カヴェコが紡いできた140年の歴史
カヴェコといえば、一目でカヴェコだと分かるレトロで味わい深いデザインが魅力だ。その始まりは1883年にドイツのハイデルベルクで創業したつけペンの製造工場。徐々に万年筆の製造を開始し、ペン先を軸に収納できる「セーフティーペン(安全繰り出し式ペン)」を開発。1910~40年代には「カヴェコ スポーツ」(1912年)を代表とする数多くの名品を生み出した。ミュンヘン・オリンピック(1972年)では「カヴェコ スポーツ」が公式ペンに認定され、ドイツの一大ブランドとして君臨する。
1976年に経営破綻に陥り一旦は幕を閉じるが、1994年、熱狂的なコレクター、マイケル・グットバレット氏のh&m グットバレット社がブランドを復活。過去のモデルの復刻やカヴェコらしさ溢れるニューモデルを世に送り出してきた。同じモデルでも素材を違う種類の金属素材にするなど、多彩なラインアップを展開し、常にファンを飽きさせない製品を作り続けている。
Kaweco EBONIT Sport Set(カヴェコ エボナイト スポーツ セット)
ブランド創業140 周年を記念した限定万年筆セットが登場。1912年に販売開始した「カヴェコ スポーツ」のフォルムを継承しつつ、当時と同じくエボナイトを素材とした。ブラウンのノスタルジックな風合いが洒落ている。
140周年記念特製パッケージ
ペンは「140 YEARS」の文字が書かれた特別なパッケージに封入される。ゴールドのクリップとインクカートリッジ10色も付属する。
インクカートリッジ10色も付属
カヴェコのラインアップするインクカートリッジ全10色が、各1本ずつのセットになった。単品でも新しく発売中。税込1,430円。
玄人が好む、カヴェコの名作万年筆
歴史的なデザインを今日まで受け継いできたカヴェコの万年筆。あらゆる金属を素材としたペンは玄人だからこそ欲しくなるものだ。
AL Sport(アル スポーツ)
「スポーツ」シリーズのサイズやデザインはそのままに、アルミを素材としたモデル。重量は約21g と金属でありながらも軽量な設計なので、軽快な筆記を楽しむことができる。
万年筆:収納時約105mm・筆記時約130mm・胴軸径約13mm・重量約21g・両用式・スチールペン先M・税込11,000 円
BRASS Sport(ブラススポーツ)
本体には高級感のあるブラス(真鍮)を使用している。重量約43gは「スポーツ」シリーズ最重量。使うほどにくすみと渋みも生まれてくるので、長く愛用していきたいモデルだ。
万年筆:収納時約105mm・筆記時約130mm・胴軸径約13mm・重量約43g・両用式・スチールペン先M・税込13,200円
STEEL Sport(スチールスポーツ)
スチールは経年変化もほとんどないため、使い続けても元のエレガントな艶は消えにくい。重量約41g と適度な重みがあるので、自重でスラスラと筆記することができる。
万年筆:収納時約105mm・筆記時約130mm・胴軸径約13mm・重量約41g・両用式・スチールペン先M・税込15,400 円
Kaweco ORIGINAL 250/060(カヴェコオリジナル250/060)
八面体の本体に、50 年代のモデルをモチーフにした天冠、クリップを搭載するアルミ製の万年筆。2種類のサイズを展開していて、軸の長さやペン先の大きさで好みのモデルを選べる。
万年筆(250):収納時約126mm・本体約122mm・胴軸径約13mm・重量約26g・両用式・スチールペン先EF,F,M,B,BB・税込17,600 円
万年筆(060):収納時約126mm・本体約120mm・胴軸径約12mm・重量約23g・両用式・スチールペン先EF,F,M,B,BB・税込14,300円
LILIPUT(リリプット)
その誕生は1910 年。当時のモデルを継承したデザインの万年筆だ。無駄な装飾を可能な限り省くことで、収納時は約97mm、筆記時約125mmという小型の設計を可能にしている。
万年筆:収納時約97mm・筆記時約125mm・胴軸径約10mm・重量約10g・カートリッジ式・スチールペン先F,M
SUPRA(スプラ)
中央部分の連結パーツが付け外しでき、好みの長さに変えられる万年筆。アルミ素材で軽量な「ブラック」も新たに登場した。ヘアライン加工も施した凛々しい仕上がりになっている。
万年筆:収納時約95mm・筆記時約167mm・胴軸径約13mm・両用式・スチールペン先M
カヴェコの万年筆が纏う、時代を超越した金属の神秘(絵・文=古山浩一)
人類は金属を求めている。カヴェコは「金属人類学」の正統な継承者だ。ブラスの万年筆からは、まるで中世の道具のような神秘的な風合いを感じることができる。カヴェコこそ、古い時代から現代までの伝統と革新のカギを握る錬金術師なのではないだろうか。
1997年に赤瀬川原平氏が「金属人類学入門」という本を出した。要するに何故人間はカメラに惹かれるのかという事を書いている本で、それはカメラが金属でできていて、人間は自分に無い不変の質感、重量感に惹かれてやまないからだ、とまくしたてられている。この本を読むと共感するところも多く、つい頷いて読んでしまう。元々はアサヒカメラに1995年あたりから連載されていたもので、それをまとめたものである。
カヴェコが新しく復活した年が1994年で、レトロデザインの金属シャープペンシルが黒軸で発売された。金属の持つ重量、バランスが絶妙でこれこそ究極のペンシルだと全種類を購入した。妙に「金属人類学」と歩調のあった復活だった。同時に復刻されたのが万年筆のスポーツシリーズ。1970年代のミュンヘンオリンピックバージョンのピストン吸入式からカートリッジ式に改められ、全体のデザインも一回り大きく角ばったモダンデザインになって新生カヴェコをアピールした。材質はプラスチックで色が数種類あって僕は黒と透明軸を買った。
その翌年に、なんと無垢のブラス材から削り出されたようなスポーツ万年筆とペンシルが発売された。この時から僕のカヴェコの万年筆とペンシルはブラス素材に変わる。ブラススポーツは43gもあり、掌にすっぽり収まる。キャップを後ろに挿して握ると絶妙に安定した長さになり、軸の重さで筆圧を掛けなくてもスルスル書ける。ブラスのもたらす金属感は、ともすれば不安定に浮遊する自分を大地に戻してくれる。
そして遂に大型ペンが付いたブラスの円筒軸のスプラ万年筆が発売になる。シンプルな構造でありながら重量は50g。デザイン的に軸部分に段差を作ってある。尻軸のネジきりにキャップを挿すと全長が13㎝から16.7㎝に変わる。中軸はネジきりで連結が可能なので1個中軸3㎝を足すと全体は19.7㎝、61gに変わる。当然僕もスプラは2本購入して軸足し変化を楽しみながら使っている。
僕の常時持ち歩いているカヴェコペンケースには、ブラスの0.5ミリペンシル、スポーツ、スプラ、5.6ミリホルダーの4人組が陣取っている。皆さんも金属に囲まれた人生を。
カリグラフィーニブは絵画制作にも利用できる
カリグラフィーペンで熊の絵を描いた。黒インクで使うと強すぎるのでカラー顔料インクを使って絵を描いている。こうすると色塗りとのバランスが良い。
ニブ交換可能なのもカヴェコの美点
カヴェコはペン先交換が基本である。今回はブラス軸に1.5mm のカリグラフィー用ニブを付けてみた。カヴェコのペン先交換はペン好きの集まりでもよく話題になる。
ブラス素材だからこそ生まれる、経年変化による独特の渋み
僕は屈強のブラス派でそれも経年変化したものが好きだ。そしてよくある薄い表面だけのものは嫌で、ひんやりした金属感を味わいたい。
金属軸の心地良い重量感
金属は適度な重量感が魅力だ。カヴェコのブラス製品は重さも形も絶妙でカヴェコスポーツを手に握りこんだ感触は最高だ。
ヴィンテージモデルのクラシックな佇まい
この2本は取材のお礼に頂いたもの。右の万年筆は70年程前のモデルで、繊細な軸模様と軟らかい書き味が素晴らしい。
使い勝手に優れたスペシャルペンシル
最近のペンシルには多機能なものもあるが、シンプルで丈夫、重さとバランスが良いカヴェコペンシルが絵には最適だ。
金属素材から感じるカヴェコの神秘
ブラスのスプラやスポーツを革のケースに入れて持ち歩いていると、中世の道具を持ち歩いているような錯覚に落ちる。
【問い合わせ】
プリコ
TEL 06-6443-0039
(出典/「『趣味の文具箱』2024年1月号 Vol.68」)
TEXT /小泉翔一 PHOTO /北郷 仁、鬼澤礼門(インタビュー)
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