キャンバス画にセル画を重ね合わせる独自のアート。アーティスト・ヨコサカタツヤの世界

コロナパンデミックを機に、かつてアニメ制作に不可欠だったセル画の技術を応用し、単なるサンプリングアートとも趣きを異にする独自のコンセプチュアルアートを展開する、アーティスト・ヨコサカタツヤさんをフィーチャー。去る8月、キャリア4度目の個展『DISCOVERY』が開催された都内のギャラリーを訪ね、ご自身のこと、創作に対する思いを聞いた。

アーティスト・ヨコサカタツヤ|群馬県出身。コロナパンデミックにより変貌した世界の様相に着想を得て、キャンバス画にセル画を重ね合わせる独自の表現方法を確立するとともに、自由創作に重きを置く。2021年のグループ展を経て、2022年にキャリア初となる個展『おわり』を開催し、各界から注目を集める存在となった。2023年9月30日からは、台湾SOKA ART台北でも『DISCOVERY』の展示開催している

「かつての繁栄が朽ちた世界に興味を惹かれるし、表現し続けていきたい」

「DISCOVERY」 人類が何らかの理由で滅んでから数百年後の世界。残された資料や部品からタイムマシンを完成させ、かつての時空を目指す孤独な旅路。パートナーはベースとなるポルシェと、主人公にしか見えない1匹のゴーストのみ。プラモデルの箱のように見える多くの資料が意味することもわからず、各々が独自の解釈でカスタマイズした往年の名車たち。キャンバスにセル画を重ね合わせ、アニメのような奥行きを持たせた本展の作品群

——2019年、新型コロナウイルスを端緒とする世界的パンデミックにより、我々が生きる世界は大きく変わった。クラスターと呼ばれる集団感染、さらには各国の混乱やフェイクニュースが連日報じられ、外出禁止令や行動制限が敷かれる、まるでフィクションのような世界を初めて体験することとなった。

他方、ヨコサカさんが近年の作風を確立したのもコロナ禍のことだった。描き損じて放置したままになっていたキャンバスや、何らかの書類が入っていたクリアファイルなど、アトリエに転がった限られた資材を組み合わせ、変わり果てた世界とそこに生きる人々をテーマに、外出自粛が続く日々も創作活動に専念した。

「僕らが生きた時代には、絶対に終わらないと思われていたものや、なくならないと思われていたものが、終わりを迎える瞬間が何度かあったと思うんですね。『笑っていいとも』だったり、SMAPだったり、東日本大震災であったり。“終わり”というものを意識する機会が何度かあったと。

そんな中にあっても、先のコロナパンデミックはことさらに、この世の終わりや世界終末の危機を、誰もが初めて実感した出来事だったと思うのです。外出禁止令が敷かれ家族や友人にも会えず、スーパーや画材屋などにも自由に行けない日々が続く中、『以前のような生活が本当にまた戻って来るのだろうか?』そんなことばかりを毎日考えていました。

今にして思えば、このパンデミックによってアートシーンも大きく変貌する、そう自分に言い聞かせていたきらいもありますが(笑)、それまでとは違った感覚で創作と向き合うようになったのは紛れもない事実です。僕の人生において、ひとつの、かなり重要なターニングポイントだったと思いますね」

——行動が制限された日々が続く中、ヨコサカさんは自身の原体験に立ち返った。幼い頃から慣れ親しみ、描くこと、そしてアートの世界に踏み入るきっかけともなった漫画やアニメーション。彼の創作活動は、そんな日本を代表するサブカルチャーの模写やサンプリングから始まったと振り返る。

「子供の頃から絵を描くのが好きでしたし、小学生時分は『ドラゴンボール』のちょうど黄金期だったので悟空やピッコロの模写ばかりしていました。クラスにひとりはいるちょっと絵の上手い子、今にして思えばそんな存在だったかなと。

いとこの影響もあって中学時代に『AKIRA』と出会い、それからは建物ばかり描いていましたね(笑)。一時は漫画家になることも考えたのですが、なぜか同じキャラクターを書き続けることができないんです。表情やバランスが崩れてしまったりして。もちろん、高校時代にも絵は描き続けていましたが、どこか周りに馴染めず、表現の場を求め上京を決意しました。アルバイトをしながらイラストレーションの専門学校に通い、学校を出た後もイラストを続けながらフリーターのような生活を送る中、あのパンデミックが起こったと。

乗り捨てられたポルシェを改造し、人類滅亡以前の世界を目指す一人乗りタイムマシン。退廃美と淡い希望が交差する世界を見事に表現したインスタレーション

それまで自分はイラストレーターの肩書きで活動していましたが、このタイミングに必ず何かを描かないといけない、しかも日本を象徴するものを、という初めての感覚を覚えました。さらに僕はゼロから何かを生み出したり、完全オリジナルをかたちにできるタイプではないと、それまでの活動を通して痛感していたこともあり、アーティストとしてリスタートしたのです。

今日の日本の象徴といえば、僕の原体験でもあるアニメや漫画。特に日本のそれらは終末後の世界を描いたものが少なくない。人間が居なくなった世界で、かつての人々が残した英知や技術をかき集め、僕は何ができるだろうか? 僕の近年の作風には、そんなコンセプトがあるのです」

「過去の英知や技術をかき集め、人々は何ができるだろうか?」

——フィンランドの核廃棄物処理場の現状を描いたドキュメンタリー映画『10万年後の安全』では、10万年後にこの世界で生きる人々に、ここは禁足地であり、いかなるときも近寄ってはならないと伝える“術”を世界中の識者が語り合う。

素人からすれば、ことさら神妙に議論する彼らに違和感を覚えるが、人類史上10万年以上継続使用された言語はひとつもなく、さらにピクトグラムは好奇心を煽ってしまい逆効果が生じるという。

我々人類は、入っちゃダメだと言われると、必ず入ってしまう愚かな生き物であり、過去の英知と引き換えにわざわざ不必要な“何か”を獲得してしまうほどに強欲な生き物なのだ。

「今回の個展『DISCOVERY』で描いた作品は、過去の英知を集めながら時空を超えようと模索する主人公たちがテーマとなっています。プラモデルの箱に見立てたかつての仕様書が意味することも、彼らにはさっぱりわからないのです。

終末後に生まれた彼らは、戦車の砲台を見たこともなければ、飛行機を見たことさえない。残されたヒントだけを手がかりに自身なりの解釈で資材を組み合わせた結果、翼が車載され、砲台が物干し竿になる。

掘り起こしてはならないとされていた過去の遺物を掘り起こして、救世主や神のように崇める、そんな日本のアニメーションでも頻用されるプロットも、僕なりになぞったつもりです」

昭和のジャパニメーションやサイエンスフィクションを象徴する、ことさら大袈裟でレトロフューチャーなガジェット群。かつて防犯などのため設置された定点カメラを傍受すると、車載したモニターに映る仕組みなどがある

——諸説あるものの日本で最初にデジタル技術が導入されたテレビアニメーションは、1997年にフジテレビ系列で放送された平成版『ゲゲゲの鬼太郎』だったと言われている。以来、往年のセルアニメはその非効率さや環境への負荷を理由に徐々に姿を消していった。

90年代末には市場の最大手だったフジフィルム、続いてコダックやアグファといった老舗メーカーも21世紀を迎える頃には、セルの生産を終了した。

「記憶が確かなら、『サザエさん』が日本で最後のセルアニメだったはずです。といっても、2010年代にはすでにデジタルへと移行しています。コンピュータで色付けされ、データ処理されたアニメーションが主流となった今日、アニメーションの現場にセル画というものはもう存在しないのです。

当然、アセテートフィルム(セル)を手に入れることもできなくなり、専用の絵の具もなくなりつつあります。初の個展となった『おわり』以降、続けているキャンバス画とセル画の組み合わせも、先に触れたプロット同様、ロストテクノロジーを僕なりに表現したつもりです」

画像ではわかりづらいものの、スニーカーボックスや雑誌、ステッカーといったプロップも全てハンドペイントで仕上げている。架空のチーム名はヨコサカさん自身がペーパードライバーであることから命名したとか

——キャリア4度目となる個展『DISCOVERY』の資料には、「スペースシャトルや、大航海時代の船、なにか新しい世界に探検するときの船の名前は大抵これだと私は勝手に(だけでなくおそらく多くの人が)思っています」とある。さらに「共感性に頭を巡らせること、その巡らせ方の軌跡に、新しさと快感を見出せたら良いなと思います」と。

「DISCOVERY=新たな船出のように、アニメ文化においても『文脈』として受け継がれてきたものがいくつもあると考えています。そんな、アニメあるあるや、オタクの共通言語が、じつは日本のアートの文脈なのだと、自分を騙しながら制作した感もあるのです(笑)。僕の作品に触れた方に、そんな『フェイクの記憶』を植え付けることができれば、作品として成功したと僕は考えますし、そうあって欲しいと願っています」

——宮崎駿監督作品『千と千尋の神隠し』には、「映画公開時のエンディングの末尾に新たなエピローグが追加されたテレビ放送版がある」という幻のエンディング説を唱える人が後を経たない。

しかしながら、じつはどれも実しやかな都市伝説であり、そんなアザーバージョンは一切存在していない。このように、事実とは異なる記憶を不特定多数の人が共有している現象を、オタクの間ではいつしか「マンデラ効果」と呼ぶようになった。ヨコサカさんの言う「フェイクの記憶」も、じつはしっかりと「オタクの共通言語」をなぞっているワケだ

「オタクと呼ばれる人々は、僕が思ってもいなかった裏の設定や背景にまで、悪く言うなら“勝手に”想像を膨らませてくれる、つまりは深読みしてくれます。目に見えない部分をイマジネーションで補完しながら、想定外のストーリーやディテールへと繋げてくれることも少なくありません。

そういった人たちからいただいたフィードバックを後付けすることもありますし(笑)、新たな発見やモチベーションを見出している部分ももちろんあります。そういった思考や想像の共有こそが創作の最たる魅力であり、醍醐味でもあると今は考えていますね」

配信限定シングルとして2022年にリリースされた「異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)」のアートワークを担当。ヨコサカさんの初個展『おわり』の作風をベースにタイトルにちなんであらゆる、“おばけ”をアーティスト写真にコラージュした

現作風を決定づけたコロナ禍の作品たち

Home(2020)
アルデバロン(2022)

描き損じて放置したままになっていたキャンバス、何らかの書類が入っていたクリアファイルなど身近なものを使い、人類が滅んだ後の風景を描き上げた。キャンバスにセル画を重ね合わせる技法も同時期に着想を得たという。

(出典/「2nd 2023年11月号 Vol.199」

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