あなたの捨てたビンゴミは、ほぼすべて手作業で分別されている
美味しかったワイン、日本酒、仕事が忙しい時に飲んだエナジードリンク。みなさんは、その後のビンゴミについて思いを馳せたことはあるだろうか?
私もそうだが、多くの方は、ビンゴミの回収に出したあとのことは考えていないのではないだろうか?
一般常識として、ビンゴミは比較的リサイクルされる。燃やすゴミのように二酸化炭素を出すワケでもないし、プラスチックゴミのように有毒な成分を出すワケでもない。『ビンゴミに出せばOK』と筆者も思っていた。
しかし、ほとんどのゴミ処理場で、ビンゴミは手作業で分別しているのだそうだ。
ペットボトルは風力で飛ばして、分別する。
スチール缶は、磁力で。
アルミ缶は、過電流選別機というので選別するのだそうだ。
しかし、ビンは、再生利用するために、透明のビン、茶色のビン、他の色のビンに分けなければならない。この作業は、ほとんどの場所で人が手作業でやっているのだそうだ。
当然、ゴミだから汚いし、割れたビンも紛れ込んでいるから危険。絵に描いたような3Kの職場だ。
さらに、感染症禍の時代においては、衛生面でのリスクも大きい。
現状、取り組んで下さってる方には頭が下がる。そして、全国的に新しくこの職に就こうという人は少ないから、圧倒的人手不足に陥っており、人手が足りないから、さらに過酷になるという悪循環。
ちなみに、ビールビンのゴミは基本的にビール会社に戻っていく。そんなワケで、流れるビンはワインのボトルが想像以上に多かった。日本酒もある。また、栄養ドリンクも非常に目についた。それらのゴミは、こうやって手作業で分別されているのである。
困難だった、ビンゴミの判別をPFUが画像処理技術で解決
持てる技術力を使って、この課題に取り組もうと立ち上がったのが、ScanSnapや、HHKBで知られる我らがPFUだ。そこで、PFUで廃棄物分別特化AIエンジン『Raptor VISION BOTTLE』の開発に取り組んだ方々にオンラインでお話を聞いた。
もとより、PFUにはさまざまな新規事業に挑戦する文化がある。しかし、同時に得意分野へのフォーカスも強く、ドキュメントスキャナー分野世界トップのシェアを守り続けてもいる。
そんな中で、ドキュメントスキャナー分野で培ったAI画像処理技術を使って、ゴミ処理という社会課題を解決できるということが分かってきた。そこで、開発されたのが、この廃棄物分別特化AIエンジン『Raptor VISION BOTTLE』だ。
文字通り、『鵜の目鷹の目』で、廃棄物の分別を行うというワケだ。
ちなみに、選別だけを行い。回収は技術的に経験値の多い他社製品と組み合わせる。
機械学習(いわゆるAI。生成AIではなく、深層学習)で、ビンのデータを学習しており、認識精度は99.8%。
どうやって判別するのか?
選別は容易ではない。
透明、茶色、その他の色に分けなければならない上に、忌避品という混ぜてはいけないものがある。
割れているビンもそうだし、香水など化粧品のビンも避けなければならない。
飲料のビンを再生するためには、飲料のビンを使わなければならないらしい。化学薬品が入っていたかもしれない化粧品のビンは、飲食物のビンにリサイクルすることができないのだ。
これらを素早く判別し、高松機械工業の製造した機械にデータを送る。高松機械工業の機械は、素早くビンをピックアップし、分別していく。
過酷な仕事から人を解放し、新たな雇用を創出する
分別していった実績は、データとして蓄積されていくから、これらのデータを使って統計処理を行うこともできる。
しかし、「これまでゴミ処理場で働いていた人の職を奪うことにならないのか?」と心配する人もいるだろう。
しかし、そもそもゴミ処理場で働こうという人自体が少なくなってきているから、そうはならない。また配置転換も可能だ。
この『Raptor VISION BOTTLE』は、作業の結果が合っていたのかどうか、確認してデータの精度を上げていく「アノテーション」という作業が必要だ。将来的には、これらの作業に配置転換してもらうことを考えている。
アノテーション作業は、パソコンの前で行える作業なので、仕事環境は改善できるし、この作業は将来的にハンディキャップ人材の雇用の創出にも有効とのことだ。
画像処理技術で、サステナブルな社会の実現に貢献する
2024年は、すでに導入した東北に続き、関東、九州地区での導入に向けた交渉を行っている。
今後、日本国内でのターゲット市場として、2035年には60億円の市場を見込まれているが、適応領域を拡大していき、ビジネスをスケールさせていく予定とのこと。
PFUの廃棄物分別特化AIエンジンは、捨てられたゴミを資源に変え、サステナブルな世界を切り開いていくのである。
(村上タクタ)
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