ヤンキーノリに馴染めずビートルズをお手本に。
不気味くん やっぱり最初は見た目のカッコよさから入りますよね。
矢島さん そうなんだ。でもまぁ小4の頃は気になる程度だった。で、小5あたりになるとみんな妙に色気づくじゃない。それまでただの子どもだったのが急にカッコつけだすみたいな。僕のまわりもそうだったんだけど、その時代ってヤンキー的なノリっていうのがまだちょっと残っていて。
不気味くん 矢島さん、ヤンキー直撃世代ではないですよね。
矢島さん 僕らよりは上の世代だけど残り香はあった。当時、環七沿いに住んでいたんだけど、夜中に暴走族が通ってうるさかったし、通学路の途中の壁にスプレーで「SPECTER」って描いてあったりもしたね。それで僕のまわりのやつも急にリーゼントみたいにしたりとかオールバックにしたりとかしだして。大人っぽくカッコつけるというのが不良っぽくなっていっちゃうんだよ。ちょっと前まで一緒に駄菓子屋行ったりしてたくせに(笑)。
僕はそうはなりたくなかったし喧嘩もしたくなかったからそういう流れには乗れなくて。そんなときに「ビートルズのあの感じだったらいける!」と気づいたんだ。昔はビートルズって不良だとかいわれていたけど、80年代を生きている小5にとっては全然そんな印象はなくて、むしろ髪型もおとなしいしスーツ着ているしで優等生っぽく思えた。それで「これだったらいける」と、この方向でカッコつけることにしたんだよね。
不気味くん 不思議な解釈で影響を受けたんですね(笑)! この時点では音楽にはハマっていないわけですもんね。
矢島さん そうだね。それまでの自分の「カッコいい」って概念が仮面ライダーとかだったんだけど、そこにはいけないじゃない。かといってほかのやつみたいにカッコつけて不良っぽくもしたくない。そんなのがないまぜになって、同じようになれるというわけではないけど、ビートルズへの憧れが生まれたんだよ。
クラスメイトのタカギくんが僕と一緒に古い漫画にハマってたんだよね。彼とは一緒に漫画を描いたりもしてたんだけど、あるときふたりともビートルズ熱がグワーって高まったの。で、ひとりよりもふたりの方がよりヒートアップして盛り上がるじゃない。それで気がついたらお互い漫画を超えてビートルズが一番好きになってた。小5、小6くらいだね。そこから熱中してビートルズのすべてを知りたいと思うようになった。
FM雑誌をチェックして知らない曲を録音する日々。
不気味くん 矢島さんが「すべてを知りたい」と思っていたその頃の情報源って何だったんですか?
矢島さん 当然ながらインターネットもないしお金もないし、というなかで図書館は重要だったね。ビートルズ関連の本はそれなりにあったし。
不気味くん 図書館でCDなんかも借りたんですか?
矢島さん いや、CDが出回りはじめた頃だったからね。さっきも話したようにビートルズのアルバムが初CD化された時代だから。それでビートルズがCD化されるというんでレコード屋でビートルズ・フェアみたいなのをやっていて、アルバムのタイトルや収録曲、それからメンバーのバイオグラフィーとかも掲載されていた無料の小冊子を店頭で配布してたんだよね。それをボロボロになるまで読んでいた。まだ家にあると思うよ。東芝EMIが出してたやつ。
あとは結成25周年、初CD化ということで音楽雑誌の表紙になったり、特集が組まれたりという状況があって、そのなかのひとつだったのが『FMレコパル』というFM雑誌。その頃FM雑誌って人気があって4誌くらいあったと思うんだけど、あるときお父さんがビートルズ特集の『FMレコパル』を買ってきてくれたんだよね。で、「FM雑誌の番組表にはオンエアされる曲目が書いてあるから、それをチェックしてテープに録音したらいいんじゃないの」といわれて、「そうか、そうすればいいんだ!」と気づいたの。
4誌のFM雑誌のうち『週刊FM』と『FMステーション』はよくビートルズを取り上げてて、毎号読み比べてビートルズ比重が高い方を買ってたな。付録のカセット・インデックスがビートルズの写真だったりするとそれ目当てで買ったりもしたし。だからFM雑誌とそれをもとに調べたFMのプログラムが大きな情報源だったね。
不気味くん FM雑誌というのは全く僕らの世代には馴染みがないですね……。
矢島さん FM雑誌をマーカーでチェックして「今日は聴いたことがない曲が流れるから絶対録音しなきゃ!」という感じで片っ端から録っていたよ。タカギくんなんか学校にまでラジカセを持ってきてて(笑)。
不気味くん マジですか(笑)。
矢島さん 「だって学校にいる時間にオンエアされるから録音するにはラジカセ持ってくるしかないんだよ」とかいって。タイマー録音機能がなかったからリアルタイムで録音ボタン押すしかなかったんだよね。FM雑誌といえば『週刊FM』でビートルズ大特集をやるというんで、読者アンケートの企画があったのね。「あなたにとってビートルズとは?」とか「好きなメンバーは?」とか。僕、それ書いて送ったんだ。
それでその大特集を読んでいたら、読者アンケートの回答の最年少が11歳だったとあって「これ絶対俺だ」と。その後、読み進めていくと「あなたにとってビートルズとは?」の回答で自分が書いたのが採用されてたんだよね。
不気味くん うわーすごい! 何て書いたんですか?
矢島さん 「神です」って(笑)。回答するときにちょっと考えて「これはいい過ぎかな、恥ずかしいかな……」とも思ったんだけど「いや、これしかない」と決断して書いて送ったら載っちゃった。「神です(矢島和義くん 11歳)」って。
不気味くん アツいですね。
矢島さん 思い返してみると、小学生でビートルズにハマってたやつなんて自分とタカギくんしかいなかったな。タカギくんがいたから僕も熱中できたのかもしれないけど。ビートルズって自分の親の世代の音楽だから、僕がビートルズ、ビートルズいってても親は「ああ、ビートルズね」と理解してくれていたし。この時代の日本はバンド・ブームでもあったのだけど、ビートルズってその頃の日本のバンドとは全然違うものだったから、そんなバンドを好きな自分は孤立しているんじゃないかと疎外感を感じたりもしたよ。誰に言われたわけでもないんだけど。
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