茶芯に明確な定義はないけれど……
一言でいうならば「一見ブラックのレザーだが、使い込んでいくうちに地の茶色が表面に出てくること」ということになるのだろうが、実はこの「茶芯」という言葉、皮革専門用語ではなく、ヴィンテージレザーやブーツを扱う古着ショップやオークションなどで使い始められた、業界独自の用語なのだ。
そのため「茶芯」に明確な定義はない、というのが実情だ。
現在では「茶芯」という言葉が海を渡り、直訳で「Tea︲Core」と呼ばれるようになった。「茶」をBrownではなくTeaと変化したというわけだ。
「茶芯」という言葉をそのまま素直に受け取るならば、「クローム、もしくはベジタブルで鞣した革を、一度ブラウンで芯まで染め上げ(芯通しさせ)、その上から黒色で表面に色を付けた革」ということになる。
これならば、芯は茶色に染まっているため、「茶芯」という言葉が一番しっくりくる。
一説によると、かつてはレザーをストックする際に一度ブラウンに染色していた、という話もあるため、おそらく、ヴィンテージ市場に出回っている“茶芯” アイテムは、このように作られたと思われる。
しかし、例えば「ベジタブルで鞣したヌメ革の表面に、芯通しさせずに黒色を入れる」といった場合はどうか。
これはいわゆる「丘染め」と呼ばれる技法になるが、これも立派な「茶芯」である。クロームで鞣した革は、ウェットブルーと呼ばれる淡い青色になるが、ベジタブルで鞣された革はそもそも淡いブラウンになるため、表面の黒が落ちて地が出てきた際、それも茶芯以外の何物でもないのだ。
現在、様々なブランドが、それぞれの解釈で茶芯のレザーブーツやレザージャケットをリリースしている。世のエイジングファンにとって非常に喜ばしい状況であるが、決して誤解してはいけない。ヴィンテージのレザーアイテムに見られる茶芯は、決して狙って作ったものではない、まさに偶然の産物だった。手元にあった革のストックがたまたま茶色で、それを黒に染めてリリースすれば茶芯……というふうに。
本来茶芯とは、ユーザーがそのアイテムを思い切り使い倒し、エイジングさせることで、偶然手にすることのできる「神様からのご褒美」みたいなものなのだ。それを、より身近に、より確実に手にすることのできる現代の我々は、幸せ者だ。
ダイナミックに茶芯の浮き出たこちらのブーツは、ザ・リアルマッコイズのスタッフが履き込んだBUCO ENGINEER BOOTS / BUTTOCK。爪先の黒は削げ落ち、シャフトのクタり部分は擦れて圧倒的なブラウンが出現している。着用年数は不明だが、おそらく10年以上は履いてきたに違いない。茶芯とは、履き込んだ/着込んだ者のみに許された、レザーの桃源郷なのだ。
(出典/「Lightning 2025年3月号 Vol.371」)