近年、ほとんど目にすることがない大戦モデルのデッドストック。
―Sugar Caneではスーパーヴィンテージを復刻するコレクションを進めています。今日はBer Ber Jinディレクターの藤原裕さんとSugar Caneブランドディレクターの福富雄一さんのデニム界のレジェンドふたりに、スーパーヴィンテージについて、存分に語っていただきます。藤原さんはリーバイスのヴィンテージデニムに関する書籍を監修したり、世界中でヴィンテージデニムアドバイザーとしても活躍しています。
福富さん いま、藤原さんがディレクターをしてるNEW MANUALというブランドで、HEADLIGHTの実名復刻モデルを3型作らせてもらっています。
―おふたりは一緒にものづくりもしているということですね。
藤原さん ヘッドライトはありがとうございました。でも、今日はその話ではなく大戦モデルなどのヴィンテージデニムだとうかがってます。ヴィンテージデッドストックの実物を見られるなんて! 最近はもう入手困難になってきましたし、もちろん日本のコレクターの方でお持ちの方とかも、いらっしゃると思うんですけど、自分はもう、なかなか見ることはなくなってきました。
ネル生地のポケットは過去に4着しか見ていない。
福富さん まずこれが1943年モデルのセットアップです。時代的には大戦の一番過酷な時期、なのでオリジナルボタンではなくて、軍で使ってたようなドーナツボタン、デニムの生地も、最も荒々しい時代ですし、大戦ディテールが、ふんだんに詰まったモデルです。
藤原さん じつはこのジャケットは一度見たことがあるんです。
福富さん 藤原さんが監修した書籍にこれは掲載されていますよね。14番!
藤原さん 自分より覚えていらっしゃる。自分はこの本を制作してる最中に現物を手にして、撮影も立ち会っていたんです。その時、3着だけ1943年の個体がありましたが、デッドストックはこの1着だけ。リーバイスといえば、ジャケットのレザーパッチは、通常襟から1センチぐらい下に付いているんですが、この年代のジャケットはレザーパッチがだいぶ下につけられています。襟から5〜6センチくらいかな、結構下に付いてます。何センチ下っていう位置は指定されてないと思うんです。
福富さん 切替えの位置に載せて、縫い付けるぐらいの感じですね。
藤原さん この本の中では「ダウンパッチ」という表現をさせていただいたんです。
福富さん ダウンパッチって藤原さんが命名したんですか?
藤原さん そうです。ヴィンテージ用語として、どう表現しようかと思って。この本を作っているときに、現物で3着も発見できたし、過去にもお店で販売したことがあったので、ひとつのカテゴリーとして「ダウンパッチ」と命名させてもらいました。これまで見た中でも、水が通ってない状態というのは、この1着だけでした。
福富さん 大戦モデルなのに、パッチに書かれているのは501だけ。前にSもなければ後ろのXXも表記されていない。
藤原さん あまりにももう簡素な作りといいますか……。
藤原さん 入社何日目の人が縫ったんだろうって感じです。
藤原さん そうです。多分僕でも縫えるかな、みたいな。大戦モデルならではですが、簡素化されてるので、フロントボタンは通常5つのはずが4つ。胸のポケットに付くフラップが省略されて、見た目も随分変わっています。これが、やはり今、人気がある。
特にちょっとこのモデルに関しては、前のプリーツステッチも、通常は細いんですけど、甘い作り。素人の方が縫ったんではないかというほど。当時としてはダメな商品だったのかもしれません。しかし、今となってはもう本当に希少性が高いですし、この雑なディティールがいいというような評価になっています。
ヴィンテージ価値はサイズで変わる。Tバックなら3倍から4倍に!
福富さん 一方で43年の大戦モデルジーンズは、バックポケットにアーキュエイトステッチが入らない。ボタンも共通です。そして、何と言ってもやっぱり、こちらですよね。
藤原さん 強烈ですね! 大戦モデルならではですね。ポケットの袋地という見えない部分だからこそ、通常の白いスレーキではなく、このネルのような余った生地が使われていたんです。自分が持ってきたこっちの大戦モデルは、同じ43モデルで、ほんの数カ月くらいしか時期が変わらない。
細かく見ると、フロントボタンはすべてリーバイスボタンですが、ポケットのスレーキは白ではなく、大戦モデルらしい、ミリタリーで使われたオリーブのヘリンボーン生地が使われています。やはり大戦モデルはジャケットなら見た目がそもそも違い、パンツに関しては、ポケットのアーキュエイトがペンキに代わったり、そのペンキすらなかったり、見えない部分のディテールの違いなど、とにかくヴィンテージマニアの心をくすぐるような魅力があります。
自分はたくさんのヴィンテージデニムを見てきたつもりですけど、うん、やっぱりこのネルの生地。25年間Ber Ber Jinで働いてきましたが、ネルのポケットを使っているモデルを見たのは、たったの4着ですね。40年代のネルシャツはヴィンテージでもたまに見るんですが、厚みがあって、色が濃いですよね。まさに40年代らしい、ネルシャツの生地が大戦モデルに使われている。デッドストックは姉妹店のフェイクαで503XXB、ボーイズモデルのデッドストックは見たことがあるのですが、501XXで見たのはすべてユーズド。
―ヘリンボーンスレーキの大戦モデルは、いまBer Ber Jinで販売中ですね。値札が見えました。
藤原さん 税込275万円です。それだけ希少価値が高いということですね。大戦モデルの中でも、ポケットのスレーキが違うというだけで、ヴィンテージ価値は一段階上がるというのが現状です。今年の2月に25周年イベントで、ずっと集めてきたヴィンテージを一気に販売させていただいた際に、大戦モデルの水が通ってないものを販売したのですが、1000万円という値段で販売しました。
デッドストックというのはやはり、フラッシャーが付いている状態でして、そうなるとさらに価値は上がります。自分も久しぶりにSugar Caneが復刻するこの大戦モデルで見させてもらいましたが、このフラッシャー、大戦モデルに付いているフラッシャーは、大戦モデルにしか付いていない。このフラッシャー単体でも相当なお値段になっています。そのフラッシャーだけでも探している方はいます。それがすべて付属しているというのは、かなり価値があります。
それと、この個体はサイズが素晴らしい。値段を付けるとしたら、2000万くらい〜、ちょっとぼやかしますが。ヴィンテージに関してはサイズで価格は変わってきます。1990年代のヴィンテージブームの頃は、皆さんジャケットはジャストサイズで着られていたと思います。36、38、40といったサイズが主要なサイズで、大きいサイズは誰も買わないくらいでした。いまは、むしろ大きいサイズが人気です。
当時のアメリカの労働者やカウボーイの古い写真を見ると、細い人が多かったんですね。フロントのプリーツが広がるくらいのジャストサイズで着ていました。リーバイスも一番需要があったサイズ、現代の日本人の標準的なサイズとそれほど変わらないイメージですが、そのあたりをたくさん作っていました。
ただ、大きい方も中にはいたので、大きいサイズも少量ながら作ってはいました。46とか。カタログを見る限り50までは作っていましたね。店で扱ったことがある一番大きいサイズは、特別オーダーなのか56というものを見たことがあります。46以上だといわゆるTバックです。いまは大きいサイズが人気で、特にTバックだと価格が3倍から4倍になっています。
福富さん 今回の復刻でも、そういった事を考えて、ジャケットは50まで作ります。ジーンズも40まで。さらにデニム生地も43年モデル用と46年モデル用の2種類を作ります。43年モデルは、穿き込むと、今日藤原さんが持ってきた1943モデルのユーズドのような表情になるはずです。
(対談完全版の動画をYouTube「CLUTCHNAN TV」で近日公開予定)
(出典/「CLUTCH2023年11月号 Vol.93」)
Photo by Kenjiro Torii 鳥居健次郎(WandP)Text by CLUTCH Magazine 編集部
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