その革靴はどこの国製? 英米仏の木型の特徴を知れば理想の一足に出会えるはず。

革靴でも英国・アメリカ・フランスで主な特徴は異なるが、木型を見てもその違いは明確だ。とは言えその違いは素人目には計り知れない。そこで100を超えるブランドの木型を手掛け、“日本一、木型に詳しい男”と言っても過言ではない木型職人、松田哲弥さんに木型の奥深い世界を教わった。木型を理解すればより自分好みの一足が見つかるはず!

取材したのは・・・「ハロゲイト」松田哲弥さん

2020年に生まれた革靴ブランド「ハロゲイト」のモデリスト。独立して18年目、これまでにおよそ100を超えるブランドの木型を手掛ける。

1.【フランス】最低限の実用性と最大限の美しさが理想のデザインタイプ。

まるで彼らの国民性を表すかのように、我が道をゆくフランスの木型はかなりデザイン面重視。ローリングは弱く直線的で、バランスが取れており、木型単体で見ても美しい。

「革靴のデザインがうまく乗っかる木型」とは松田さんの表現で、革靴としての完成形を思い描いてから木型を製作しているかような作り方らしい。なので実用性はあくまで最低限に留めている(決して足入れをおろそかにしているわけではないので注意)

2.【アメリカ】足にもっとも近い形の実現を目指す実用タイプ。

アメリカは、木型から見てもとにかく合理的だ。松田さんいわく、「足の構造になるべく近いつくりにしたうえで、残りの数%遊びの部分でデザインをしている」とのこと。ローリングが強いので歪みも多く、木型だけ見ればあまり美しくないという言い方もできる。

トゥスプリング(=どれだけトゥが反っているか。正面からの木型の写真参照)もフランスの木型と比べれば一目瞭然。実用的な作りにしているからこその特徴だ。

3.【イギリス】実用とデザインのいい塩梅を狙うバランスタイプ。

アメリカの木型と英国の木型はどちらも、「より足に寄り添った構造」を重視しているという意味で似ているが、英国のほうがアメリカよりもやや直線的である。言うなれば「あくまで実用性が最優先だが、美しさにもこだわりたい」というバランス型。

上の木型を見てみても、アメリカのトゥのほうが、やや左側を向いているのが分かるだろう。専門的な話をすれば、英国の木型は親指と小指の両側からトゥを絞っているイメージだ。

知れば知るほど木型はおもしろい。

木型の世界のおもしろさのひとつに、各国によってその特徴が違うことが挙げられる。これまでたくさんの木型を見てきた松田さんだからこそ発見できたことだが、こうやって教わってみればその違いが僕たちにもすこし分かる。

たとえば、アメリカは実用性重視の木型。フランスは実用性は最低限にいかにデザインとして美しいかを重視した木型、など。しかもその性質が、どこか靴以外のアパレルファッションやそれぞれの国民性などと似通っているのも興味深い点だ。

ただ、「どれが素晴らしい木型なのか」という答えがあるわけではない。その答えは用途や人によって異なるからだ。しかし、木型の世界においてターニングポイントとなったような傑作は存在する。今日でも多くの木型がそれらに影響を受けているし、松田さんだって同様。彼にそんな傑作木型を紹介してもらった。

松田さんが衝撃を受けた木型。

いまの松田さんの木型づくりにも多分に活かされているこれまでの木型との出会い。なかでも「この手があったか!」と彼を唸らせた傑作木型を紹介しよう。

【モディファイドラスト】既製品のわりにクセのあるデザインと、驚くほどの足入れ感。

「初めて見たときの感想は、『なんだこの振りの角度は』 ()。ただ、足を入れて納得。踏まずの付きが非常に良く、しかも既製品として許される木型のつくりのギリギリのラインを攻めているな、と思いました。さらにつま先を長くすることによって、捨て寸(つま先と靴の間にできる空間。遊びがある分歩きやすい)と、ドレッシーなデザインの両方を獲得。天晴なアイデアですね」

マンソンラストデザインそっちのけで作られた実用全振り木型の代表格。

1940年代ごろ、マンソン博士によって開発されたとされる木型。[M-42 サービスシューズ]に用いられた木型として有名だ。「単体で見ればあまり美しいとは思えませんが、構造としてはほぼ足の形を再現できています。デザインは気にせず、歩きやすさだけを考えて作られていますが、機能美的な意味では100点でしょう。戦争という命がけのシチュエーションが生んだ名作です」

50sの英国製ラスト羽根が入る位置の「えぐり」はほかに類を見ない大迫力。

10年前に出会ったという、60年代以前に作られた詳細不明の英国製ラスト。「とにかくこの木型の特徴は「えぐり」。革靴をイメージしながら斜めから見ると分かりますが、羽根の部分が異様にえぐれています。『こういう表現があるのか』と衝撃を受け、以来この木型に最も影響を受けていますね。機能性をちゃんと備えたうえで、単体でここまで凄みが感じられる木型は稀有です」

【問い合わせ】
ハロゲイト
https://harrogate.jp/

(出典/「2nd 202211月号 Vol.188」)

この記事を書いた人
パピー高野
この記事を書いた人

パピー高野

断然革靴派

長崎県出身、シティーボーイに憧れ上京。編集部に入ってから服好き精神に火がつき、たまの散財が生きがいに。いろんなスタイルに挑戦したい雑食タイプで、ヨーロッパからアメリカものまで幅広く好む。家の近所にある大盛カレーショップの名を、あだ名として拝借。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

記念すべき第1弾の革をモヒカン小川がプロデュース! AJLP活動報告。

  • 2026.09.01

ALL JAPAN LEATHER PRODUCT。略して「AJLP」なるビッグプロジェクトの活動報告。国産の原皮=地生(じなま)にこだわり、鞣しから縫製まですべてを日本で行う“オールジャパン”に価値を見出し、そのクオリティや魅力を伝えるべく動き出した革のプロたちのリアルドキュメンタリーである。同プ...

上海発・気鋭のアメカジブランド「REAL SIMONS」を知っているか?

  • 2026.08.30

近年アメカジが流行し、大きな発展を遂げている中国。同国で1984年に創業したレザーウエア工場の生産背景を元に2017年に始動したのが「リアル シモンズ」だ。ヴィンテージピースを現代的に再構築した高品質なプロダクトを手がける気鋭のブランドである。 元々は皆さんと同じ『Lightning』の読者だったん...

70を超えるレザーブランドが集う! 「Leathers Day TOKYO 2026」が五反田TOCビルで9月26・27日開催!

  • 2026.08.30

雑誌『Lightning』と兄弟誌『2nd』『CLUTCH Magazine』の3誌による、レザー好きのための大規模イベント。4度目を迎える今年は、初の東京会場での開催が決定! 普段なかなか手に取って実物を見ることができないブランドや、このイベントでしか手に入らないアイテムが揃う特別な2日間。さらに...

ガレージ、インテリア、リフォームまで! 趣味人のための、物件案内。

  • 2020.01.20

好きなものと暮らす、理想の城を手に入れよう。 家は、ただ暮らすためだけの場所じゃない。 どこに住むか、どんな空間にするか、そこで何を楽しむか。 ガレージハウスやアメリカンハウス、趣味部屋、インテリア、リノベーションまで、 「Lightning」ならではの視点で趣味人の理想の住まいを紹介する。

#PR

Pick Up おすすめ記事

上海発・気鋭のアメカジブランド「REAL SIMONS」を知っているか?

  • 2026.08.30

近年アメカジが流行し、大きな発展を遂げている中国。同国で1984年に創業したレザーウエア工場の生産背景を元に2017年に始動したのが「リアル シモンズ」だ。ヴィンテージピースを現代的に再構築した高品質なプロダクトを手がける気鋭のブランドである。 元々は皆さんと同じ『Lightning』の読者だったん...

記念すべき第1弾の革をモヒカン小川がプロデュース! AJLP活動報告。

  • 2026.09.01

ALL JAPAN LEATHER PRODUCT。略して「AJLP」なるビッグプロジェクトの活動報告。国産の原皮=地生(じなま)にこだわり、鞣しから縫製まですべてを日本で行う“オールジャパン”に価値を見出し、そのクオリティや魅力を伝えるべく動き出した革のプロたちのリアルドキュメンタリーである。同プ...

ガレージ、インテリア、リフォームまで! 趣味人のための、物件案内。

  • 2020.01.20

好きなものと暮らす、理想の城を手に入れよう。 家は、ただ暮らすためだけの場所じゃない。 どこに住むか、どんな空間にするか、そこで何を楽しむか。 ガレージハウスやアメリカンハウス、趣味部屋、インテリア、リノベーションまで、 「Lightning」ならではの視点で趣味人の理想の住まいを紹介する。

#PR

70を超えるレザーブランドが集う! 「Leathers Day TOKYO 2026」が五反田TOCビルで9月26・27日開催!

  • 2026.08.30

雑誌『Lightning』と兄弟誌『2nd』『CLUTCH Magazine』の3誌による、レザー好きのための大規模イベント。4度目を迎える今年は、初の東京会場での開催が決定! 普段なかなか手に取って実物を見ることができないブランドや、このイベントでしか手に入らないアイテムが揃う特別な2日間。さらに...

【連載】ビートルズのことを考えない日は一日もなかった

  • 2024.02.05

80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。