【ファッション用語辞典】セーターの種類とセーターにまつわる基礎知識。

  • 2021.10.26  2020.10.07

二ットとは糸を編んでつくられたもの全般を指すためカタチや素材などバリエーションは多岐に渡る。サマーニットなど暖かい季節に適したものも出回ってはいるが、ニットといえば冬の衣服である。その防寒性の高さから古くから漁師の作業着として着られ、その網目の独自性により遭難者の身元もわかる……という逸話まである。

まずはそんな逸話まで存在するニットの3大定番を紹介しよう。

【種類】英国フィッシャーマンセーターの原点はガンジー島。アランセーター、フェアアイルセーター、ガンジーセーターの3種類に分けられる。

ニットの起源は諸説あるが、英国を起源とするニットの祖として知られるのが「フィッシャーマンセーター」。名前の通り漁師が作業着としたニットである。

ブリテン島およびアイルランド島周辺をその起源とするフィッシャーマンセーターは大きく分けて3種。アランセーター、フェアアイルセーター、そしてチャネル諸島・ガンジー島のガンジーセーター。その基礎はガンジーセーターとされている。位置関係は上の通りだ。それぞれのニットの特徴を追ってみよう。

【種類1】ガンジーセーター

英仏の中間に位置するチャネル諸島。そのひとつ、ガンジー島がフィッシャーマンセーターの原点といわれている。17世紀後半、広域に漁を行うスコットランドの漁師によって、様々な島の港町にガンジーセーターは広まっていった。

当時の漁師は、男のみが港を渡り歩くのではなく、家族ぐるみで移動を繰り返していた。冷凍設備のない時代のため、食料を塩漬けにするのは女性の役目であり、移動のたびに多様な技術を習得した彼女たちがガンジーセーターを生んだ。

ガンジーセーターの柄は生活や海に馴染みのあるものが多い。右の粗いボーダーは船のはしご。左は海のさざなみを表す

タイトなずん胴シルエット、ハイネック、裾にスリットが入る場合もあり、肩や胸にのみシンプルな編み柄が入る。柄は主に裏編みゆえに、派手な装飾はなく、色はほとんどが紺色。18~19世紀にかけて、ガンジーセーターは英国各地の漁村で盛んに編まれ、1857年にはネルソン提督が英海軍用の衣料として採用した記録も残っている。産業革命後は漁業の衰退と機械編みの発達により、衰退の傾向となった。

【種類2】アランセーター

太く撚られた未脱脂のピュアウールを、25000回以上編み込み、 肉厚で保温性に優れながら天然の撥水性と防風性を備える

アランセーターの網目模様は5000年前の古代ケルト遺跡に同様の模様が見られ、8世紀に描かれた『ケルズの書』にアランセーターを着た聖人が見られるなど、何百年も前から存在するとされていた。しかし、現在の見解ではアラン島出身でボストンに移住した、マーガレット・ディレインによって持ち込まれ1908年に編まれたのが最初とされている。

それまではガンジーセーターの亜流程度だったアランセーターが、マーガレット女史によって柄作りが持ち込まれ、アラン島の女性が創作して広まった。海での遭難者も着ているセーターで身元が判別できるという伝説があり、それはあながち間違いではない。なぜなら編み手は自分が編んだセーターを絶対に間違えないからだ。

【種類3】フェアアイルセーター

スコットランドの北方に群れるシェットランド諸島。最南端のフェア島こそが、フェアアイルセーター発祥の地であり、旧くから伝わる多色編みの技術はバイキングによりもたらされたという。8世紀以降、この一帯はバイキングの庭であり、15世紀になってスコットランドが譲り受けるまでは、ノルウェーの支配下にあった。そのため、海を隔てたフィンランドのセーターにシェットランド諸島独特の野草を使った染色を転用、地場産業として確立したといわれている。

柔らかい毛質が特徴的なシェットランドウールの農場。生産頭数も限られているので、シェットランド島製のものは貴重である

衰退し始めた20世紀初頭に島は経済危機に陥るものの、服飾史にその名を残したプリンス・オブ・ウェールズこと、ウィンザー公の着用によって生き返る。ツイードのチェックのハンチング、グレンプレードのニッカーボッカー、アーガイルの靴下、そこに島民からプレゼントされたフェアアイルセーターを合わせるという、ルール無視の着こなしで名門ゴルフコースに現れ世界中のニュースとなった。

現地工場の織り機では、様々な色に染色されたシェットランドウールが編まれていく。多色編み独特の鮮やかな光景は見ものだ

羊毛からどうやって糸になる?

羊毛は天然素材のため、長さが不揃いであったり、ゴミなどが付着している。本来の真っ白な羊毛を得るための工程をここでは順に追っていこう。

1.原毛

写真は取れたばかりの原毛。ここから羊毛を選別し、太さ長さの異常なものなどは取り除かれる。熟練した人の目で行う。

2.洗い後

原毛を石鹸とソーダで洗う。ここで脂や土砂を取り除く。これを乱さずに乾燥させる。完全にゴミは取り除かれない。

3.スライバー

洗い上がった羊毛を機械にかけ、繊維1本1本にほぐし、束ねて連続したロープ状のスライバーと呼ばれるものにする。

4.トップ

スライバーを数本合わせ、櫛で削り引き伸ばす。繰り返したあと数多くの櫛を持った機械にかけ、完全に異物を除去する。

5.ロービング

トップの状態ではスライバーは太い。櫛で梳(す)き、引き伸ばすことを繰り返すことで箸の太さほどにする。

6.単糸

精紡機(糸を紡ぐ機械)で箸の太さほどのスライバーを糸の太さまで引き伸ばし、撚りをかけ紡ぐ。この糸を単糸と呼ぶ。

7.双糸

通常、織物に使用する場合の多くは単糸を2本組み合わせ、もう1度逆の方向に撚をかけ双糸にしてから使う場合が多い。

8.製品

数多くの段階を経て、完成した糸を使い、ウールの織物やニット製品がつくられる。

ウールマークって何を表している?

ウールマークには様々な意味が含まれていることをご存知だろうか。ここではその内容について紹介する。品質が確かなウール製品を手にしよう。

ウールマークの意味

ウールマークはAWI(オーストラリアン・ウール・イノベーション)が定める「品質を証明するシンボルマーク」。ウールの商品はたくさん見かけるが、世界共通の厳しい品質基準に合格した高級製品にのみこのマークをつけることが可能。その基準はあくまで消費者保護のために設けられている。

品質基準

1.羊から刈り取った新しい羊毛(PURE NEWWOOL)を使った純毛製品であること。(再生羊毛も認めている家庭用品品質表示では97%以上で毛100%と表示可能。ウールマークが新しい羊毛を使っていることを表す。)

2.飛び込みなどによる他繊維の混入率は0.3%以内であること。

3.装飾用としての他繊維の混用率は5%以内であること。

4.規定の強度、染色堅牢度にかなっていること。

3つのマーク

近年はウール以外の繊維とのブレンド素材の開発が進み、他繊維の特徴を併せ持つ機能素材も生まれ、ウールの可能性が広がっている。

ウールマーク(新毛100%)

ウールマークブレンド(新毛50%以上)

ウールブレンド(新毛30 ~50%)

ウールは織物としても活躍! ウールの織物の種類。

編み上げることで温かいウールは、織ることで密度が高く丈夫な仕上がりに。身近にたくさんある、ウールの織物の種類を紹介!

ウールギャバジン

ウール製の緻密な綾織物。緯糸に対して45~60度の斜文線を表すため、経糸の密度が高い。耐久性、保温性に優れる。

カルゼ

名前は英国サフォーク州のkersey から。畝のはっきりとした厚手の毛織物。耐久性の必要な軍服に使用されることが多い。

シャギー

表面が粗い毛で覆われた毛織物。毛足を長くするためにループ糸を織り込み、これを起毛でかき出し、長い毛羽とすることも。

フェルト

羊毛などを熱で圧縮加工したもの。ファッションとしては、帽子などに用いられることが多い幅広い分野で使用される。

フラノ

梳毛糸を使い、よりソフトに仕上げた梳毛のフランネル。柄は霜降りから縞ものまで多様に存在。綾目は見えないのも特徴。

編み生地と織り生地との違いとは?

織り生地の場合は糸を交互に組むことで布にしていくが、編み生地の場合は、糸を環状にして組み合わせていくことで布にする。例えばTシャツとカットソーの違いは、Tシャツはコットンクロス(コットンの織地)を縫い合わせるが、カットソーはニット(メリヤス編みなどの編地)を縫い合わせている点が異なる。

織地

糸を交互に組み合わせて作った生地。平織り、綾織りなど織り方によって生地の特性が変わる。また織りの密度を高くすることで丈夫な布を作ることが可能。またガーゼのように、織りの密度を甘くすることで、通気性や透湿性に優れた生地を作ることも可能である。

編地

ループ(環)やリンク(鎖状の輪)の連鎖によって作られた生地で、ゲージ数によって編地の厚みが変わる。大まかに分けると、横編みと縦編みがあり、多くのニット製品は横編みで作られる。縦編みは横編みに比べ、伸縮性が少ないので衣類にはあまり使用されない。

ゲージの違いとは?

編み針の密度を数えるための単位。通常は1インチ間の針の数をいう。ゲージ数が少ないほど目が粗く、逆に高いほどきめ細かいニットになる。ゲージ数が少ないニットをローゲージニット、高いニットをハイゲージニットと呼ぶ。

およそ5ゲージ以下の「ローゲージ」

編み目が大きくざっくりとしているため、旧くから存在する。フェアアイルニットや、フィッシャーマンセーターなど編み目がデザインされているモノが多い。

およそ10ゲージ以上の「ハイゲージ」

ファインゲージニットともいう。高密度で編まれているため肌触りがいい。高級ニットとして扱われるモノも多い。代表ブランドはジョン スメドレーなど。

様々な動物から採れるウール。どんな動物がいるか知ってる?

ウールとして一般的な羊毛以外にも、様々な動物の毛からもニットはつくられている。それぞれ異なった性質を持つ動物の一部をご紹介。

アルパカ


ラクダ類のラマ属の動物で南米ペルーの中部から南部、およびボリビアなどに分布。海抜3650m 以上の高地に生息している。アルパカの毛は、滑らかな手触りと絹のような光沢を持ち、繊度が揃っているのが特徴。生地として最も高級とされる「ベビー・アルパカ」は生まれて初めて刈り取った毛からつくられたもの。

アンゴラウサギ

ヨーロッパや中国を産地とするアンゴラウサギ。軽く柔らかい手触りが特徴。また羊毛の7倍の保湿性を持つともいわれている。アンゴラとは、トルコの首都であるアンカラの1930年以前の地名であり、アフリカ大陸にあるアンゴラ共和国のことではない。ちなみにアンゴラウサギはペットとしても人気が高い。

アンゴラ山羊

トルコや南北アメリカ、南アフリカなどに生息する山羊で、他の山羊種に比べて体格が小さい。アンゴラ山羊の毛を紡いた糸をアンゴラヤーンと呼ばれ、紡いだニットはモヘアと呼ばれる。シルクのような柔らかなタッチと光沢を持ち、かつ耐久性も高い。

ビキューナ

ラクダ類、ラマ属の一種で、南米西部のエクアドルからアルゼンチンへかけてのアンデス山脈の6000~7500mの高地に棲息している。ラマ属で最も小さい動物で、非常に臆病な動物であるため家畜化が困難。非常に緻密な毛を持ち、世界で最も高価な服地素材のひとつといわれる。

キャメル(ラクダ)

広義ではウール。ラクダの毛。アラビア、アフリカに生息する「こぶ」がひとつの単峰種と、中央アジアの砂漠地帯に生息する「こぶ」がふたつある双峰種の2種類があるが、前者は毛が太く短いのでほとんど使われない。抜け落ちた毛を拾い、剛毛を分離し、細い毛だけを使う。

カシミア山羊

インド北西部のカシミール地方に生息する山羊(カシミア山羊)の毛を使用したニットのこと。表毛の下に生える毛を集めて糸にするため、非常に手間がかかり高価である。カシミア山羊は現在、中国やモンゴル、イランなどでも飼育されている。

 

いかがでしたでしょうか? ニットを購入するときに、ウールマークをチェックしたり、デザインを比べてみたり、よりファッションが楽しくなること間違いなし。知識を深めて、買い物に出かけてみてはいかがでしょうか?

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