こだわる大人の愛車録。「THE FAT HATTER菊地さんが縁を感じたクラシックビートル」編

クルマやバイク選びは人それぞれ。移動手段であれば何でもいいよという人もいれば、デザインやカラー、中身にこだわりたい人、クラシックなモデルに心惹かれる人などなど。そんななかでも愛やこだわり、それに独自のセンスで愛車を選ぶ人の審美眼とストーリーを紹介する愛車録。今回は昔ながらのフルオーダーハットを軸にハット&キャップブランドを展開するTHE FAT HATTER(ザ・ファットハッター)の代表である菊地さんに聞いた。

クラシック・スタンダードをそのままで感じたくて。

最近、1961年式VWタイプ1(ビートル)を手に入れたTHE FAT HATTERの菊地さん。まだ納車されてそれほど時間が経っていないけれど、現在では毎日の通勤でもこのクルマで移動するほど熱量が高い。

当時、国民車としてドイツで生まれ、長い歴史を持っているビートルも、ヴィンテージモデルとなると今ではなかなかお目にかかれないし、年々その価値は高まっている。そんな稀少車を普段使いとして選んでいる。

大柄でどっしりとした菊地さんがコンパクトで丸っこいビートルというチョイスにまずは驚く。普段からファッションもカジュアル過ぎないジェントルなファッションを好み、トレードマークのハットも欠かさない。良い意味での違和感を感じるその愛車選びに迫った。

「もともと、クルマにモノすごく詳しいわけではないんですよ。だから旧いクルマは好きでも、いわゆるクラシックカーも『わかりやすい車種』に惹かれるんです。タテ目のメルセデスや初代のフォード・マスタングとか。ビートルもそのなかのひとつですね。とくにビートルだと僕とのギャップもあって、あえて乗ってみたいと思っていたクルマでしたね」

そんなビートルとの出会いを聞いてみると、これがなかなかおもしろい。

「じつはこのクルマとは偶然ご縁があって。これはもともと知人がレストアして乗ろうとベース車両として所有していたんですが、別のクルマの良いレストアベースのクルマが見つかって、そっちに興味が行っちゃったみたいで。それで僕に乗らないかという話しが来たんですよ。これも何かの縁だなあと思って即決しました。ビートルは気になるクルマのひとつだったし、年式にはこだわってなかったので」と、出会いは突然だった。

よくクルマ好きに聞くと、愛車との出会いは縁でしかないという話をする人が多いけれど、まさに菊地さんはそんな縁をこのクルマに感じたという。

ただ、元々はレストアベースのヤレたビートル。これをフルレストアして乗るというプロジェクトをすぐに思い描いたという。

「もともとは知人がレストアして乗ろうと手に入れたベース車だったんで、自分もきっちりレストアして乗りたいなと思い、専門店との出会いもあってお願いしました」

とかくクルマ好きだと、せっかくフルレストアするならあれこれカスタムもしてしまおうと思いそうだが、菊地さんはあくまでオリジナルのスタイルにこだわっているのもポイント。

「だいたい仕上げて乗るとなると、車高を落としてみたり、マフラーやホイールを社外品に交換したりする人は多いと思うんですが、できるだけ当時そのままのスタイルで、自分からオーダーしたのはボディカラーだけですね」

と、あえて昔ながらの「素」の状態を意識したという。そこにも菊地さん自身の思いがあった。

「僕の作るハットも同じですけど、昔ながらの製法そのままに現代でやって、あくまで昔から変わらないスタンダードをベースにしています。それと同じように、クルマもこれは初めて乗るビートルだったんで、昔のままに近いカタチで、当時のスタンダードを楽しみたいなと。乗ってみると、普通に運転できますし、流れに遅れてしまうこともないですからね。今の状態でけっこう満足してますね」

旧きよきありのままを楽しみ、まずは当時のスタンダードを五感で感じることが楽しいという菊地さん。自身のハット作りのコンセプトと同じ感覚でクラシックカーを楽しんでいるってわけだ。楽しそうに話しているその根底には一貫した揺るぎないスタイルを感じることができる。

きっちりレストアされ、毎日の通勤で都内を走っている。ディテールは新車みたい。

あえてできる限り当時そのままに復元してもらった1台。もちろん現代のクルマからすれば非力なのは否めないけれど、あえて当時ならではのクルマを楽しみたかったという菊地さん。毎日乗っているので、冬の朝方でもエンジンは一発始動。バタバタと空冷エンジンならではの音を聞かせてくれる。

1938年に生産が始まって、そのスタイルをほとんど変えることなく長い歴史を持つ名車ビートル。年々クラシックなモデルは現存数も少なく、希少価値が高まっている。これは1961年式
クラシックなモデルはヘッドライトが楕円形で大きくキュートなルックス。エンジンはリアに搭載されているのでフロントはトランクスペースになっている
唯一オーダーしたというのがボディカラー。これは1954年式(オーバルウインドー)のライトベージュで、自身が作るハットのスタンダードなカラーを意識している
きっちりとレストアされたエンジンは年式不明だが載せ替えられていて、排気量は1200cc。オリジナルは6Vの電装系だけど、これは普段の走りを考慮して12V化している
内装も張り替え済み。落ち着いたレッドがボディカラーと好相性。ステアリングは1964年式のモノをセットしている
あえてオリジナルのスチールホイールにホイールキャップという組み合わせ。内装色と同色で2トーンにすることでアクセントにもなっている
リアはオーバルウインドーの後に存在したスモールウインドーと呼ばれる世代。小さなウインドーになるほどクラシカルな雰囲気になる
クラシックビートルらしい小さなテールライトも旧いモデルならでは。ランプが小振りなほどラウンドしたリアが強調されて見える
インパネはシンプルなワンメーターというスタイル。ダッシュ中央にセットされるラジオも当時のままでアップデートしていない
VWの本社があるウォルフスブルグの城と狼をモチーフにしたエンブレムがノーズの先端には装着されているのもクラシックなイメージにひと役買っている
ルーフは蛇腹式で開閉が可能なラグトップ。天気の良い日には開放感のあるドライブが楽しめる。もちろん新品に張り替え済み
大柄な菊地さんでもそこまで運転は窮屈にはならないという。もともと大柄なドイツ人が乗るクルマなだけに、小さな車格でも室内はそれほど圧迫感はない。納車されてから毎日の通勤のアシとして活躍している
クラシックなクルマでも、まずは当時の乗り味を感じたいとこのクルマをチョイスした。「見た目的にホットロッドに乗っていそうと思われがちなんですけどね」と、そのギャップをあえて楽しんでいるという菊地さん

【DATA】
THE FAT HATTER
東京都渋谷区神宮前6-16-6-2F
TEL03-6450-6506
平日13時~19時(平日)、12時~19時(土日祝) 不定休

https://thefathatter.com
https://www.youtube.com/@thefathatter7413

この記事を書いた人
ラーメン小池
この記事を書いた人

ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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