これまでいくつものクリエイター向け左手デバイスが登場してるが、『クリエイターが作ったクリエイター向け左手デバイス』として注目されているのが、『CreatorPad』だ。現在クラウドファンディングのMakuakeで公開されており、3月14日で受付は終了するが、なんとクラウドファンディングでの募集額は3月12日時点で3500%達成。稀に見る大成功となっており、いかに多くの人がこういったデバイスを必要としていたか、よくわかる。
※以下、キーキャップの色や基板のデザインなど、写真の製品は開発中のものなので、製品版とは異なる場合があります。
ショートカットやスライドバー操作を全部左手で行うCreatorPad
『⌘+Option+V』『⌘+K』『Ctrl+Shift+I』……クリエイターのみなさんは、日々、数多くのショートカットを使いこなしていらっしゃることと思う。ショートカットはもう、手に染みついているとは思うが、それでも複数のキーに指を伸ばして操作し続けるのはストレスがある。
拡大、縮小、タイムラインの移動、色の濃さや、明るさ、透明度、ブラシの太さ……画面上のスライドバーやショートカットで行うような操作も微妙な操作性を考えると、決して操作性が良いとはいえない。
そもそも、一般的なキーボードとマウスは、クリエイティブワークのために作られているワケではないのだから、それは当然だ。
そこで、『クリエイティブワークのために、ゼロから作り込まれた入力デバイスを』ということで開発されたのがこの『CreatorPad』だ。
CreatorPad
https://www.makuake.com/project/creator_pad/
Premiere Pro、DaVinci Resolve、CLIP STUDIO PAINT、Photoshop、Illustrator、Blender……など、さまざざまなアプリで使える
お話をうかがったのはいずれも、ビデオクリエイターとしてお仕事をされている神保貴行さん(左)と、小池俊樹さん(右)。日々、Adobe Premiere Pro、DaVinci Resolveなどで、ビデオ編集をされている中で、小池さんがこのデバイスのアイデアを話してみたところ。神保さんが『そんなデバイスがあれば、オレも欲しい。ぜひ一緒にそのデバイスを製品化しよう』ということになり、開発が始まったのだそうだ。
小池さんがこのアイデアを具現化できたのは、小池さんはビデオクリエイターとして仕事をすると同時に、趣味として自作キーボードに携わり、6年ぐらい前から副業として自作キーボードの設計、販売を行ってきたからだ。
日本で自作キーボードという文化が始まった極初期に作られたMint60という設計者の『ゆかり』さんといえば、「あの!」とヒザを打つ方も多いのではないだろうか?
Mint60
https://lilakey.com/products/mint60-starter
また、先日、ThunderVoltでもレポートした『天下一キーボードわいわい会』の中心人物でもある。
巨額の投資を決意して実現したCreatorPadのプラスチックボディ
とはいえ、自作キーボードマニア向けのキットを作るのと、多くは電子工作などに詳しくないであろうクリエイター向けのデバイスを作るのとでは、まったく難易度が違う。製造のしやすさと、一般の人が受け入れやすいデザインの折り合いをつけなければならない。
特に問題となるのがボディだ。
多くの自作キーボードはアクリル板を重ねてネジで留めるようなカタチとなっており、横からは基板にダイレクトに触れられてしまう。一般向けに作るとなると、プラスチックのボディが必要になる。
また、『小池さんらしさ』というところで、『親しみやすさ』『かわいらしさ』というのも大切だったとのことで「つるんとした曲面にめっちゃこだわりました」と小池さんは言う。
しかし、プラスチックボディを量産するには金型が必要だ。金型製作には数百万円の投資が必要になるので、大量に販売することが前提となる。
「資金の調達はオレがやるから、ビジネスにしよう。1000台売らなければならないのなら、売るためのマーケティングをしよう」と神保さんが言ってプラスチック成型のボディの採用が決まった。
美しい基板設計と、高品質なキースイッチ、ロータリーエンコーダー
搭載するチップはラズベリーパイPicoにも使われているRP2040。自作キーボードを作るのであれば、あるていど定番の構造があったりはするが、本機の開発のためには、RP2040を搭載するためのコンデンサー、抵抗、クロック回路、フラッシュメモリーなどを搭載するための仕組みを自分で設計する必要があったので、あらためてそういった知識も学ぶ必要があった。
基板の回路をご覧いただきたい。使いやすいキーの位置に対して、合理的な電子部品の位置、回路設計の美しさにもこだわったそうで、RP2040が斜めに搭載され、そこから滑らかな曲線を描いて広がっていく回路が美しい。
大きなジョグダイヤルを中心に、4つのつまみ、12+2+3=17のキーが設けられている。キーは静音のリニア軸(このあたりは、自作キーボードの人ならでは!)、ジョグダイヤルは1周あたり50のクリック感のある日本製の高級ロータリーエンコーダーを使用。パソコンとの接続はUSB-C接続となっており、特にドライバーなどを必要とせず、買ってきてそのまま繋ぐだけで、ある程度は使えるようになっている。
キーの割り当ては、あらかじめあるていどプリセットもされているが、REMAPというウェブサービスを使うことで、QMKファームウェアを作成し、CreatorPadのメモリーに書き込むことができる。
(fnキーのように)あるキーを押しながら別のキーを押した時にどう動作するかも設定できるから、1つのジョグダイヤル、4つのつまみ、17のキー以上の操作も割り当てることができる。
また、QMKファームウェアはレイヤー機能も用意されているから、アプリケーションによってそれぞれのキーが違う動作をするように設定することもできる。たとえが、Premiere Pro用、Photoshop用……と、それぞれ、別のキーを割り当てることもできるというワケだ。
ちなみに、ショートカットの設定はパソコンで行う必要があるが、CreatorPadはiPadでも使える。
悩ましい価格設定、補助金を申請して事業を継続
値段の設定、販売する数も、実に悩ましい部分だ。自作キーボードの時に、作ってみると製作費に予想外のお金がかかったり、在庫を抱えると倉庫代がかかったりという、経験をした。価格をギリギリに設定していると、あっという間に赤字になってしまう。
かといって市場も無視することはできない。他の片手デバイスを調べてみると3〜5万円ぐらい(もちろん上は青天井だが)のものが多いようだった。
とはいえできるだけ安価に提供したいということで、定価を3万4000円。クラウドファンディングサイト、Makuakeでの限定価格を2万9500円に設定した。
円安には大きなダメージを受けた。部品の原価などが大きく上がったからだ。なんとか現状までは計算に入れており、持ちこたえられたが、これ以上円安に振れてしまうと、通常販売時には値上げをせざるを得ないかもしれないとのこと。また、コロナ禍にも大きなダメージを受け、事業再構築補助金を申請し、なんとかプロジェクトを継続した。
色も悩みどころだった。
ガジェット類は、基本的には一番売れるのは黒だ。
しかし、小池さんは親しみやすいデバイスとして、白を基調にしたかった。
そこで、最初の生産分は白をベースとしたデザインに決めた。この最初の商品がCreatorPadのイメージを決めるからという意味もあった。
そして、クラウドファンディングの応援購入が500万円を超えたらインクブラックを、さらに1000万円を超えたらもうひとつ(たぶんトランスルーセントのボンダイブルーか、パープル)を追加する予定とのこと。すでに原稿執筆時には1780万円を達成してるので、白と黒ともう一色……の中から選べるようになるはずだ。取材時には、そのプロトタイプを見ながら検討中のタイミングだった。
1フレーム単位の操作も思いのまま
「私はキーボードマニアというワケではありませんが、日々映像編集を仕事として行っています。すでにCreatorPadをテストとして使い続けていますが、もはや手放せない仕事の道具になっています」と神保さん。
「右手をマウスに置いたまま、左手をCreatorPadにおいて大半の操作を行うことができます。ビデオ編集では、1フレーム単位の精密な操作を行ったと思ったら、大きな単位でグルリと早送りしたりすることもあります。そんな時に、このダイヤルでの操作が最適です。私はビデオ編集に使いますが、イラストレーター、マンガ家、音楽制作、3D CADなどさまざまなクリエイティブワークを行う方に便利に使ってもらえると思います」
2020年から開発をはじめ、1年かけてモックアップを作り、製品の設計が決定するまで2年。そして、2022年の12月にスタートしたクラウドファンディングが、ようやく終わろうとしている。5月頃から順次出荷が行われるはずだ。
その後は、販売サイトを立ち上げ、CreatorPadとしてのブランドを育てていく予定とのこと。
クラウドファンディングの価格で購入できるのは、3月14日まで。買うなら今しかない。
CreatorPad
https://www.makuake.com/project/creator_pad/
実際に試用してみたレポートはこちら。
(村上タクタ)
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