られなかった知識だ。これは協働化された学びだと言える。
iPadの導入で、教育はどう変わったのか?
伊那中学ではiPadを導入することで、教師側の意識改革も進んでおり、教師主導の教育から、生徒が自ら学び取る教育へと進化しつつあるという。
授業以外の活動でも生徒の主体性が重視され、生徒の学習効果を測るテストも改革されており、従来の暗記型とは違った評価判断が行われるようになってきている。
これらの変化が、生徒たちの将来をどう変えていくのか? 伊那市という地方都市の将来をどう変えるのか? は、まだ時を待たないと分からないが、iPadでの授業に生き生きと取り組む生徒たちを見ていると、彼らの未来は明るいものへと変化しているように思われた。
これら、学校へのiPadの導入については、アップルのウェブサイトにも詳しい情報が提供されている。
https://www.apple.com/jp/education/giga/?fbclid=IwAR3B8hhkUyeZt_M0VtWeuLJVAoXJ4T9l-mdIjgXglH7x3f72ZQbeLv16BlA
(村上タクタ)
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