優秀なエンジニアが黄金期を築きあげた。
現在のトライアンフは1985年から現在まで続くイギリスの歴史深い二輪メーカー。今回紹介する’38年〜’70年代までのトライアンフはメリデン工場で生産されていたもので、その時代のトライアンフを語るにはエドワード・ターナーという男の存在は欠かせない。
アリエルの優秀なエンジニアだったターナーは、経営危機だった’30年代に迎え入れられ、バーチカルツインモデルの開発を機に業績を回復させていく。低価格かつ高性能なバイク作りに専念し、大衆の支持を獲得した。さらに、コストを抑えるためパーツの互換性を高く持たせ、年代違いのモデルでも純正パーツを流用することができるその懐の深さも、今でもトライアンフが世界のストリートを走り続けられる理由と言えるだろう。
年代特有のディテールがヴィンテージの見所。
ヴィンテージトライアンフの中でも一般的に最も人気があるのは’50〜’60年代。アメリカ市場で成功し、レースでも活躍した黄金期で、エンジン性能やトライアンフ特有のディテールは現代の道路事情にも十分通用する。
ヴィンテージトライアンフを考える上でまず覚えておきたいのが次に紹介するキーワード。エドワード・ターナーのポリシーからコストと性能を最優先したため、外観上は判別しにくいモデルが多いが、エンジン構造やフレーム、また特定の年代のディテールによってスタイルが変わる。
今回はトライアンフ専門ショップの「トライド」にキーワードに沿う車両を用意してもらったが、相場は写真の車体に対する価格ではなく、あくまでもキーワードに対する、比較的コンディションの良いベース車の相場。必ずしもそのまま乗り出せる価格ではないので要注意だ。
旧い乗り物である以上、車体によって状態は様々。さらに純正度の高さやパーツによっても金額は変動するので、相場はあってないようなもの。むしろ海外から輸入して、そのまま安心して走り出せる車両は稀で、整備に数十万〜百万以上かかることだって珍しくない。プロの診断と十分な整備を受けてこそ、安心してヴィンテージトライアンフを楽しめるということを覚えておこう。
年代を表すスタイルの変化が重要なキーワードと市場価値。
モデルごとの違いはもちろん大切だが、まずはターナーが手がけたバーチカルツインモデルの年代で分けられる代表的なディテールの変遷を追ってみよう。あなたの好みはどの時代?
1.別体リジッド [1938-1953]|1951 TR5
ヴィンテージトライアンフの中でも特に人気が高い別体リジッド。まず知っておきたい別体/ユニットいう言葉は、トランスミッションがエンジンと別体か一体かを指す言葉で650㏄では’62年、500㏄では’59年を境にそれ以前は別体、それより後はユニットとなる。さらにこの車両はリジッドフレームでありながらハブ自体がストローク機能を持つトライアンフ特有のディテールを持っているのも面白い。別体リジッドのベース車相場は200〜250万円くらい。
2.Pre-War [1938-1940]|1939 Tiger100
WWⅡまでの車両を意味するプリウォーはガーダーフォークの装備が最大の特徴。’41年〜’45年は軍用車の製造に専念するため市販車がなく、’46年以降はテレスコフォークに変更するため、ターナーツインでは’38年から’40年までの3年間のみ採用。それゆえ、ベース車ですら球数がほぼ存在しないので相場はないようなもの。
3.別体スイングアーム [1954-1962]|1961 6T
別体バーチカルツインエンジンをスイングアームフレームに搭載する時代。別体の中でもよりスポーツ性能を求めるファンに支持される。さらにこの車両が装備する’60〜’62年の特定のモデルのみ採用された“バスタブ” と呼ばれるリアフェンダー装着車両は近年価値が上がっている。ベース車でも200万円以上の車両が多い。
4.ユニット [1963-]|1966 TR6
トランスミッションがエンジンと一体型の構成になっているユニット。ヴィンテージ市場では別体の方が価値が高くつけられる傾向があるが、ユニットはクランクケースやギアボックスなど強度が必要な部分を一体成形にして、さらにシリンダーやヘッド周りも改善されているので、別体に比べ耐久性が高い。相場は150万円〜。
5.スモールユニット [1957-1974]|1970 T100C
350〜500㏄のユニットを意味するスモールユニットは650㏄に比べ、手に入れやすいという見方もあるが、旧い年式はトラブルの原因が多く、新しくなるにつれ改善されるので高年式の車両が狙い目といえる。これはボブ・ディランが愛したことでも知られるモデルで、スモールユニットを好むファンは少なくない。相場は130万円〜。
6.オイルインフレーム [1971-]|1972 TE6RV
別体、ユニットの次に大きな変化となるのがフレームの構造。’71年からはオイルがフレーム内に入るオイルインフレームが採用される。車格がひと回り大きく、メインチューブが太いためチョッパーなどコンパクトなスタイルのベースには不向きだが、高性能ゆえにコアなファンに支持されている。相場は150万円〜。
車両の装備、コンディションで値段は大きく変わる。
ヴィンテージトライアンフは、旧い年式ほど高い価値がつけられやすいが、それ以外にも装備しているパーツやコンディションによって価値、値段はバラバラ。相場が存在しないようなものとはまさにそういうこと。そこで純正度が高く、そのまま走り出せる極上車と、ベース車の2台の販売車両を紹介する。
【1961 TR6】極めて純正度が高い貴重な1 台。
デュプレックスフレームを採用し、ほぼオリジナルの装備を残す車体。TR6はスポーツ性能を高めたエンジンとダート寄りのスタイリングが特徴。エンジンはストックに準じてリビルドされ、シリンダーヘッドをユニット用へ変更して耐久性を高めている。ルックス、機能性ともに丁寧に手が加えられた極上の1台だ。350万円
足回りもストック装備を残す。フロントフェンダーの先端が跳ね上がったフォルムがオリジナルの証。
3ガロン(約13.6ℓ)の容量を誇るガソリンタンク。手書きのピンラインにも注目したい。
心臓部はユニットの腰上を使用して強度を高めながらも、クラシカルな外観をキープするため別体のロッカーボックスを加工して装着。
【問い合わせ】
トライドモーターサイクル
東京都江戸川区西小松川町20-8
TEL03-3653-5813
営業/10:00〜19:00
休み/火曜
http://www.tride-mc.com
※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
【1979 T140E】ダートカスタムのベース車両としておすすめ。
オイルインフレームの中でも高年式な’79年式ボンネヴィル。外装は軽快なダートスタイルにカスタムされ、排気量750㏄のツインキャブエンジンに加え、シフトが左シフトに変更されてからのモデルであるため初心者でも扱いやすい。しかし、従来5速ミッションの年式だが4速が載っていたり、安心して走るためには細かく整備が必要なため、あくまでもベース車として150万円。
ダートスタイルのイメージを強調するマフラーは純正のハイパイプ。
ハンドルはセンターに補強バーを備えるダート仕様のものを採用し、タンクは純正の下部をチョップしてハンドペイントが加えられている。
コレだけは覚えておきたい!! トライアンフの基礎知識。
知識1.シフトが一般的なバイクと左右が逆になっている!
教習所で習う一般的なバイクの操作は右足でブレーキを踏んで、左足でシフトチェンジを行うが、’76年までのトライアンフは足の操作が逆になっている。乗れば慣れるが、他のバイクの操作に慣れていると最初は戸惑うかも。
知識2.タンクのエンブレムで年代判別できる。
トライアンフは似たスタイリングのモデルが多いが、エンブレムは年式判別のヒントになる。上の四つを覚えておけば’50〜’70年代は網羅できる。右上のハーモニカや左下のアイブロウなど、あだ名で呼べるとさらに通っぽい!
[1950-1956]
[1957-1965]
[1966-1968]
[1969-1981]
知識3.キャブレターは1個か2個。ツインキャブ化カスタムも人気!
純正ツインキャブはボンネヴィルのみだが、最近はボンネヴィルのヘッドを使ったカスタムも多い。
この写真はボンネヴィルの足がかりとなったデルタヘッドと呼ばれるツインキャブヘッドで、超希少なワークスのレーシングパーツ。
知識4.鉄ヘッドはローコンプ特有のマイルドなフィーリングが人気!
1961年からはすべてのモデルがアルミヘッドに変更になるが、それまでは6Tなど特定のモデルには鉄製のヘッドが採用されていた。鉄ヘッドは熱を持ちやすい分ローコンプに仕上げられ、独特の乗り味にファンが多い。
(出典/「Lightning 2019年4月号 Vol.300」)
Text/Y.Kinpara 金原悠太 Photo/S.Sawada 澤田聖司 取材協力/トライドモーターサイクル TEL03-3653-5813 http://www.tride-mc.com
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