Apple Watchは『気付きのツール』
Apple Watchでは多くのヘルスケア情報が得られる。そして、それは安全なカタチでiPhoneに蓄積されていく。アップルはヘルスケア分野に積極的に乗り出しているが、同時に非常に慎重で、大量のデータを取得しているにもかかわらず、医学的裏付けのない解析の提供は行わないようにしているようだ。たとえば、睡眠のデータも計測可能だが、それをもって『良い睡眠かどうか?』をアプリで判断したりはしない。ただ粛々とデータ蓄積し、提示するのみだ。これは、診断するとしたら『医療』のレベルでやるべきだと考えているからだろう。
目々澤先生も、あくまでApple Watchは『気付きのツール』であるとおっしゃっている。
しかし、だからこそ、医師はそのデータをちゃんと受け止めて、その気付きを『きちんとした医療機器の診断』に繋いでいくべきだという。
講演では、Apple Watchで計測したさまざまな人の心電図の波形を見せて下さったが、症状によって違うし、心房細動の出ている人が、アブレーションの治療を受ける前と、後のApple Watchでの心電図のデータも見せて下さった。ちゃんと、Apple Watchが身体の変異をチェックすることのできるツールであるという。だが、そのデータで診断するのではなく、別途医療機器で診断するための『気付き』を与えてくれるツールだということだ。
セキュリティが要求される病院ではデジタルデータは受け取りにくい
その、Apple Watchのデータの医師への見せ方なのだが、目々澤先生はプリントアウトして持って行くことをお勧めすると言う。
もちろん、メールアドレスを公開してる先生や、目々澤先生のようにAirDropでの受け取りをOKとしている方もいらっしゃる。そのように、独自にセキュリティを担保し、病院のシステムとは別にデータを受け入れる体制を取っていらっしゃる医師は少ないとのこと。
多くの病院では、非常に大切な患者の個人情報を大量に預かっているので、セキュリティ管理が非常に厳しく、USBメモリなどでデータを受け取ることができないのだそうだ。
たしかに一理あって、USBメモリを受け取れないという話もわかる。もし、そのUSBメモリにウィルスが入っていて、病院のコンピュータが感染したら、とんでもないことになるからだ。
プリントアウトであれば、病院でスキャンして取り込めばいい。
我々テック好きとしては、『紙』ではなく、オンラインで連携してくれれば……と思うのだが、昨今のランサムウェアなどで生じる深刻な被害を考えると、病院が神経質になるのはよくわかる。
現在のところは仕方がない。しかし、将来的に安全に共有できるようになればなぁ……とは思う。
『ヒアリングサポート』が、認知症対策にもなる可能性
目々澤先生は、先日iPhoneの発表会で発表されたAirPods Pro 2による『ヒアリングサポート』についても、大変大きな期待を寄せていらっしゃった。
老人性認知症の大きなキッカケのひとつに聴力の低下があるのだそうだ。耳から入る情報量が減ると認知症が進む原因になるという。AirPods Proの『ヒアリングチェック』『ヒアリングサポート』が有効に使われれば、聴力低下によって進行する老人性認知症の進行を遅らせることができるかもしれない。
それにしても、医師会の話題は深刻なものばかり……
こんな会議を拝聴する機会はなかなかないので、東京都医師会のほかの方の話も聞いていたが、今後の超高齢化社会到来における、医師、看護師、病床など、医療システムの不足は本当に大変なことになりそうだ。
現時点でも医療システムのキャパシティは足りていないのだが、2025年には団塊の世代が後期高齢者になり、いよいよ国民の4人に1人が後期高齢者という世界にも類を見ない超高齢化社会になるのだそうだ。専門外の話ではあるが、気の重くなる話で、Apple Watchがそういう時代の到来を少しでも遅らせてくれればなぁ……と思う。
(村上タクタ)
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