「CLINCH」松浦さんの靴作りの哲学とは?

  • 2024.06.10

日本ブランドの高額な革靴が、欧米で大きな注目を集めているなんて話をほとんどの日本人は知らない。かつて、1990年代にジャパンデニムが世界中からもてはやされたた時と似ている。CLINCHの松浦稔さんは日本革靴界のレジェンドになり得る存在。買いたくても買えないと嘆くCLINCHファンが世界中に増殖している。そんな松浦さんに靴作りの哲学を訊いた。

先人たちが築いた技術を現代に継承する。

BRASS SHOE CO.代表の松浦稔さん。靴の修理店からスタートして、いまやヘリテージの枠を超え、多くのファッショニスタが欲するCLINCH Boots & Shoesを展開するまでに飛躍を遂げた

CLINCHは東京・世田谷にあるBRASSというシューリペアショップから誕生したオリジナルのブーツ&シューズブランドである。と書けば、規模感の小さな話に感じてしまうかもしれない。しかし、このブランドは日本だけでなく、世界中に多くのファンを持つブランドへと飛躍を遂げた。

かつてCLUTCHの表紙に登場した三代目J SOUL BROTHERSのボーカル、今市隆二さんが、表紙撮影の際に、自前のCLINCHブーツを、自らの強い希望で履いて臨んだ。彼は熱狂的なヴィンテージデニム愛好家として知られている。彼のようなヴィンテージ&ヘリテージ愛好家にとって最高峰のチョイスがCLINCHなのだ。

ただし、欲しいからと言ってすぐに買えないのもCLINCH。オーナーでありマスタークラフトマンの松浦稔さんが選んだヴィンテージをベースに、CLINCHとして再構築される靴は、上質な素材が使われ、木型製作からクラフティングまで、その多くを手作業で完成させる。昔ながらの靴作りが行われているのだ。

小田急線世田谷代田駅そばにあるBSCのショップ兼アトリエ。ショップには歴代のCLINCHがクラシックなインテリアの中にディスプレイされている。ブーツ同様、クラシックスタイルに徹した空間だ

すべてに通ずるコンセプトは「永く残る物を今に残す」

CLINCHを擁するBRASS SHOE CO.(BSC)のモットーは「永く残る物を今に残す」。先人たちが研鑽した技術を現代に伝えることを大きな目的としている。靴作りについて松浦さんは言う。

「靴においては、気持ちよく履くための機能性が重要です。そのためにはホールド感が必要で、そのホールド感がそのままフォルムに繋がります。そのフォルムこそがスタイルやデザインイメージになるのです。また、機能性を追求すれば素材の吟味も重要です」

メインコンセプトの「永く残るものを今に残す」に従えば、流行に影響を受けないクラシックなデザインで、修理しやすい仕様にすることも必要なことだ。この日、見せてくれた新作のプロトタイプは、1930年代のフランス軍山岳部隊のブーツ。シームレスホールカットのホースバットを使ったアッパーが特徴だが、まさに機能を追求した結果、シームレスな好デザインに仕上がっている。CLINCHが標榜するもう一つの重要なポイントである「経年変化」も、十分に楽しめる一足となるだろう。

「靴をデザインしているという感覚はありません。それがデコラティブなカウボーイブーツのようなモデルであっても。木型、パターン、素材の組み合わせで、そのモデルのデザインは決まってしまいます。だから、私がするのは、組み合わせを探り、最適解を導き出すことなんです」

新作モデル「MILNE」のプロトタイプ。童話に出てきそうなフォルムなので、童話作家アラン・A・ミルンの名を冠した。1930年代のフランス軍山岳部隊の靴から着想を得た
2023年にリリースしたカウボーイブーツ。機能を追求した結果導き出されたデザインの代表格と言っても過言はないはず。カウボーイのいない日本で生まれたブーツが、本場アメリカで人気を集めたというエピソードは興味深い

簡単に作れない靴は簡単に誰も買える靴にはならない。

デザイナーではなく、クラフトマンとしての視点で靴を語る松浦さん。最近は、CLINCHをはじめ、BSCの理念や活動をインスタグラムのサブスクリプション機能を使って発信しているそうだ。

本来は自社のスタッフにのみ伝えるべき内容のものもある。自分たちのモノ作りや考え方を十分に理解し、賛同してくれる人に優先して靴を届けたいという思いが強い。販売もサブスクメンバーに抽選販売するという方法を取っている。

それでも、作れる数が限られてしまうため、競争率の高い抽選にはなってしまう。一方で、海外での販売はメインがポップアップでの対面販売。こちらも理解を求めようとする姿勢の表れ。簡単には作れないから簡単に売ることはできないのだ。

じつに理にかなった販売方法だ。世の中には手に入り難いことをブランディングに利用し、マーケットプライスを吊り上げ、話題性を作るというマーケティングも存在する。しかし、CLINCHの場合は、多くは作れないので、理解し、「一生愛し続ける」という暗黙の契りを交わした者だけがCLINCHを堪能できるのだ。

簡単に作った物を簡単に買い、簡単に手放すのが当たり前の時代に、一石を投じようとしているのかもしれない。

ホールカット(革一枚)のアッパーのため、ホールド感は抜群。また、ホールカットなのでシームレス。水の侵入も防ぐ。機能面の追求が美しいデザインになった。ブラックも製作予定
1930年代のミリタリーイシューらしいディテールワーク。内側のアンクル部分にのみ別革が縫い付けられて、靴としてのフォルムを成す。これも当時の手法を継承している
BSCではCLINCH以外にも最初期から続くシューリペア&カスタム、シューケア用品の開発・販売、オリジナルのO’sullivan’s Rubber Companyの実名復刻ソール&ヒールの製造販売など多彩な事業を展開する

【DATA】
Brass Shoe co.
Tel.03-6413-1290
https://www.brass-tokyo.co.jp

(出典/「CLUTCH2024年5月号 Vol.95」)

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