人種差別や偏見へのアンチテーゼ。|ダンス・ウィズ・ウルブズ(1990)
奴隷制度を巡る南北の対立が頂点に達し1861年に勃発した、南北戦争の英雄にしてケビン・コスナー演じるジョン・ダンバー北軍中尉の運命を描いた『ダンス・ウィズ・ウルブズ』。江口さんは本作を通し自身の人生哲学、つまりは差別や偏見へのアンチテーゼをさらに強固なものにしたと言う。
「当時のケビン・コスナー主演作は学生の頃にほとんど観ていますが、中でも精神性や哲学的な影響という点で最も心に残った作品のひとつです。奴隷制度の賛否に端を発した南北戦争下、白人たちは西部への侵略を重ね、やがてその手はネイティブアメリカンたちの居住区まで及びます。
北軍の英雄でもあった主人公は、自ら彼らの居住区へと赴き、白人至上主義が当たり前だった時代に人種差別や偏見と真っ向から向き合い、ネイティブアメリカンたちの英知や精神性へと傾倒していきました。スー族の女性と恋に落ち、“狼と踊る男”の字を授かると、彼らの一員として共に合衆国軍と戦うことを決断します。ぼくも予てから差別や偏見といった真っ当な根拠のない人間同士の隔たりに疑問や嫌悪感を持っていましたし、本作を観た直後には、その生き方や精神性に感銘を受け“ネイティブアメリカンになりたい”と本気で考えてしまうほどでした(笑)。
どこの国や地域にも必ず先住民族が存在し、近代化や資本主義を進める多勢が彼らの生活や文化様式を駆逐しながら一本化しようとする。でも、そんな権利は誰にもないはずです。そうしたメッセージを当時の熟し切ったアメリカや世界へと投げかけたという意味においても、非常にエポックメイキングな作品だと思いますし、ぼくがネイティブアメリカンの文化に興味を持つきっかけともなった作品です」
(出典/「Lightning 2025年2月号 Vol.370」)
Text/T.Hakusui 白水健寛 Photo/N.Suzuki 鈴木規仁、N.Hidaka 日高奈々子
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映画に登場するコーディネイトを真似たい、 そこから古着の道へ。