『人の耳のあり方』を考える近年の高機能イヤフォン
近年、イヤフォンは『いい音かどうか?』に留まらず、『人間の“耳”はどうあるべきか?』ということを問うている。高級イヤフォンがひたすら良い音楽を聞かせようとしてるのに対し、アップルのAirPods Proは耳の機能を拡張しようとしている。AirPods Pro第2世代では、外の音を一度キャンセルし、音楽などイヤフォンが鳴らす音と、外部の音、両方をドライバーでもう一度鳴らして人に伝えるというようなことまで行っている。
新しくShokzが作ったOpenFitは、それとまったく真逆のアプローチ。外で聞こえる音は、耳の穴から普通に聞いて、そこに、音楽や通話の音声などイヤフォンを通して聞くべき音を追加している。
それは、これまでのイヤフォンで体験したことがないオーディオ体験だった。
風の音、鳥の声を聞きながら音楽をアドオン
’80年代、ソニーのウォークマンは『個人が音楽を選ぶ自由』を獲得したと同時に、耳にイヤフォンを突っ込み親の言うことを聞かない子供たちのための『引きこもり機』であるとの批判も受けた。時は移り、今やスピーカーで音楽を流す人の方が少数派になった感がある。
ShokzのOpenFitはここに新たな提案を行う。
『個人が音楽を選びつつ、周囲の音も聞く』という選択だ。
たとえば、街を歩く時には周囲の音を聞けた方が安全だ。また、会社で仕事中にヘッドフォンを使うことが禁止されている場合があるのは、電話を取ったり、周囲の人の呼びかけに応えたり、コミュニケーションをする必要があるからだ。
しかし、OpenFitなら、音楽を聞きつつも風が木々を揺らす音を聞いたり、鳥の声を聞いたりすることができる。世界と隔絶するのではなく、世界の音に音楽を追加することができるのだ。
また、会社で仕事中に使っていたとしても、音楽を個人的にBGMとして楽しみつつ、社内の他の人と話したりもできる。なにしろ、耳は完全に塞がれていないのだ。
使用も装着も、極めてストレスフリー
OpenFitは従来のShokzにも増してストレスフリーだ。単体の重さは8.3g±0.2gで、耳掛け式、イヤーフックにはφ0.7mmの極細形状記憶素材が使われており、超軟質素材でできているのでやわらかに耳にフィットする。イヤーフックの先の少し膨らんだ部分にバッテリーが入っており、カウンターウェイトとして機能するので、実にバランス良く耳に収まる。
インイヤータイプのイヤフォンだと、耳に合う、合わないで装着感が大きく異なったりするが、OpenFitはそもそも耳の穴に入れないのだから、その心配も少ない。
ドライバーユニットは18×11mmの楕円形というか、長丸四角型で、サイズの割に迫力のある音を提供する。従来のShokzの骨伝導システムに代わって新たなDirectPitchシステムが、際立つ高音、クリアな中音、迫力ある低音を提供するという。
実際体験してみると、10年にわたる骨伝導システムのさらに先へと進化している感じがする。音を大きくすると発生する骨伝導システム特有の皮膚をくすぐるような感じもなくなっているし、低音も実に自然で深い。また、一番の美点は中音のクリアさだろう。周りの音を遮蔽していないから、こもった感じがせずに、室内の良質なオーディオで聴いてるような自然な感じがする。
耳を塞いで外界と隔絶すると、街を歩いている他の人や、家族、同僚と『ちょっとした齟齬』が発生することがあるが、そういうことなしに、まったくストレスなく、ずっと自分だけの音楽を楽しめるのは素晴らしいことだ。
実際、使用時も『ずっと使い続けて』しまったが、単体で7時間、充電ケース併用で合計28時間の使用が可能だから、バッテリーが切れる心配はほとんどない。また、万が一そういうことがあってもわずか5分の充電で1時間バッテリー駆動が可能だ。
満員電車の中などで、自分の世界を作るのには向かない
もちろん、『世界と隔絶するために』イヤフォンを使っている人には向かないデバイスではある。満員電車、うるさ過ぎる環境で、自分の世界を構築するためには耳を閉じるタイプのイヤフォンの方が適している。これはOpenFitの優劣というより、『そういうタイプの商品ではない』ということだ。
また、OpenFitは(あたり前のことだが)耳を塞がないので、周りの音が直接耳に入ってくる。周りがうるさ過ぎると、音楽は聞こえにくくなってしまう。
音漏れについて心配する人もいると思うので、それについても触れておこう。OpenFitは極めて上手に利用者だけに音を伝えている。だから周囲の人に『シャカシャカ』した音を伝えてしまう心配はほとんどない。だが、皆無ではない。周囲の環境(静か過ぎる)や、使い方(音量が大き過ぎる)によっては、多少の音漏れを感じるかもしれない。
しかし、極めてわずかなので、多くの場合、音漏れを気にすることはないだろう。
会議にも、ジョギングにも
通話やビデオ会議にも便利だ。
在宅勤務でビデオミーティングしている時に使ってみたが、相手の声に自然に対応できるし、長時間使っても疲れない。また、別室から呼びかける家族の声も聞こえるし、宅配便が届いたのにも気付くことができた(従来、ビデオ会議中に届いた宅配便に気付かないことに困っていた)。
雑踏を歩きながら通話もしてみたが、雑踏の声や音は相手方にはほとんど聞こえないとのこと。AIコールノイズキャンセリング機能によって周囲の雑音はキャンセルされる。複数のマイクを備えるアダプティブ・ビームフォーミング機能により、口以外の場所からの音をフィルタリングしているのだそうだ。
また、イヤーフックはストレスはないが、本体が軽くホールドもしっかりしているので、ジョギング時に使ってみてもまったくズレは感じない。ちょっとした丘を駆け上がったり、飛んだり跳ねたりしてみたが大丈夫だ。本体はIP54の防水性能を持つので、汗にも耐えられる(IP54では丸洗いするのは不安。汗は絞ったタオルで拭き取りたい)。
耳を塞ぐ機械から、音を付け加える機械に
OpenFitは従来のイヤフォンとは違った種類のデバイスだ。
周りの音に音楽、もしくは通話を付け加える……とは、どういうことなのか考え直す必要がある。
周りの人と隔絶せずに、一緒にいることを楽しみながら、自分だけのBGMを獲得する。風の音、鳥の声を聞きながら、音楽や通話も楽しむ。OpenFitはそんな体験を提供してくれる。
左右セパレートタイプだし、ホールドされる感覚もないので、従来の骨伝導システムタイプのShokzよりさらに自然で、自由だ。
周囲と隔絶せずに、音楽や通話をアドオンできる。そんな新しい体験を楽しんでいただきたい。
Shokz OpenFit
(リンクはこちら)
(村上タクタ)
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