その誕生には日本人の 移民が深く関わっていた。
夏のスタンダードアイテムアロハシャツ。まずは改めて歴史をざっくりとおさらいしておこう。
その起源は諸説あるが、19世紀から20世紀にかけてハワイに移住した日系移民が深く関わっていることは間違いなさそうだ。ちなみに「ハワイアンシャツ」という言葉は1927年に中国系移民のエラリー・チャンがマーケティングのために作った造語で、’36年「アロハシャツ」として登録商標したという経緯を持つ。
最初期にあたる’30年代には日本から輸入した和柄の生地が多かったようだが、第二次世界大戦により一時中断。戦後になると再び日本の生地が使われるようになったほか、ハワイ州内、さらに本土のカリフォルニアやフロリダのスポーツウエアメーカーもこぞってアロハシャツを作るようになる。そして、その特徴はなんといっても絵画的なデザインにある。
「ヴィンテージでも名品として人気なモノは『着るアート』と言えます。特に時を経て味の出たヴィンテージは、着るだけでなく額に入れて飾るのもいいですよ。そしてまた、ハワイアンアイランドを着る感覚で楽しんでほしいです」
とは、ヴィンテージファンの間では知られる「ゴーフォーブローク」の成田亘さん。
昨今は価格の高騰が激しく 素人には参入しづらいかも。
アロハを語る上でぜひ知っておきたいのがデザインパターンだ。最初期の’30年代から見られる「オールーバー(総柄)」、’40年代後期から見られる「ボーダー」、’50年代から登場する「ホリゾンタル」、ほかにも「バックパネル」、「ピクチャープリント」、「和柄」などに分類できる。
生地も特徴的で、~’40年代まではシルクやコットン、’50年代はレーヨンやコットン、’60年代はポリエステル・コットン・コンポリ素材が主流となってくる。
自身も40年以上のコレクター歴を持つ成田さん曰わく、アロハシャツの黄金期は「’40年代後期~’50年代」だそう。ただ、黄金期はもちろん、それ以降のモノですら最近は球数の減少から価格の高騰が激しく手が出しづらい状況。
「年々高騰しているような状況ですね。10年前と比べて倍以上になっているかもしれません」
現在は「サンサーフ」をはじめ、国内外の多数のブランドが名作と呼ばれるアロハシャツの復刻を手がけているので、復刻されていないレアな作品を見つけるのはさらに至難のワザだ。よほどのファンでなければ復刻品を購入するのが得策だろう。
「でも、やはり本物が持つ雰囲気は別物。本当に価値のわかる人に所有してもらえたら嬉しいです」
アロハシャツに見られる代表的なデザインパターン。
ボーダー
一定の幅に描かれた柄を組み合わせたボーダーパターンは1940年代後期から見られるもの。基本的にアロハシャツに見られるボーダーは縦が一般的で横は割とレア。
1950年代。ウクレレとハイビスカスなどの植物をあしらったボーダーパターンの長袖シャツ。袖が特徴的で前面はシンプルに無地で、腕の背面には前面より大きなウクレレが描かれている。色合いや柄のバランスなどオシャレ。21万7800円
バックパネル
’50年代以降本土のメーカーによって誕生。前面はシンプルで背面にアーティスティックな絵画をあしらうのが特徴。他にも写真を使った「ピクチャープリント」もある。
正面は無地だが背面にはハンドペイント風?のタッチで描かれる美しい女性や漁をする男性、鳥、花といった旧きよきハワイの風景が描かれたアーティスティックな1枚。1950年代製。若干裾がカットされカスタムされた跡がある。14万800円
オールーオーバー
いわゆる総柄。全面に柄をプリントしたものでアロハシャツ最初期となる1930年代はこのオールオーバーパターンが主流だった。絵柄の配置やデザインも様々ある。
チリメンレーヨン素材で作られたオールオーバーパターン。1950年代製。夜の海と松明を焚いて魚を誘きよせる昔ながらの漁を描いた1枚で、美しい色合いが特徴的。左胸にはポケットがあしらわれているが、柄合わせになっているなど完成度も高い。5万4780円
ホリゾンタル
1950年代から見られるパターンで、裾部分を水平線に見立て、シャツ自体が1枚の絵になるように描かれたデザイン。色使いも派手でインパクトのあるモノが多い。
フロリダにあるロイヤルパームスポーツウエアによるヤシの木のホリゾンタルパターン。レーヨン製で1950年代初頭と思われる。ハワイのブランドが手がけたモノとは一味違う淡い色合いと絶妙な柄の配置が美しい。ASK
市場価格を知る!
ジーンズや革ジャンなどと同じく、アロハシャツも状態のいい品が少なくなってきたこともありヴィンテージ市場での価格も高騰する一方。10年前に1万円切っていたモノが今では数万円、復刻されておらず、アメリカの資料本などに掲載される「オンブック」と呼ばれるレアアイテムは数十万円の値が付くこともザラ。また、最近ではタグまで実名復刻された復刻品がヴィンテージとしてネットで高値で売られていたこともあるので、ネットで購入する場合は真贋を見極める知識と目利きも必要。
【1950年代】メーカー不詳
ボーダーとホリゾンタルをミックスしたようなパターンだが、注目すべきは胸のラインがアーチ型になっていること。数多くのレアアイテムを目にしてきた成田さんをしても「このあり得ない柄の配列に度肝を抜かれました! この柄のシャツは数枚所有していましたが、 こんな配列は見たことないです」ASK
【1940年代】POLYNESIAN Sportswear
海外では人気の高い和柄シリーズ。こちらは満月の月明かりに照らされる金閣寺を描いたもの。素材は和柄に多く見られるチリメンレーヨン。繊細なタッチが美しいレアアイテム。32万7800円
【1950年代】Surfriders Sportswear
ユナイテッドエアライン(UA)のノベルティグッズとして作れた1枚。他にもいくつかのデザインパターンが存在しているようだが、どれも現存するものは少ない。アロハファンだけでなくUAファンからも人気が高い。21万7800円
【1950年代】guymont
さまざまな写真をコラージュしたピクチャーパターン。花を摘む美しい女性やハワイと思われる風景に混じって、なぜか沖縄と思われる風景も入っていて、日系移民の人が関わっていたのかなど、作られた背景へにも想いを馳せる楽しみも味わえる。8万5800円
【1940年代】KAHULUI DRY GOODS
着物の生地の影響を色濃く残す’40年代のチリメンレーヨン生地を使った和柄デザイン。広島県の厳島神社とツルが描かれている。マーブル柄の尿素ボタンを使用するなどディテールにもこだわりが感じられる1枚。21万7800円
【1950年代】DUKE KAHANAMOKU
アロハシャツのメジャーブランド、デューク・カハナモクの最高傑作ともいわれる「ココナツパームス&ダイヤモンドヘッド」。ヤシの木とそこから覗くダイヤモンドヘッドを描いたホリゾンタルパターン。復刻もされている人気の柄のオリジナル。しかも、同じ柄のショートパンツも付きというコレクターズアイテム。ASK
【1950年代】ALOHA KANAKA
カリフォルニアのアートヴォーグ社のサーフウエアブランド「アロハカナカ」の1950年代の1品。アート製の高い作品を数多く手がけていてファンからも人気のブランドで、こちらは背面に火の前で踊る「マダム・ペレ」を描いた作品。まさに着るアートと呼ぶにふさわしい仕上がり。ASK
【1950年代】California sportswear
アロハシャツでボーダーといえば縦ボーダーが一般的だが、こちらはレアな横ボーダーパターン。モノトーンで描かれたハワイの昔の風景と、パステルカラーで表現した波柄? の組み合わせ。ショート丈のサイズ感やデザイン的にもロカビリーシャツのように着られていた可能性も? 9万6800円
【1950年代】Lauhala
珍しいキッズサイズ。ハワイ諸島をはじめ、キング・カメハメハの功績などハワイの歴史をポップなタッチで描いたオールオーバーパターン。コンディションも抜群。お子さんやお孫さんへのプレゼントにも。5万4780円
【1950年代】HAWAIIANA
キッズサイズで長袖というレアな1枚。トロピカルな植物やかつての生活様式と思われる姿をしたロコの姿が鮮やかな色合いで描かれたオールオーバーパターン。額装してインテリアにもオススメ。6万3800円
◆
国内外メーカーによって多数の名品が復刻されて買いやすくなったというメリットがある一方で、復刻されていない名品を求めるファンもいることで、価格は年々上昇するばかり。そこまでファンでなければ復刻品が無難かも?
※情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning2023年9月号 Vol.353」)
Text/M.Terano 寺野正樹 Photo/H.Yoda 依田裕章 取材協力/ 54broke http://www.instagram.com/54_broke
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