最近なんだか古着おもしろくない。そこで気づいた「しるしのない古着」という価値観。

服を選ぶ理由が「高いから」、「旧いから」なんて不純すぎない? あんなに好きだった古着に熱中できなくなってしまった。歳を取ったからか。ほかに熱中できる何かを見つけたらか。そんなこともなさそうだ。答えはなんとなく気づいている。「古着がなんかおもしろくない」。古着って、もっとチープでアノニマスだったと思う。いまでは、多くの古着に「しるし」が付いてしまった。それは決して、ロゴを指しているわけではない。透けて見える“市場価値”や“影響力”みたいなもの。ぼくらはもっと純粋に、古着の未来について知りたい。古着本来の魅力は何のしるしもないアノニマスなものにこそ詰まっているのだから。そんな悩める古着好きたちに向け、「それどこの?」と聞かれる服だけに悦楽を覚えるスキモノたちの座談会をお送りしよう。

それぞれで違うレギュラー古着の価値観

左から、シュンサクさん(スタイリスト)/酒井賢一さん(「マンチーズ」オーナー)/上田和輝(2nd編集長) 中目黒にある老舗古着店「マンチーズ」のオーナーにして、1990年代からシーンの動向を見続けてきた酒井賢一さん。2nd誌はじめ、メンズファッションの様々なメディアで活躍するスタイリストのシュンサクさん。そして2nd編集長・上田和輝(不気味くん改め)という、世代もストライクゾーンもバラバラな古着オタク3名が今日における古着の新しい魅力について考える

上田 よくヴィンテージ以外の古着に対してレギュラー古着というワードが使われますが、その棲み分けってどこにあると思います?

酒井 難しいね。でも、レギュラーというワードが使われ始めた90年代末とか2000年代初頭の頃と比べて、そのワード自体に含まれる範囲やアイテムがより広くなっているとは思うかな。

シュンサク 以前、酒井さんから聞いた話だと、「当時(90年代)は買い付けたら先輩のバイヤーさんから怒られていた」ものが、今では普通に一軍としてお店に並んでいるワケですもんね。

酒井 そうだね。そういうものはホントにいっぱいある。当時で言うと80年代ものは絶対タブーだったし、実際店頭でも全然売れなかったから(笑)。

上田 90年代に80年代のものとなると、たった10年しか経っていないですし、もっと旧いものに目を向けろってことだったと思うのですが、それから30年経った今だと、90年代に60年代のものに着目している感覚と変わらないワケじゃないですか。つまりは世代交代や周期の問題もあるのかな。

シュンサク 単純にそれはあるでしょうね。当然ものにもよるんでしょうけど。

上田 そうそう。その“ものにもよる”ってのが意外とクセモノで。2000年代のものでもヴィンテージとして扱われるブランドやアイテムってあるじゃないですか。たとえば「パタゴニア」のミリタリーライン「MARS」だったり。

酒井 2000年代初頭頃の「パタゴニア」、特にナイロンものに関しては今日のマーケットにもハマるアイテムが少なくない。でも、それはあくまでピンポイントであって、同年代の「パタゴニア」がすべてヴィンテージ扱いされているワケでもないですし。

上田 その違いって、具体的にはズバリ何なんでしょう?

酒井 付加価値なんじゃないかな。特に日本のマーケットは付加価値に左右されやすいと思っていて。影響力のある人がメディアに出すと一気に値が上がったり、レア度が高くなるキライは昔からあって。

シュンサク それは大いにありますね。年代や実際に市場へ出回ったタマ数よりも、金銭的価値に優れたものをヴィンテージと呼ぶようになったというか。その高騰具合もちょっと尋常じゃないですし。

その価値は一体誰が決めるのか?

上田 その影響力のある人って、以前はバイヤーさんだったり、ショップのオーナーさんだったと思うんですが、今ならインフルエンサーやYouTuberだったりするのかな。

シュンサク そうですね。「エルエルビーン」のバーズアイニットなんてまさにそうですし、あとは「有名なブランドがサンプリングした」とかも重要視されていると思いますね。

「シュプリーム」がサンプリングしたことから中古市場で急騰した「エディー・バウアー」のフリースジャケット

酒井 うん。だから最近は一点狙いでお店に来るコも少なくなくて。商品を端から端まで見て気に入ったものを買っていくのではなく、YouTubeのスクリーンショットを持ってきて「これ、ありますか?」と、それがなければ帰っていく。

上田 もうそんな感じなんですね(笑)。僕ら世代からするといつでも手に入る定番だったら、わざわざみんなが探しているタイミングに買わなくてもいいかなと思ったりもするんですが。

シュンサク でも、逆にいつでも手に入るからこそ値を上げやすいって部分もあるように思いますね。業者だったり、転売屋だったり。ですから、市場価値と希少性ってじつはあまり関係ないんじゃないかと思ったりもしていて。

メルカリをはじめとするフリマサイトの躍進もあり、誰でも相場を一瞬で把握できるようになったのも急激な市場高騰の一因であったと考えられる

まだまだ続く古着の流行

上田 国内の動向って海外にも影響あるんですかね?

酒井 大アリですよ。向こうのディーラーは日本の相場が一般的な相場と勘違いしてますし、特にコロナ以降、職にあぶれたネット世代が古着市場に流れ、インスタやSNSに流れてきた価格で売れるものだと思っているようで。そうなると仕入れ価格も当然跳ね上がりますから最終的に店に並ぶ際の価格に転嫁するしかないと。

上田 ブームはまだまだ加熱傾向にあると?

シュンサク 数年前から話題の無人古着店も、その多くがフランチャイズ制をとっているようです。つまり、ある程度の収益が見込めるビジネスモデルとしてすでに成立しているんじゃないかと。

上田 ひと昔前だと東京でも中心地からちょっとハズレたエリアにあった印象だけど、最近は下北沢や吉祥寺といった古着の激戦区にまで進出していますし、確かにビジネスとしての側面もあるんでしょうね。

いまや全国8都市に14店舗を展開する無人古着チェーン「SELFURUGI」が池袋や吉祥寺といった中心街にも出店。24時間営業という独自の業態でその勢力圏を拡大している

酒井 でも、あれはあれでレイアウトや導線作りなど僕らとはまた違ったノウハウが必要だと思うんだよね。商品補充や掃除のタイミングも大変そうだし(笑)。

上田 確かに(笑)。まあ、24時間営業という業態からもヴィンテージではなく、あくまでレギュラー古着に限ったことだとは思うんですが、一方のヴィンテージ古着も長らく衰えることがないとは聞いていて。

酒井 そうですね。でも、全部が全部ヴィンテージで揃えたいって感じではないように見えますね。そこも完全にピンポイントで「どこどこのなになにが欲しい」みたいに狙い撃ちしているコが多い気がします。

シュンサク 僕の周りに限るなら、もちろんヴィンテージも気になってはいるものの、以前と比べるとそこまでのこだわりがないように映りますね。

今のレギュラーは未来のヴィンテージ?

上田 とはいえ、たとえば90年代に5000円で買えたものを、今も同じ価格で買えるはずがないのは当然で。かつてのレギュラー古着も徐々にヴィンテージ化が進んでいるワケですよね。特に先染めのブラックジーンズ辺りは好調だと聞いていますし。

酒井 アメリカ産のブラックジーンズはすでにヴィンテージという位置づけなんですか?

上田 そこが本当に難しいところで。確かにタマ数が減りつつあるとはいえ、それが適正価格なのかはまた別の話というか。

シュンサク 誰もが知っているブランドではなく、知る人ぞ知る中堅ブランドやマイナーだけどいいアイテム、言い換えるなら市場価値がまだ明確ではないものがレギュラーと呼ばれているような気がします。現状では市場価値が明確ではないから比較的安価で手に入れられるけど、ものとしての完成度というか納得感みたいなものがしっかりあるものの印象です。

上田 「ギャップ」や「ジェイクルー」のように年代が若いがために、まだ価値が定まっていないものも、市場での希少性という部分だけにフォーカスするならヴィンテージよりもむしろレアであるはず。要は純粋に旧いからヴィンテージというワケではなく、市場価値や価値基準が明確だから高値で取引されているというわけですね。

シュンサク 今回の特集ではスタイリングページも担当させてもらいましたが、まだ価値が定まっていないブランドやアイテムをなるべく選ぶように意識しました。例えば、スポーツカテゴリーでは「スポルディング」に着目してみたり。

酒井 それが古着本来の楽しみ方だよね。でも、それは長年古着を見てきたからできることでもあると思っていて。今はネットを通して掘り下げやすい分、目利きではなくても情報過多にもまたなりやすい。そういう古着にあまり触れてこなかった層が異常に吊り上げられた価格を適正価格だと思っているんじゃないかな。

上田 ブランドの新品と比べたら、安いものも多いですからね。納得感よりも所有欲や安心感を満たす層も一定数いるのかな。大手百貨店で古着のポップアップイベントが大盛況しちゃう時代ですもんね。

しるしを気にしないことが本来の古着の楽しみ方

酒井 根が天邪鬼ですから、今まさに流行っているものに対してはあまり熱くなれないんですね。でも、たとえ年代が浅かったり、ブランド自体が知られていないにしても、自分なりにいいと思うものをピックしていますし、そういうものをお客さんにも届けたいと考えていて。

たとえばシュンサクくんを見ていても年代やブランドで服を選んでないのがわかるし、逆にどこの何かもわからないもの、つまりはアノニマスなものに面白みを感じているんじゃない?

シュンサク そうですね。古着に限らず特別なことがない限り大きなブランドロゴとかアイコニックなものは避ける傾向にあります。

上田 1本数百万円するジーンズとかも、あれはあれでひとつの楽しみ方だと思いますし、古着の一側面だとは当然考えています。でも、そういう象徴的なアイテムがあるなかでもストアブランドだったり、イレギュラーものだったり、ちょっとした変化球を楽しむことこそが新品にはない古着の醍醐味だと思うんですね。それが、何の「しるし」のないものというか。

酒井 その通りだと思いますよ。それはブランドとしてのしるしだけでなく、数百万円のジーンズに紐づく“高価”という、しるしもそうで。一見してそれとわかるようなものばかりだと、やっぱりストレスにもなりかねない(笑)。

シュンサク ピンを張れる主役級のアイテムではないのに毎日何となく身につけてしまうもの、ジワジワ効いてくるボディブローみたいなもの。そんな名脇役な楽しさが、いわゆるヴィンテージ古着にはない独自性だと思いますね。

「かつては利幅やスペースの問題からサイズやコンディションが、よっぽどよくない限りバイイングしなかった」というブラックジーンズやUS製レギュラー501。ニーズとともに2010年代頃から徐々に価格高騰が進み、いまでは市場の売れ筋に

(出典/「2nd 2024年4月号 Vol.203」)

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