フォトグラファーをメインに陶芸、染色、書籍編集など、多様な表現で活躍する木頃裕介の世界

古代ポリネシアンたちの漁法を起源に持つサーフィンとアートの蜜月は、戦後1960年代のヒッピームーブメント、70年代のロサンゼルスはベニスビーチを経てスケートボードや音楽などともリンクしながら世界中のストリートへと裾野を拡大していった。なかでも90年代、ニューヨークのアレッジドギャラリーがフックアップしたトーマス・キャンベルやバリー・マッギーといった多くの新世代アーティストたちは、路傍のインディアートを一流のポップアートやコマーシャルアートの一潮流へと押し上げた。今回フィーチャーする木頃裕介さんは、そんなアレッジドギャラリー周辺のアーティストから受けた影響の下、フォトグラファーをメインに陶芸、染色、書籍編集など、多様な表現で活動の幅を拡げている。昨年末には、キャリア初となる2冊の写真集刊行と同時に開催した個展『MOONSHED』の最中、葉山の海に程近い場所に位置する、彼の自宅兼アトリエを訪ねた。

写真家、出版者・木頃裕介|1982年、神奈川県横浜市生まれ。学生時代にサーフィン、ストリートアート、写真に傾倒し、’90sポップアートシーンの牽引役となったアレッジドギャラリーの影響下、写真暗室作業やZINEの製作を開始。2009年から2011年までフォトグラファー中沢功一氏に師事した後、近年は写真だけでなくインディペンデントパブリッシャー「MOONSHED」を通して様々な表現にトライしている

波に乗るような感覚で写真も撮りたい。それができたら最高に気持ちいいので

── ライフワークであるサーフィンや湘南エリアとの出会いは?

「サーフィンをはじめたのは高校時代です。地元が横浜なので当時は電車を乗り継いで鵠沼などで遊んでいましたが、大学以降、夏は伊豆に籠り、友人とルームシェアするかたちで湘南、バイト先は原宿と刺激の多い場所で生活していました。きっかけはもちろんサーフィンでしたが、いい波が立たなくても、海のある日常や周辺の環境も好きだったこともあり、8年ほど前に葉山に完全移住することにしました」

── 写真との出会いは?

「大学時代に総合文化という学科で、当初は油絵など芸術に関する実技系全般をカジっていましたが、そのなかで写真が自分には合っていると感じて、暗室作業やZINEの編集などもしていました。その頃は作品というよりもあくまでイメージで撮影した写真が多く、それを気に入ってもらってサーフィンやスケートボード関連の専門誌で使ってもらうことが増えましたね。特にテクニカルな事ではなく、完全に感覚だけで撮っていたんです。

そのため、商業的な仕事のオファーをいただいた時に、スタジオマンの経験がなく、商業写真のセオリーも全くわかっていなかった自分は大きな壁にぶつかりました。幸い、ご縁もあってストリートファッションシーンで活躍されていた、フォトグラファー中沢功一さんのアシスタントに約3年就くことができたので、ファッションから物撮り、状況に応じたライティングなどを一から学ぶことができました」

── 技術を磨きながらも、感覚が求められるサーフィンや写真は変わらず続けていたと?

「そうですね。サーファーにしか味わうことのできない景色、サブカルチャーを通して出会う被写体は刺激が多く、今も魅了されて撮り続けています」

──サーフィンや写真を軸に、カリフォルニアには頻繁に行かれていたのですか?

「刺激が多いのはやはりカリフォルニアだったので、回数で言うと多いかも知れません。カリフォルニアに限らずインドネシアやオーストラリアなど、様々な国へサーフトリップしていましたが、写真だけの旅では海のない場所も訪れました。よく『最高の波と写真、どっちを選ぶ?』と訊かれるんですが、究極なのでその時のシュチュエーションでと答えます。いい波が立っていれば当然、海に入りたい。でも波に乗りたい感覚と同様に写真も撮りたい。どちらも最高に気持ちいいので。ただ写真は残してシェアして楽しめるので、仲間が海に入っていても撮影していることが多いかもしれません」

── 学生時代はアレッジドギャラリーの影響が大きかったとか?

「僕らの学生時代、90年代半ば頃がまさにアレッジドギャラリーの隆盛期でした。映画『ビューティフル・ルーザーズ』(アレッジドギャラリー創設者のアーロン・ローズが監修したグラフィティムービー)をはじめ、トーマス・キャンベルなど、いわゆるストリートアートと呼ばれるシーンから頭角を現したアーティストたちに、影響を受けましたね」

── 最初期のシュプリームクルーやマーク・ゴンザレスなども当時、シーンの中核を担っていましたが、ファッション的にも影響を受けましたか?

「直接的な影響は受けなかったですが、ゴンズやエドテンなどアーティストには影響受けてます。ファッションって服の先にあるインディペンデントな活動やその仲間がイケてるのが、トータルでカッコよさに繋がると思うので。それはサーフィンやスケート、スノーといった横乗り系のアパレルブランド全般に言えること。デザインだけでなく、着ている取り巻きこそが真理だと思います」

── なるほど。写真家を軸に活動していこうと考えたのはいつ頃だったのでしょうか?

「いかにして旅をしながらサーフィンや写真が続けられるか、そんなことばかりを考えていたので、卒業後も先輩の会社に世話になったり、お金が貯まればすぐまた旅に出るような生活をしていたんですね。いまは閉店してますが原宿に『サンシャインスタジオ』という昼はカフェ、夜はDJバーとなるお店があり、バータイムにアルバイトをしていた時期がありました。

そこには現在、第一線で活躍されているイラストレーターやグラフィックデザイナーといった、頭角を表しはじめたクリエイターが夜な夜な集まり、結構ディープな空間となってました。そこに僕の師匠も遊びに来ていて『ちょうどアシスタントが卒業するから、よかったらやってみない?』と誘ってもらって、それから本気で写真家を意識しはじめましたね」

── とはいえ、近年における活動は写真をあくまで表現のひとつと考え、より広い表現活動をされているようですね。その内容を具体的に教えていただけますか。

「好奇心旺盛で色々やりたくなるんです。写真やったら本を作りたくなるし、それには言葉や知識が必要。知識のためには、自然を歩く。木や土、緑に触れ合うと陶芸や染物、写真も撮りたくなるという循環です。道草しながら幅を拡げています。また、近年の僕の創作において“発酵”がひとつのテーマになっていて。目に見えない微生物の世界で発酵と腐敗は同じ原理でありながら、邪魔し合うと腐敗、手を取り合うと発酵でパワーアップします。微生物の働きによる発酵は世界をよくする根源です。

特に僕がやっている正藍染めは発酵によるもの。色を出すだけなら化学薬品を加えることで可能ですが、100%オーガニックだからこそ藍本来の効能を活せる、廃液も土によく、循環型だからこそ正藍染めにこだわっています」

自分の“気付き”を自由な表現で次世代にシェアできればいいなと思う

キャリア初となる写真集には、日本におけるサーフカルチャー黎明期から活躍するリヴィングレジェンド白谷敏夫氏もアートディレクターとして参画している

── 自身初の写真集となった『TROPICS』と『HIDE AWAY』について聞かせてください。

「『TROPICS』では東海岸のビーチを、『HIDEAWAY』では西海岸のオーハイ・バレーにフォーカスしています。まず『TROPICS』では、ビーチが徐々に失われサーフポイントも減りつつあるなか、地元の人たちの高い意識によって、いまなお景観が守られているマイアミのビーチをメインに撮っています。

TROPICS(2023) 建築家ウィリアム・レインが手掛けたストリートごとに異なるデザインのビーチハウスをメインに、地元の建築家たちによってデザインされたトロピカルデコ様式の個性的な街並みとアメリカ東海岸のビーチにフォーカス

続く『HIDEAWAY』では、新世代のヒッピータウンとなったオーハイ・バレー周辺に広がるトレイルコースなど山や丘をメインに撮影したものを、アートディレクターの白谷敏夫さんがそれぞれセレクト、編集してくれたものです。

HIDEAWAY(2023) サンタバーバラの東側に連なる山々に囲まれた新世代のヒッピータウン、オーハイ・バレーをメインに、険しくも美しいトレイルコースやパワースポットとしても近年話題を集める豊かな自然環境を切り取った作品群

僕が切り取りたかったのは、ビーチカルチャーのユーモラスな色使いやアイデア、スピリチュアルな世界を感じさせる美しい丘です。我々サーファーからすると、日本の行政は間違った方法で予算を注ぎ込んでいるようにも映るので、もっと自然の循環を知ってほしい。海の問題をコンクリートで解決するのではなく、もっと自然の摂理に委ねた手段から見つめ直してほしい。そこにも色々なアイデアがあると思います。今回の写真集は、そのような考えで、住んでいる場所への愛や意識の高さなどを伝えたかったシリーズです」

── 最後に、今後活動の拠点となるであろう『MOONSHED』についても、お聞かせください。

「MOONSHEDはその名の通り月のよく見える小屋から命名してますが、ここでは主に自然やサブカルチャーを掘ったインディペンデントな活動をしていくつもりです。僕もそうですが、先人たちの経験や世の中の発展から、自らのスタートラインをかなりワープできてます。様々な分野の奥深さや発見は、終わりのない追求だとわかりながら、それがまた面白く、人生を豊かにする大切なことだと思うので、自分の“気付き”を自由な表現で次世代にシェアできればなと言う思いです」

MOON SHED(2023) 自宅の一角にほぼDIYにて併設されたギャラリースペース。写真暗室や書店としても機能し、自身のバックボーンでもあるサーフやスケートカルチャーに紐づく書籍から、縁あるアーティストの作品などが並ぶ

(出典/「2nd 2024年4月号 Vol.203」)

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