自分の役割を理解し、全うする
べ瓶 今日はありがとう。どうやった?
ミウラ 面白かったよ。途中でお客さんの声が思いっきり入ったよね(笑)。
べ瓶 そうやねん。俺の言おうと思ってたセリフを先言われたからな(笑)。そのまま続けようとも思ったけど「何で先言うねん!」ってイジった方がいいかと思って。
ミウラ 本当に受けてたよね。やっぱり不測の事態が起きた時にどうするかを観られるのも生の醍醐味だよね。
べ瓶 そうね。今日は「読書の時間(高校生の息子が学校の読書の時間のために家から持っていった本が、実は父親が隠していたポルノ小説だったという新作落語)」をやったんやけど、やっぱり順番も大事で。今日はトップバッターだったから軽めのネタをと思ってね。
ミウラ 確かに順番は大切だよね。噺家の中でも笑い噺が得意な人もいれば、人情噺を得意としてる人もいて、聴く側としても順番とか演目のチョイスは結構気になるところかも。
べ瓶 俺がかっこいいなと思うのはやっぱり流れを汲んだ噺をできる人。今日は3人のイベントだったけど、寄席なんかになると15人くらいが出演する。そこで全員が「俺が笑かしたる」って思って笑い噺ばかりやってたらお客さんも疲れてまう。そんな時に流れを見て人情噺を入れたりする噺家がかっこいいやんか。これこそ「粋」を感じるな。
ミウラ なるほどなぁ。そこまで考えてやっているのか。
べ瓶 そういうことを考えてる人とは一緒にイベントやりたいと思うし、信頼もできる。基本的にひとりで高座に上がるわけやから個人競技ではあるけど、実は落語って団体芸なのよ。トリにバトンを繋ぐために一人ひとりが自分の役割に徹する。それが理想やな。
ミウラ なるほどなぁ。
べ瓶 俺らはお客さんがいないと何もできへんからね。
ミウラ 確かに落語は聴く側の器量も大切だと思う。笑えたり、楽しいと思えるのは聴き手としても物語をイメージできているからで。ただ聴いているだけだと古典落語なんかは何を言ってるか最初はわからない。でもある程度聴いて自分のイメージと噺家の作り出す世界が合致した時に最高に面白いと思える。
べ瓶 ほんまにそうやで。そういう意味では噺の導入は本当に大事。枕と言われているけど、本題に入る前に何を話すか。今日やったら本編はお父さんとお母さんのちょっとした喧嘩から。最初のセリフが「おい!」から始まる。
トップバッターでいきなりそんな入りをしたらお客さんもびっくりするやんか。だから大阪の夫婦はこんなんで、嫁の方が力が強いっていう話をしてから入った。枕でどんな話をしてから本編に入るのかに注目するのはおもろいかも。
ミウラ そうだね。そういうところを含めてやっぱり落語は一度は聴きに行った方がいいと思う。日本人として、日本の伝統芸能をちゃんと楽しめるということ自体がそもそも素晴らしいことだと思うし、ある意味入り口はなんでもよくて。寄席に行くことがオシャレだと思うから行ってもいいし、それこそ鶴瓶さんのようなテレビに出ているような人を観てみたいから行く、でもいいしね。
べ瓶 そうそう。落語とファッションはそういう意味では似てる気がするなー。何となくふらっとお店に入って、そのブランドが好きになってずっとそこで服を買う人もいれば、パッと目に入った隣のお店に行ってみてそっちが好きになったり。
噺家もいっぱいおるわけやから、落語会にふらっと来て「この人が好き!」っていうのを見つけてもいいし、いろんな噺家の落語を聴くのが好きっていう人もいてもいいと思うしね。
ミウラ 動機は何だっていいからね! 改めて落語のどういうところに魅力を感じる?
べ瓶 やっぱり登場人物に悪い人が出てこないところかな。アホな人はいっぱい出てくるし、悪いことをする人もいるけどどこか可愛げがあったり、最後は救われたり。ある意味聴く人にとっても救われる芸になってきてるんじゃないかと思うよね、落語は。ギスギスした世の中で、心のオアシスみたいなものになっていけばいいなと思うね。
ミウラ 俺も職業柄、人に会うことが多いけど、人と話すことで得られるものとは別の感覚があって。噺家が作る世界に没入できて、痛快な気持ちになったり、どうしようもない登場人物が最後は救われて安堵したりとか、実生活とはまた違った豊かな時間を過ごせている気がするんだよね。
べ瓶 噺家もそうだし、もっと言えば人間自体がそうなんやけど、一人では実は何もできない。そこに「粋」を感じるね。助け合いというか。
ミウラ どの世界も周りをよく見て気遣いができるかどうかが大切ということだね。
落語をもっと楽しむための注目ポイント。
1.噺家と客との掛け合い
噺家が歌を歌えば客は手拍子で応じ、噺家も客をいじったり。この掛け合いが続くと徐々に会場が一体となり、大きな笑いの渦に包まれる。生だからこそ味わえる極上の瞬間だ。
2.本題に入る前の小噺=枕
噺家はひとりで高座に上がり、客席と相対する。いかに本題に入るまでに客の心をつかむかが大切だ。噺家のプライベートが垣間見えることもある枕も、落語の醍醐味だといえる。
3.会場の雰囲気を汲み取った噺家の演目のチョイス
高座に上がる順番やその日の客層、前の噺家の演目の内容など考えるべき要素はたくさんある。そのなかでどの演目を選ぶのかに注目することで、その噺家の「粋」が見えてくる。
【豆知識】噺家は話術だけじゃない! 小道具を使った表現に注目せよ!
扇子
色柄:主に無地の白
使い方:畳んだ状態では箸、筆、煙草、刀など。広げて盃に見立てることも
手ぬぐい
色柄:色も柄も基本的に自由。その日の着物に合わせて変える噺家もいる
使い方:本、財布、手紙など
噺家が高座に持ち込むことを許されている小道具が扇子と手ぬぐい。これらが噺に奥行きを与える。扇子より明らかに長さのある刀を表現する際には、目線や体の動きで客の想像力を掻き立て、手ぬぐいを本に見立てる際も持ち方で本の厚みを表現する。
【豆知識】ミウラシュランが選ぶ! おすすめの噺3選
1.うなぎの嗅ぎ賃
最初は、短めで聴きやすいうなぎの嗅ぎ賃がおすすめです。うなぎの香ばしい匂いをおかずに白飯を頬張るケチな住人に、うなぎ屋がお代を貰いに行く噺で、サゲ(噺のオチ)がとにかくお洒落。これは、小噺として呑みの席でさくっと話せたらモテます(笑)。
2.猫の皿
旅人が、旅先で立ち寄った茶屋で高価な皿を手に入れるために主人と交渉する猫の皿も聴きやすくておすすめ。何も知らないと思わせながら旅人を巧みにいなす茶屋の主人の姿からは、「今でもこんな古着屋の店主いそうだなー」と思わされます(笑)。
3.芝浜
芝浜は、酒癖の悪い旦那と奥様の夫婦の愛情を描いた人情噺。数多ある落語の中でも必ず通るトラディショナルな演目で、僕も大好きです!
Photo/Ryota Yukitake,Yoshika Amino Text/Kihiro Minami
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